第50話 出発
旅費を貯め終え、いよいよ明日。
俺達はラルフの怪我を治すために王都へと発つ。
今日は王都への遠征に向け、買い出しを行う予定だ。
とは言っても、レアルザッドから王都までは一日かからないし、王都はレアルザッドよりも数段栄えている。
そのため過度な買い出しをする予定はない。
「今日って何の買い物をするんだよ。もう夜だし、俺は明日に備えて早く寝たいんだけど」
「何の買い物って、王都に行くための買い物だろ。旅に必要な何かだったり、王都に行ったときに不便にならないよう色々と買っておくんだよ」
「俺はいらないと思うけどなぁ。なんか足りなければ王都で買えばいいんだし。俺達が前回行ったときなんか手ぶらだよな?」
「そうですね。……あの時は流石に足りないものだらけでしたけど」
「計画性がなさすぎるだろ。いいから文句垂れてないで買い出しするぞ」
買い物はいらないというラルフを無理やり引き連れ、裏通りで買い物を行っていく。
食料や水、持ち運び可能な日用品なんかも購入し、最後は鞄を売っている雑貨屋へとやってきた。
「もう必要な物は買い揃えただろ。ここで何をするんだ?」
「最後は二人の鞄を買おうと思ってる。あの手さげバッグは、流石にどうかと思ってたからな」
二人がこれまで使っていたのは、使い古した服を切った布切れで作ったお手製の手提げ袋のようなもの。
色合いも汚かったし臭いも大分キツかったから、買い替えるには丁度良いタイミングだと思う。
「いいんですか? 私達はあれで充分なんですけど……」
「昨日、サイズの大きいはぐれ牛鳥を狩れたから大丈夫だ」
「買い物めんどくさいとか思ってたけど……鞄は嬉しすぎる! ボロさは気にならなかったけど、臭いがちょっとアレだったから」
「やっぱり臭いと思いながら使ってたのか」
鞄を買い替えられると知り、ラルフは急に元気が戻った。
素直な奴というか、現金な奴というか……。
「結構な種類があるんだな! おお、これか。クリスが使ってる鞄じゃん」
「俺はとにかく容量の大きいやつが欲しかったから、この店で一番大きい鞄を選んだ」
「背負うタイプだし、この鞄めちゃくちゃいいよな! でも、流石に普段使いも考えると大きすぎる気がする」
「ラルフ、これなんかどう? 安価だし、肩にかけられるタイプの鞄だよ」
「あー、こっちの方がいいかもな。……でも、もう少し見てみる」
ラルフはそう言うと、他の鞄も見に行った。
ここの雑貨屋の鞄は中古だし、そこまで真剣に決めなくてもいいと思うのだが……。
裏通りで必死に生き、金に苦労した経験があるからこそ、鞄一つでも真剣に選ぶんだろうな。
「私はこれにしたいと思います。容量も大きいですし、値段も銀貨二枚と安価ですので」
「いいのか? 折角だから、もっと良いものを買ってもいいんだぞ」
「いえ、私はこれが一番良いと思いましたので大丈夫です。クリスさん、ありがとうございます」
ヘスターはさっきラルフに薦めていたやつにしたようだ。
ショルダータイプの比較的大きい鞄。
少しボロさを感じるものの、いいチョイスだとは思う。
「クリス、俺はこれがいい! 一番良いのを見つけた」
俺を呼ぶラルフの方へ向かうと、既に鞄を背負ってくるくると回る姿がそこにはあった。
俺が以前使っていた鞄の、更に小さくしたような鞄だ。
背負うタイプでサイズも丁度良い、ラルフも良い物を見つけた様子。
「いいんじゃないか? それじゃ、二人とも決まりでいいな」
「はい。大丈夫です」
「ああ、ありがとうな!」
ヘスターのは銀貨二枚、ラルフのは銀貨四枚と、想定より大分安価で収まってしまった。
この余った分の金は王都で使うとして……。
すぐに宿へと戻り、今日買った物を今日買った鞄に詰め込み、明日に向けて備えようか。
買い出しを終えた翌朝。
ラルフの足の懸念はあるものの、王都へは二人が一度徒歩で行ったことがあるため、二人の案内の下徒歩で向かうこととなっている。
レアルザッドから王都への馬車は一日に何本も出ているため、俺は馬車で行くのがいいと思っていたんだがな。
「なぁ、今からでも馬車に変えないか?」
「全然徒歩でいける距離だって。クリスは歩きたくねぇのか?」
「別にそうじゃないが、時間がもったいなくないか? 同乗者が多いから王都へは比較的安価で行けるし、金に余裕があるなら馬車でもいいと思ったんだよ」
「私前回王都へ行くってなった時に軽く調べたんですけど、馬車は三人で金貨一枚ほどでした」
「だろ? だから馬車で――」
「ですが、人を何人も乗せるので速度はあまり出ないみたいです。多分、ラルフの遅歩きの方が早いくらいだと思いますよ」
「え? そうなのか?」
「はい。馬車に乗るぐらいでしたら、一人一頭馬を借りれば早く行けると思うのですが……一日で一頭借りるのに銀貨六枚でして、滞在期間を含めたらとんでもない額になっちゃうと思います。別で餌代もかかるようですしね」
「そうだったのか。それは俺の知識不足だった」
それは知らなかった情報だ。
てっきり歩きよりは速度が出ると思っていたが、確かに二頭で引いたとしても、馬車自体の重さに加えて人と荷物の重さも上乗せされるんだもんな。
大金はたいて馬一頭借りるくらいなら、確かに歩きの方が断然いい。
いっても隣街だし、この二人とゆっくり会話できる機会だと思って歩くか。
「それじゃ歩きでいいよな! この間行った時は朝出てついたのが夕方だったけど、一回行ってるし昼過ぎにはつくと思うぞ」
「ああ、もう異論はない」
「それじゃ行きましょう! なんかワクワクしますね」
「一緒の部屋で寝泊まりはしているけど、三人で何かするってのはないもんなぁ。試験の時のゴブリン狩りと、ラウドフロッグ狩りの時について来てもらっただけでしか遠出したことないし」
本当にまだ、俺達はパーティという感じじゃないからな。
魔導書を読むのと剣術の指導以外は、俺はソロで二人はコンビで常に動いている。
そう考えると、確かにちょっとだけワクワクしてきた。
俺は初めての王都だしな。
「それじゃ、早速向かうか。忘れ物はないよな?」
「全部持ちましたし、宿屋のお金も多めに渡してきたから大丈夫です」
「よしっ! それじゃ出発だぜ!」
テンションが最高潮まで上がったラルフの号令により、俺達はレアルザッドから王都を目指して歩き始めたのだった。