後日譚 第72話
ダンジョンでラルフ達と別れた俺は、エデストルで待機してくれていた副町長とボルスさんと合流し、すぐにバルバッド山へとやってきた。
一番分かりやすいスノーの気配を探りつつ、みんながいる方向に向かって進んでいくと――遠くからでもはっきりと分かる異形の姿が目に入る。
暗いのに周囲を照らしているのかと思う、真っ白で大きな体は非常に映えており、もう見慣れているはずの俺もつい見入る。
気配も強さも圧倒的にスノーの方が上なのだが、見た目のせいでインパクトはイバンの方が大きい。
「あ、あれが……アイスワイバーンなのかね。初めてみたけど、威圧感が凄まじい!」
「やっぱりドラゴンってかっこいいよな! あれを従魔にしたってんだから、クリス達はやっぱすげぇわ! ……でも、ワイバーンステーキのせいで少し変な目で見てしまうのが悲しくなる」
今の発言から、ボルスさんも俺と同じようで美味しそうという感想を抱いているのかもしれない。
不純すぎるかもしれないが、全てワイバーンステーキが美味すぎるのが悪い。
「ワイバーンステーキには絶対にしないから期待はしないでくれ」
「期待まではしてねぇよ! うまそうと思ったのは事実だがな!」
「君たちは一体なんの話をしているんだね……?」
一人だけ話の流れを掴めていない副町長が、少し困惑した様子で首を傾げた。
俺とボルスさんは特に説明することもなく、遠くからでもはっきりと分かるイバンを目印に近づいていく。
「あっ、クリス! 随分早かったな! 俺達も今さっきここに来たばかりだぜ?」
「急いで呼びに行ったからな。それに副町長とボルスさんが事前に待機してくれていた。ってことで、この人がエデストルの副町長だ」
「副町長のロバートだ。よろしく頼むよ」
副町長が名乗ったのだが……副町長の名前を初めて聞いたかもしれない。
色々と対応してもらったのに失礼だったな。
「私はヘスターです。夜中に来ていただきありがとうございます」
「俺はラルフ! よろしく!」
「ヘスターとラルフだね。それで早速本題に入りたいのだが……そのドラゴンがアイスワイバーンで間違いないかね?」
「そう! アイスワイバーンのイバン! 見た目は怖いけど、襲うようなことはない……と思う!」
ロバートは興味深そうにイバンに近づこうとしているが、本能が拒否しているのか近づけない様子。
襲わないと言われても、万が一のことが頭を過るのだろう。
「触りたいのですが、本能がこれ以上近づいてはいけないと叫んでいて近づけません。ですが……これだけ近い距離で見られるのは凄いですね。素直に感謝の気持ちしかありません」
「それで、イバンはエデストルの街の中に――」
「絶対に入れません。感謝はしていますが、それとこれとは話が別です。憧れのあった私ですら、足が震えそうなほど圧を受けていますので、一般の方のことを考えたら街に入るのを許可することはできませんね」
感動している様子だったからいけるかと思ったが、食い気味で断ってきた。
聞く前から分かってはいたが、ここまで全力で拒否されると少し悲しくなってくる。
「じゃあイバンはここでお留守番ってことになりそうなのか! もっと安全な洞窟みたいなところを探してあげないとじゃん!」
「まぁ目標にしていた五十階層に到達したし、タイミング的にも丁度良かったと思う。王都に向かっている間にイバンの噂も広まるだろうし、王都ではまた違った反応になるかもしれない」
「噂に関しましては、既に広めさせています。近日中には王国全土に届いていると思いますよ」
「それはありがたい。ゴードン、色々と動いてくれてありがとう」
「いえいえ。アイスワイバーンをこの距離で見させてもらったというだけで、仕事の対価を頂いていますからね」
それからゴードンは、イバンを少し離れた距離から観察し始めた。
触れればいいのにと思ってしまうが……無理なものは無理か。
「ボルスさんもこんな深夜まで付き合ってくれてありがとう」
「ありがとうございます。本当に毎回助けられていますね」
「気にしなくていいっての! 俺とクリス達との仲だしな! 立場が逆だったら、クリス達も俺を助けてくれるだろ?」
「まぁそれはそうだが……」
それはボルスさんだからっていうのがある。
ボルスさんは関係値が薄い状態でも助けてくれたし、やはり同じとはいえない。
「ボルスさん、何でも言ってくれ! 俺達にできることなら何でもやるぜ!」
「うーん、そうだな。とりあえずワイバーンステーキをご馳走してもらうことだな! さっきの話的に、もうそろそろエデストルを発ってしまうんだろ?」
「それはもちろん奢らせてもらう。ああ。イバンがいるから、すぐに王都へ戻る予定ではある」
「でも、前とは違って俺達は自由の身だからな! いつでもエデストルに戻って来られる!」
「なら、そんなに重く受け止めなくていいってことか! ……にしても、お前らみんなエデストルに永住してほしいわ!」
ボルスさんは本当に嬉しいことを言ってくれる。
レアルザッドにも、オックスターにも、エデストルにも住みたい。
ダンジョンにあるワープ装置みたいなのを作りたいが……難しいだろうな。
俺はそんな夢物語を考えながらも、ひとまずイバンには山で待機してもらって、俺達はエデストルに戻ることにしたのだった。
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