第49話 僅かな情報
「いやぁ、本当に楽しみだ! やっと自由に動けるようになるんだもんな」
「しっかり動けるようになるまで、当分のリハビリは必要になると思うけどな」
「それぐらい屁でもない。ちゃんとしたパーティでの活動も楽しみなんだぜ?」
ニカッと爽やかな笑顔でそう言ってきたラルフ。
パーティとしての活動は俺も楽しみにしている。
今まではどうしても金稼ぎが主となっていて、はぐれ牛鳥ばかりを狩ることになっていたからな。
色々な強敵と戦いながら、パーティとしての戦闘経験を早く積んでいきたい。
そして力をつけたら全世界を回って、未知の効能を持っている有毒植物を集めて回る。
『植物学者オットーの放浪記』の書かれていた場所から回っていき、いずれは本にも書かれていた『スキルの実』とやらも手に入れたい。
摂取すれば死ぬ確率が高い故に、禁忌とされてきた伝説の実。
力を手に入れたい者が命を賭して食べ、そして多くの人間を死へと追いやった禁忌の実だ。
今はその魅力と危険性の高さのせいで、世界のどこかに隠されたとされているが、俺がいずれ絶対に見つけ出す。
「そういえば……ラルフ、クリスさんに何か伝える情報があるって言ってなかった?」
「ん? 伝える情報?」
俺がスキルの実についてを考えている中、ヘスターは話の流れをぶった切ってラルフに尋ねた。
ラルフはピンときていないようで、首を横に捻っているが……俺に伝えたい情報って一体なんだ?
「あっ、そうだ! 俺、さっき冒険者ギルドでクリスの弟らしき人物の噂を聞いたんだよ! 伝えようと思ってたんだけど、金貯まった嬉しさで頭から吹っ飛んでたわ」
「おい! まずそれを先に報告しろよ! それってどんな噂だ?」
ラルフから衝撃的な発言が飛び出た。
俺が家を飛び出してから半年以上が経って、初めてのクラウスについての情報だ。
どんな些細な情報だったとしても、俺にとってはかなり重要な情報。
「期待しているところ悪いが、そんな大した情報じゃねぇぞ。それに本当にその噂の人物がお前の弟であるかどうかも定かじゃない」
「前置きはいいからさっさと話せ」
「分かったよ。……依頼掲示板前で話していた冒険者が喋っていたんだけど、どうやら王都の学園に勇者候補が入学したらしい。その冒険者を捕まえて詳しいことを尋ねたんだけど、そいつらも知っているのはそのことだけで、詳しい情報は何も持っていなかった」
勇者候補が入学したという情報だけか。
確かに、それだけではクラウスかどうかすら分からない。
ただ、時期的なものも考えると、クラウスの可能性は非常に高いと思う。
隣街であるレアルザッドにも噂が流れている訳だし、王都に行けばより詳しい情報を集められるかもしれない。
「確かに断定はできないが、クラウスである可能性は高いな。王都でもクラウスの情報を集めるつもりだが、情報集めに協力してくれるか?」
「当たり前だろ。断るほど落ちぶれちゃいない」
「もちろんです。三人で手分けして集めましょう! それにしても、この情報が本当にクリスさんの弟さんでしたら、パーティを結成した時に話していたことが現実味を帯びてきましたね」
「そうだな。王都に集められた先鋭の中から、更にトップクラスの奴らとパーティを組むはずだ。ブロンズランクの魔物を狩っただけで喜んでいられない」
「……うぅ、ちょっと怖くなってきたな。一つ質問なんだが、クリスの弟が勇者候補だったとして、クリスが弟を殺したら一体どうなるんだ?」
「知らない……が、まぁ勇者を殺したとなれば反逆者扱いだろうな。下手すれば魔王なんかよりもよっぽど悪者にされるかもしれない」
「うげー。聞かなきゃ良かったぜ」
数百年ぶりの逸材で、それを国家が育てあげるのだから、もし殺したとなれば一気に国賊扱いだろう。
相手は最強な上に殺した際のメリットは一切なく、逆にとんでもないデメリットが生じる。
――ただ、それでも俺にやめるという選択肢はない。
あの時俺を殺しておけば良かったと、クラウスに後悔させてやるとペイシャの森で誓ったのだ。
「まぁ、殺しに二人を巻き込むつもりはないから安心しろ。あいつがパーティを組んでいたとしたら、パーティメンバーの足止めくらいはしてもらうかもしれないけどな」
「絶対関わるのはごめんだと思ってたけど、俺は構わないぜ。生きながらえるだけの平凡な人生を歩むより、悪役だろうがド派手に生きた方が楽しいって気づいたからな」
「私もラルフと同じです。私の魔法がどこまで上達し、そして勇者パーティに通用するのかどうか気になりますし。普通の人生を生きていたら、勇者と命を懸けて戦うなんてことはありえませんからね。一生に一度の人生です。ラルフじゃありませんが……ド派手にいきましょう!」
ラルフは若干の引き攣り笑顔、ヘスターは心の底から楽しそうに笑った。
ラルフに関しては最初から変わりないが、ヘスターは魔法を覚えて強くなってから肝まで据わってきた。
二人に心強さを感じつつ、俺はパーティを結成して初めて、この二人とパーティを組んで良かったと思えたのだった。