後日譚 第62話
ラルフの案で宝箱を探しながら、雪山エリアを捜索すること約二時間。
戻ることを考えたら、そろそろ引き返さなくてはいけない時間なのだが……未だに宝箱を見つけることができていない。
「そろそろタイムリミットだな。また明日、攻略しながら探すとしよう」
「くっそぉー! このまま諦めたくねぇ!」
「そうは言っても、これ以上は探すだけの時間がないからね。クリスさんの言う通り今日はもう戻った方が――」
俺と同じく諦めていたへスターがそう声を掛けたその時。
俺達の少し先を進み、魔物を狩りまくっていたスノーが急に動きを止めた。
「スノー、どうしたんだ?」
「足を怪我してしまった――とかですかね?」
「うーん、そんな風には見えないけどな!」
俺達は心配しながら、立ち止まったスノーの下に駆け寄る。
一定の方向を向いたまま固まっており、体のどこかをを気にしている様子がないことからも怪我ではないと思うが……。
「スノー、大丈夫か?」
「アウッ! アウアウ!」
何かを訴えるように吠え出したスノーは、再び俺達を先導する形で進み出した。
三人で顔を見合せて首を傾げつつも、先を進むスノーの後を追う。
「何かを見つけたっていうことだよな?」
「宝箱だったりして!」
「強い魔物とかじゃないですか? 流石に宝箱を見つけるってことは――」
「アウッ!!」
またしてもヘスターの言葉の途中で、スノーは立ち止まって大きく吠えた。
俺達はスノーが見ている方向を凝視すると、九割以上埋まっていて分かりづらいが……積もっている雪の下に何かがあるのが見えた。
「何か埋まってる! やっぱり宝箱じゃね!?」
「上の部分も雪が積もっているから分かりにくいが、形状は宝箱に見えるな」
「やっぱりそうだよな! スノーはやっぱり凄いぜ!」
興奮しまくりのラルフに撫で回され、満足気に鼻を鳴らしたスノー。
この時間ギリギリで見つけたことも含めて本当に凄いな。
「三人掛かりで探していたのに、スノーが見つけてしまいましたね。嬉しい気持ちもありますが、それ以上に情けない気持ちです」
「確かにな。索敵に魔物の討伐、その上で宝箱まで見つけられたら……俺達は完全にいらない」
「せっかくスノーが宝箱を見つけてくれたのに、二人で何しんみりしてんだよ! 素直に喜んでくれた方がスノーも嬉しいよな?」
「アウッ!」
「……確かにそうだな。スノー、本当にありがとう。帰ったら最高級メロンだな」
体を擦り寄せてきたスノーを褒めてから、俺達は雪に埋もれているものの掘り出し作業へと移ることにした。
形状から宝箱と断定してしまっているが、掘り出すまでは宝箱かどうか分からない。
それに宝箱だったとしても、材質が何なのかはこの段階では分からない。
掘ってみてから分かることの方が多いため、ラルフの言う通りスノーに感謝しつつも素直に掘り出し作業を楽しむことにした。
へスターに火属性魔法で雪を溶かしてもらいつつ、俺とラルフでどんどん掘っていく。
周りを軽く掘った段階で、宝箱を一度見つけたことのあるラルフが宝箱だと断定。
それに加えて触れた感触が木材ではないことからも、金属の宝箱であることまで分かった。
「うひゃっー! 何の材質だろうな! 楽しみすぎる!」
「雪が降っているお陰で、宝箱の材質が何なのかまだ分からないのがいいな。鉄だと分かった段階で多少は萎えるからな」
「確かに! ギリギリまで分からないように掘ろうぜ!」
全員で確認したいという気持ちもあるため、宝箱についている雪には触れず、周りをどんどんと掘り進めていく。
そして、ようやく九割以上埋まっていた宝箱を取り出すことのできるぐらいまで掘ることができた。
「予想以上に時間がかかったが、これで中身を取り出せる」
「早速確認だ! ……ここからはスノーがやってくれ! まずは材質確認から!」
「異論なしです。スノーが見つけたんですからね」
「アウ」
小さく吠えた後、俺達が掘った穴に入り、後ろ足で優しく掻き出すように宝箱にかかっている雪を払い始めた。
その後ろで俺達は息を呑みながら見守り――そして、雪で隠されていた宝箱の色が見えた。
「み、見えたっ! ……て、鉄?」
「いや、鉄よりも白みがかっている気がする」
「雪で白く見える――とかじゃなくて?」
「私も白っぽく見えます。逆に雪のせいで白さが分かりにくくなっていませんか?」
「これはまだ分からねぇ! 灰色なら鉄! 白金ならプラチナ! スノー、もっと掘ってくれ!」
「アウッ!」
スノーは更にスピードを上げて雪を払い始めた。
雪のせいで判別がギリギリまでつかなかったが、上部が完全に見えたことで――。
「ぷ、プラチナだ! これはすげぇー! スノーよくやった!」
三人で手を取り合い、柄にもなく跳び跳ねて喜ぶ。
鉄とプラチナでは雲泥の差であり、これは金では買えないもののため本当に嬉しい。
「確実に白金だな! ラルフの持っている剣と完全に同じ材質」
「宝箱自体、絶対に見つからないと思っていたので本当に嬉しいです!」
「諦めずに頑張って探して良かった! ……で、この宝箱はどうする? この場で開けるか、地上まで持って帰るか!」
ラルフの問いに対し、俺とへスターは腕を組んで考える。
中身は戻ってからのお楽しみにしてもいいが、持って帰るのが非常に面倒なのが難点。
ただ……プラチナでてきた宝箱ということは、この宝箱自体にも価値がある。
ここで開けたとしても、結局持ち帰るのであれば開けずに持って帰る方がいいのかもしれない。
「また焦らすことになるが、このまま持って帰っていいかもしれない。どうせ空の宝箱も持って帰るだろ?」
「材質がプラチナですもんね。私も賛成です」
「俺も今すぐ中身を確認したいとこだけど……プラチナの宝箱ってことで今の欲は満たせているし、中身は戻ってから開けようか!」
「なら決まりだな。俺とラルフで手分けして持ち帰ろう。帰りもスノーに任せきりになるがお願いしてもいいか?」
「アウッ!」
スノーの返事を聞いたところで、俺とラルフで協力して宝箱を持ち運ぶことになった。
宝箱が重いのか、それとも中身が重いのか分からないが、見た目で予想していた三倍は重く、運ぶのに苦労したが……。
途中で休憩を挟みながら、俺達は何とか無事にダンジョンから脱出することができた。
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