後日譚 第61話
フェシリアとの模擬戦を終えた翌日から、俺達はこれまで通りダンジョン攻略を再開。
細かなものも多々あったが、フェシリアから教わったダンジョンの情報は有益なものばかりで攻略のペースは一気に上がった。
「ダンジョン攻略を開始してから、十日で四十階層突破ですね。個人的にはゆったりとしたペースの感覚なのですが、相当速いんじゃないでしょうか?」
「めちゃくちゃ速いと思うぜ! 実際に俺とスノーだけじゃこんなにサクサクと進まなかったし!」
「まぁボルスさん達は現在二十階層。【翡翠の銃弾】が二十三階層なところを考えても、相当速いペースなのは間違いないと思う」
最速攻略を行っているとかではなく、へスターの言う通りゆったりと攻略しているつもりなのだが……。
相当速いペースで四十階層まで到達している。
出現する魔物も未だに苦戦することなく倒せているし、四十階層のフロアボスである霊氷のサイクロプスですら楽に討伐できた。
ダンジョン攻略は五十階層までと決めているが、いつか五十階層以降の攻略を狙っても面白そうだ。
「……ただ、宝箱の発見率があまりに低すぎる! ダンジョンの醍醐味といったらレアドロップと宝箱なのに!」
「フェシリアが言っていたけど、宝箱は本当に完全な運らしいからな。魔物と違ってすぐに湧くわけじゃないし、他の冒険者に取られたら手に入らない。宝箱は狙わないのが探索者としてやっていく上で必要って聞いたぞ」
「それは分かっているけど一個は発見したいじゃん! 今回の滞在期間中では五十階層までだろ? それまでに絶対一個は見つけたい!」
宝箱が見たくないといえば嘘になるが、宝箱よりも優先的なのは五十階層に到達することと、誰一人として怪我なく終えること。
危険な場所にある宝箱を取りに行って死んだ冒険者は数えきれないってフェシリアは言っていたし、ラルフが鼻息荒くしているため俺は冷静でいなくてはいけない。
そう思考することで俺は俺自身を諌めつつ、四十一階層の攻略を行う。
四十一階層からはダンジョンの構造自体がガラリと変わり、雪山のような感じになっている。
原理は分からないが雪も降っているし、急に吹く突風に体が芯から冷やされる。
そんなフロアに俺達が体を縮ませている中、スノーだけは楽しそうにはしゃぎまくっていた。
「スノーは随分と楽しそうですね。山のような自然が好きな上に、寒い場所ということでテンションが上がっているのでしょうか」
「十中八九そうだろうな。寒いところが得意って羨ましい限りだ」
「いやいや! クリスも似たようなもんだろ! スキルをいっぱい持っているし、寒い場所に対応スキルだってあるだろ?」
「あっても寒いもんは寒いぞ。まぁラルフとへスターよりかはマシだろうが」
「やっぱあるんじゃん! 万能すぎてズルいぞ!」
文句を言っているラルフをいなしつつ、雪で覆われたダンジョンを進んでいく。
ここまではドロップアイテムによる勝負を行っていたのだが、四十一階層からはスノーが元気すぎるということもあり、スノーに倒せる範囲で倒してもらうことにした。
雪山のような地形だけあって氷属性の魔物が多いことから、スノーと相性の悪い魔物が多く苦戦する可能性もあると思っていたのだが……。
魔物としての格が違ったようで、まるで遊んでいるかのように楽々と倒していっている。
「寒くて環境は最悪ですが、魔物を全てスノーが倒してくれるので楽ですね」
「スノーは出会った当初から常に成長し続けているよな。前々からずっと疑ってはいたけど、絶対にスノーウルフじゃないと思う」
「オックスター近辺でスノーウルフとは何度も戦いましたが、私も確実にスノーウルフではないと思います。それか特殊個体とか、希少種的な立ち位置の可能性はありますが」
「スノーが何なのか確かに気になるけど……今考えることじゃないだろ!」
暇すぎるが故に、へスターとスノーの正体について話していたのだが、ラルフが話をぶったぎってきた。
「ラルフの言う通り今議論すべきことではないが、他にやることがないからな」
「そうです。私も黙って進むよりかは有意義だと思います」
「ダメダメ! せっかくスノーが魔物を片っ端から倒してくれているんだから、俺達は宝箱を探そうぜ! 雪のせいで見えづらいから注視すれば見つかる可能性が十分にある!」
力強く拳を握り、そう力説してきたラルフ。
宝箱をまだ諦めていなかったことに少し驚くが、確かに視界が悪いため他の冒険者が見落としている宝箱がある可能性は高い。
暇という事実は変わりないし、ここは宝箱の捜索に力をいれてもいいかもしれない。
「分かったよ。三人で手分けして宝箱を探すか。ラルフは右側でへスターは左側。俺は正面を重点的に探す――でいいか?」
「分担はいいね! それでいこう!」
「実物を見たことがないので分からないと思うんですが……探しましょうか」
「スノーは何か異変を感じたらすぐに教えてくれ」
「アウッ!」
遠くにいたスノーが吠えて返事をしたことで、俺達は宝箱探しに集中することにした。
見つかってくれればいいのだが、過度な期待はせずに捜索するとしよう。
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