後日譚 第68話
スノーがアイスワイバーンを翻弄し、ラルフが攻撃を全てシャットアウト。
その隙に俺とヘスターで攻撃を行うといった流れで、一方的な攻撃を浴びせることができている。
特にヘスターの火属性魔法は超弱点だったらしく、体を覆っていた氷も解けてしまって今は弱々しく地面に這いつくばった状態。
これ以上攻撃したら倒してしまうため、ここで攻撃は止めて再び指輪を当ててみることにする。
「これで従魔にできなかったらトドメを刺すぞ」
「仲間にする気満々だったから、トドメを刺すのが少し可哀想に思えてくるな!」
「いや、トドメを刺さないとこっちがやられるから。とりあえず指輪を当ててみる」
「クリスさん、お願いします」
俺は一人でアイスワイバーンに近づき、人さし指に嵌めた従魔の指輪をアイスワイバーンに当てた。
当て方なんかはさっきと変わらないのだが、今回はさっきまでとは明らかに様子が違う。
まず反応を見せたのはアイスワイバーンの方であり、体をくねらせながら指輪から離れようとしている。
それから今度は指輪の方が発光し始め、俺の魔力が指輪からアイスワイバーンに流れ出した。
「クリス、何か変化あったのか!? 指輪が光ってるように見えるんだけど!」
「俺の魔力がアイスワイバーンに流れている――気がする。もしかしたら従魔にできるかもしれない」
「本当ですか? ということは弱らせる……というか、アイスワイバーンよりも力が上であることを証明するのが条件だったんですかね?」
「まだ分からないけど、その可能性が高いと思う」
そんな会話をしつつも、俺はアイスワイバーンから目を逸らさずにどんな行動を取ってきても対応できるように身構える。
睨むように見つめていたのだが、魔力が吸われていくだけでアイスワイバーンは攻撃をしてこようとはしない。
……というか、攻撃されるより吸われる魔力の方がキツいかもしれない。
俺は魔法が上手く扱えないだけで、毒草のお陰で魔力量自体は常人よりも遥かに多いはずなのだが、魔力が減り過ぎて頭がクラクラとしてきた。
「ヘスター、魔力ポーションを持っているか? 持っているならすぐに渡してほしい。魔力が吸われているんだ」
「持っていますよ。すぐに渡しますね」
「ありがとう。本当に助かる」
俺はヘスターから持っている分の魔力ポーションを全て貰い、ポーションで回復させたことで何とか魔力切れにはならずに済んだ。
……が、上級魔力ポーションを四本も飲んでしまったし、従魔にするために必要な魔力量の多さに驚きを隠せない。
「光り輝いていたのが治まったな! これで従魔になったのか?」
「分からない。それよりも……うっぷ。魔力を使い過ぎて気持ちが悪過ぎる」
「大丈夫ですか? 魔力草で作ったお菓子があるので食べてください」
「ありがとう」
俺はアイスワイバーンの様子を窺う余裕もなく、ヘスターから貰ったお菓子を食べながら項垂れる。
この一戦でヘスターが持参していた魔力ポーションも使いきってしまったし、本当にギリギリだった。
これで従魔にできていなかったとしたら……流石に泣きたくなる。
「おっ、アイスワイバーンが起き上がったぞ! こ、攻撃してくるのか!?」
「アウッ!」
俺を守るようにラルフとスノーが前に立ってくれ、俺も何とかアイスワイバーンの動向を確認するため視線だけ向ける。
攻撃してきた際には、流石にトドメを刺すしかない。
動き出したアイスワイバーンを注視していると、ゆっくりと俺の下に向かって歩き出した。
先ほどまでと違って目から敵意を感じないし、動きもゆっくり歩くように近づいていることからも攻撃をしようとしている感じではない。
これはもしかして……従魔にすることに成功したのか?
「これ、攻撃の意思がないよな!? 本当に従魔になったのか?」
「何だか目が優しい気がします。……気のせいかもしれませんけど」
「俺が撫でてみる。攻撃されそうになったらラルフ頼むぞ」
「分かった! すぐ守れるように準備しておく!」
ラルフにそう言いつけ、ガンガンと響くような頭の痛さを我慢しながら、俺は敵意がないことを示して近づいていく。
向こうも恐る恐るといった感じの中、ようやく触れられる距離まで近づいた。
つい先ほどまで戦っていたため、怖さがないといえば嘘になるが……この距離でも攻撃してこないとなると、本当に攻撃の意思がないことが分かる。
俺は意を決し、アイスワイバーンに触れてみることにした。
頭を撫でるように触ると、気持ちよさそうに目を細めたアイスワイバーン。
これは――完全に従魔になったと言っていいはず。
「おお! 完全に懐いているじゃん!」
「凄いですね。指輪の力は本物だったってことですね」
「そうみたいだな。とりあえず呼びやすいように名前をつけようか。アイス……は流石にシンプル過ぎるから、イバンとかでいいか?」
俺がそう尋ねると、アイスワイバーンは小さく喉を鳴らしながら首を縦に振った――気がした。
スノーと違って言葉が分からないだろうから偶然だろうが、とにかく今日からイバンと呼ばせてもらう。
「イバン、いいじゃん! これからよろしくな!」
「よろしくお願いします」
ラルフとヘスターも俺の横に来て、イバンの頭を撫でている。
スノーだけは未だに警戒している様子だが、いずれ慣れてくれるだろう。
「こうして見ると可愛く思えてきますね」
「背中に乗せてもらいたい! ……というかさ、イバンってどうするんだ? このまま戻ったらパニックになるだろ?」
「確かに。そこまでは……考えていなかったな」
スノーはまだ何とかなる容姿をしているが、流石にアイスワイバーンは見た目がド派手過ぎる。
エデストルから少し離れているとはいえ、ここもダンジョン街として栄えているため、昼間だと大騒ぎになるのは間違いない。
「夜まで待って、とりあえずバルバッド山に避難してもらうしかない」
「そこからは事情を説明して、街の近くに居てもいいか交渉をするしかないか! 従魔にすることだけを考えて、それ以降のことが頭から抜けすぎてた!」
「王都まで連れて帰るのも大変そうだな」
「従魔と分かってもらえれば大丈夫だと思いますが、目立つのは確実ですね」
流石に考えなしだったことを反省しつつも、ワイバーンならまだギリギリなんとかなるはず。
スノーにイバンと完全に強そうな魔物を従えている訳だし、ヘスターの言う通り目立つのは確定。
目立つのが嫌いなためかなりネックだが……今はそれよりも、どう交渉するかを考えるとしよう。
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