後日譚 第54話
ボルスさんに習う形で登録を済ませ、これでいつでもダンジョンに攻略できる状態。
ラルフを筆頭に浮き足立っている感じがあり、少し心配ではあるが低階層ならまぁ大丈夫だろう。
「ラルフ。ダンジョンに潜る前に【月影の牙】に挨拶したいんだが、【月影の牙】は基本的にどこにいるんだ?」
「いや、俺に聞かれても分からない! 夜はダンジョン街の酒場で飲んでいて、そこで次の日の予定とか決めてたから!」
「それじゃ夜まで会えないってことか?」
「みんながダンジョンに潜ってたらまず会えないな! 朝早いし、まだ潜っていない可能性も高いけど探すのは時間かかるぞ!」
早くダンジョンに潜りたいから、適当なことを言っているーーとかでもなさそうだな。
先に【月影の牙】に挨拶を済ませるつもりだったのだが、流石に今から探すのは時間が勿体ない。
「……なら、挨拶は夜にするか」
「よっしゃ! じゃあもうダンジョンに潜るんだよな!?」
「ああ。みんなが浮き足立っていることからも、先に挨拶をしておきたかったんだがな」
「最初は一階層からだし大丈夫だって! 俺とスノーはダンジョンに詳しいからな!」
ラルフだけだと心配ではあったが、スノーもラルフと共にダンジョンには潜っていた。
今回は三パーティでの合同攻略だし、慣れているスノーもいる訳だから大丈夫か。
「だな。それじゃダンジョンに行くか」
「いよっしゃ! やっとだぜ!」
「ふぅー。……緊張してきました」
「私は楽しみニャ! お宝があると良いニャ!」
「気合い充分! ガンガン攻略しようぜ!」
ラルフ、イルダ、ボルスさんのうるさい組が気合いを入れて叫び、ルディとエイミーはかなり緊張している様子。
先頭はラルフが進み、俺は最後方からダンジョンに入ることとなった。
「地下なんですね。酸素が薄いのでしょうか。息が苦しい感じがします」
「多分だが気のせいだ。ラルフぐらいはしゃがれても困るが、緊張し過ぎも駄目だぞ」
「は、はい。平常心で挑みます」
俺の前を進むルディにそう声を掛けながら階段を下り、ダンジョンの一階層へと下った。
一階層は洞窟って感じだが、地面には芝のような歩きやすい草が生えており、至るところに埋まっている発光石のお陰で明るくもある。
想像以上に進みやすいが、横幅はかなり狭いせいで列は間延びしている状態。
ダンジョン攻略でのパーティは多くて五人といっていたが、その理由がすぐに分かったな。
「三パーティ合同だと、狭すぎて前で何が起こっているのか分かりませんね」
「多い方がいいんじゃないかと思ってたけど、これは攻略になっていないな。先頭が退くこともできないし、次の階層で隊列を組み直した方がいいかもしれない」
「ですね。一パーティずつの方が絶対に安全です」
ルディとそう決めた俺は、先頭を進むラルフに階段を見つけ次第止まるように指示を出し、前で何が起こっているのか分からない状態で進み続ける。
それから狭い通路をひたすら歩いているだけで一階層の攻略が終わり、何も面白くないまま階段へと辿り着いた。
「何も面白くないニャ!」
「そうか? これぞダンジョン攻略って感じだったけど!」
「後方勢は本当に歩いてるだけだった。景色も真横しか見えないしな」
「そうだったのか? ……流石に人が多すぎたか!」
「ああ。だから、ラルフにはこうして階段前で止まってもらった。ここからは一パーティずつ進む」
そこから軽く話し合いを行い、まずはボルスさん達が二階層へと進むこととなった。
次に【翡翠の銃弾】が向かい、最後に俺達が二階層へと向かった。
俺達が最後なのは、前で何か起こってもすぐに気づくことができるから。
今回の目標は五階層であり、一階層の感じからしても大丈夫だろうが……念には念を入れる。
「結局、三人とスノーだけでの攻略か!」
「流石に大人数過ぎた。少数になってからめちゃくちゃ進みやすいし、まだ降りたばかりだけど、既にワクワクしてる」
「ただ、最後尾ってことは宝箱とかは残っていないんですよね?」
「そもそも低階層じゃ宝箱はほとんど見つからないから、前だろうが後ろだろが変わんねぇ! 魔物は高頻度で現れるしな!」
そうこう話している内に、前方から血吸い蝙蝠が近づいてきているのが見えた。
名の通り、噛みついて血を吸ってくる魔物であり、更に様々な病原菌を体内に入れてくる厄介な魔物。
ただ戦闘能力は皆無であり、一匹では怖さの欠片もない。
へスターは埃を払うような感じで【ファイアーボール】を唱え、一瞬で屠って見せた。
「群れでない限り怖くないですね」
「群れでも怖くないけどな」
「ふふ、確かにそうですね。ちなみにラルフは何階層まで攻略したの?」
「俺とスノーは最終的に二十五階層まで攻略した! 時間的な問題で二十五階層止まりだったけど、実力的には五十階層まで潜れたと思うぜ!」
俺が却下したが、実際にラルフは五十階層まで潜ろうとしていたしな。
クラウス達が五十階層まで潜れたって話も聞いていたし、今の俺達なら五十階層までは余裕だと思っても大丈夫だろう。
だからと言って、攻略ペースを上げることはしないが、低階層ではダンジョンに慣れるということに重きを置いての攻略となりそうだ。
「なら、とりあえず二十五階層まではみんなで交代で魔物を倒していこう。今回はへスターが倒したから、次に現れた魔物はラルフ。その次はスノーで最後が俺。そうしたらまたへスターに戻るって感じで」
「いいね! 公平に戦っていこう!」
「あと……ドロップアイテムの換金額で勝負しないか? スノーを除く三人で倒した魔物から落ちたドロップアイテムの換金額で勝負。一番低かった人は夜飯奢りでどうだ?」
「めちゃめちゃ面白そうじゃん!! 本当に運だけの勝負だな!」
「ギャンブルは好きではないんですが、私も構いませんよ。単調になりそうな魔物討伐が楽しくなりそうですから」
低階層の魔物では基本的に相手にならないだろうし、適当に考えたルールで勝負を行うことにした。
ドロップアイテムを落とさないこともあれば、通常のドロップアイテムとは異なるレアドロップなんてものもあるらしいため、比較的盛り上がる良い娯楽になるはずだ。
今月末に発売を予定していた本作の書籍版第二巻が発売延期となってしまいました。
お待ちしていた方には大変申し訳ございません。
発売日に関しましては七月末の予定となっております。
もしよろしければご購入頂ければ幸いです。





