後日譚 第70話
ダンジョン街へと戻ってきた俺は、スノーに買ってきたメロンを与えつつ、ボルスさんが来るのを待つ。
お偉いさんとのアポを取るのは時間がかかるだろうし、長時間待つ覚悟を決めていたのだが……。
ボルスさんが姿を見せたのは、俺がダンジョン街に到着してから僅か二十分後。
この速度だけで、全力で動いてくれたのが分かる。
「クリス、待たせたな! エデストルの副町長を連れてきたぜ!」
「全然待っていないぞ。よくそんなに早く連れて来られたな」
「まぁ長い付き合いだし、副町長は基本的に暇だからな! 俺が頼めば一発よ!」
「とにかく本当にありがとう。ワイバーンステーキを楽しみにしていてくれ」
「ああ! とびきりのをご馳走してくれよな!」
「ちょっと盛り上がっているところ悪いのだが、そろそろ本題に入ってくれるかね? ボルスがあることないこと言っていたが、私も決して暇ではないのだよ」
爽やかな笑顔で親指を立てたボルスさんの後ろから、髪の薄いぽっちゃり体型のおじさんが姿を見せた。
この人がエデストルの副町長なのか。
わざわざ来てくれたありがたさはもちろんあるが、それよりもつい頭に目がいってしまう。
爆発しそうなほどの毛量のボルスさんに対し、数えられるほどしかない副町長。
年齢は恐らく同じくらいに見えるし、人生というのは色々と残酷だと思ってしまう。
「……君、何か失礼なことを考えていないかね?」
「いいや、何も考えていない。それよりも本題に入りたい」
「それは私の台詞なのだけどね。……まぁいい。ボルスから大雑把な内容は聞いているよ。ダンジョン五十階のボスである、アイスワイバーンを従魔にしたというのは本当なのかね?」
「ああ、本当だ。ちなみに俺の横にいるスノーウルフも従魔だから安心してほしい」
「アウッ!」
「スノーウルフ……? 私の知っているスノーウルフとは違いすぎる気がするのだがね」
副町長は物珍しそうにスノーを凝視し出した。
本来のスノーウルフを知っているということは、元冒険者だろうか?
今はスノーウルフかどうかに疑問を抱いてくれているようだが、スノーが従魔ではないことがバレたら非常にピンチになる。
即刻、話を戻そう。
「スノーは少し特殊な魔物なんだ。とりあえず今はスノーのことより、アイスワイバーンのことを話させてくれ」
「おっと、これはすまない。それで……そのアイスワイバーンは今どこにいるのかね」
「騒ぎになったら大変だから、五十階層のボスフロアで仲間と待機している。連れ出しても大丈夫か?」
「うーむ、今すぐには確かに騒ぎになるだろうね。……明日の朝一で、君たちのことを大々的に知らせさせてもらうよ。そうしたら目立ちはするだろうが、連れても問題はなくなるはずだ」
「エデストルにも入れることができるのか?」
「それは……アイスワイバーンの規模を見てからじゃないと何とも言えないね。従魔だと知られていたとしても、恐怖を与えてしまうようなら、残念だけど外で待機して貰うほかない」
んー。そういうことならば、やはりイバンを街の中に入れるのは難しいだろうな。
もしかしたら許可は出るかもしれないが、見た目のイカつさからして可能性は限りなく低い。
「分かった。とりあえず暗くなってからダンジョンの外に連れ出して、一時的にバルバッド山に避難させる。そこで副町長に見て貰って、街の中に入れるかの判断をしてほしい」
「ああ、その流れで大丈夫だよ」
「それと……アイスワイバーンが従魔になったことは、なるべく王国中に広まるようにしてほしい。王都にも戻る予定だし、また同じようなことをするのは避けたいからな」
「ふふふ、そこは心配いらないよ。アイスワイバーンを従魔にしたなんて情報、意図的に広めようとしなくとも冒険者伝で勝手に広まるからね」
そういうものなのか?
よく分からないが、勝手に広まってくれるなら心配しなくても大丈夫そうだ。
「なら、特に心配しなくてもいいのか。来てくれて色々と助かった。そして、よろしく頼む」
「ああ、任せてくれ。それじゃ私は早速仕事に取りかかるから失礼するよ。また深夜にダンジョンから戻ってきたら会おう」
副町長はそう告げると、エデストルへと戻って行った。
連れてきてくれたボルスさんに感謝したが、すぐに駆けつけてくれた副町長にも感謝だな。
「とりあえず話もまとまったし、大丈夫そうだな! クリスはこれからまたダンジョンに戻るんだろ?」
「ああ。四十一階層から五十階層まで戻る」
「……ん? 五十一階層に行けるじゃないのか?」
「ダンジョンの構造上、ラルフとへスターがまだダンジョンに残っているから達成扱いにはならないらしい。だから、四十一階層から五十階層まで戻らないといけない」
「知らなかったわ! てか、クリスとスノーだけで大丈……夫か! 一瞬、心配したけど、アイスワイバーンを従魔にできる冒険者なんだもんな!」
「そういうことだ。だから、ボルスさんは安心して待っていてくれ」
まぁ俺とスノーというよりかは、スノーの力だけで何とかする感じだけども。
そこまで詳細には伝えなくていいか。
「了解! ただ、くれぐれも油断し過ぎるなよ!」
「そこは分かってる。今回もまた助けられてしまった」
「そこはお互い様だ! ワイバーンステーキを奢って貰うしな!」
笑顔でそう言ってくれたボルスさん。
本当に頭が上がらない人の内の一人だな。
俺とスノーはそんなボルスさんに見送られ、再び五十階層を目指してダンジョンへと潜ったのだった。
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