後日譚 第49話
バルバッド山に着いたのだが、ボルスさんの言っていた通り、山の麓まで障気が満ちていた。
ただバハムートの障気とは違い、薄緑色をした障気であり、この障気の原因がバハムートと別であることは一目瞭然。
「凄い障気ですね。現れる魔物とかに変化はないんですか?」
「概ね同じだな! 障気時間は変わったが、魔物の強さは特に違いはない!」
「冒険者からしたら依頼が増えるからありがたいけど、一般人からしたらたまったもんじゃないだろうな」
「そうだろうが……障気がなかった期間が短いから、そこまで大きな変化はねぇな! これまで通りって感じだぜ?」
割とそんなもんなのか。
命懸けで戦って障気の元を断ったのに、特に変化がなかったというのは少し悲しい。
いやまぁ……命懸けで戦ったのは、ヴァンデッタテインを手に入れるためだったが。
「それで、まずはブルーオーガを探すところからでしょうか?」
「別に探さなくてもいいんだけどな! こうしてぶらぶらとバルバッド山を歩いているだけで楽しいし、ブルーオーガは見つかったらラッキーって感じでいいだろ!」
「ボルスは本当に適当だよね! 依頼を受けたのは私達なんだから、絶対に失敗だけはしたくないんだけど!」
「まぁ探そうと思ったらスノーが探せるからな。ボルスの言う通り、ひとまず山の中を歩こう」
「アウッ!」
スノーが一つ吠え、俺の言葉に返事した。
一度倒しているし、スノーはブルーオーガの臭いを完璧に覚えている。
索敵能力は俺とどっこいどっこいだが、スノーの索敵は五感を使っての索敵のため、『探す』という分野に関しては俺なんかよりも何百倍も優れている。
いざとなればスノーに任せればいいため、ある程度自由に行動しても大丈夫だろう。
スノーに先陣を切ってもらい、バルバッド山を歩くこと二時間。
目当てのブルーオーガとは出会えていないが、かなりの魔物と会敵した。
俺達とボルスさん達とで交互に戦闘を行っており、苦戦することなくここまで戦ってこられている。
「いやー、何度見ても三人とスノーの戦闘はすげぇな! 何よりも驚いたのは……ラルフ! なんか覚醒してねぇか?」
「流石はボルスさん! やっぱ分かる人には分かるんだな! この剣のお陰で体のキレも凄まじい!」
ラルフは自慢するように、ノーファストで購入したミスリル剣を見せびらかした。
ミスリル剣のお陰か分からないが、確かにラルフの動きは段違いでキレている。
今のラルフを見たら、タンクとは分からないぐらいアタッカーとしての動きに目覚めているからな。
最硬の冒険者でありながら、攻撃にも目覚めたら……本当に世界最強の冒険者が見えてくるかもしれない。
「私はスノーに驚いたなぁ! こんなに可愛いのにめちゃくちゃ強いよね!」
「俺もスノーに驚きましたね。従魔の凄さを初めて知りましたよ」
「従魔が凄いって言うより、確実にスノーが特別だけどな! 俺は他の従魔も見たことがあるが、人間に使役される魔物は大抵弱いから! 荷物持ちとか、攻撃役にしても遠距離攻撃がメインの魔物ばかりだぜ?」
分かってはいたが、ボルスさんの言う通りスノーはやはり特別なんだろう。
小さい時から育てたというのもあるし、そもそもスノーパンサーとは一線を画している。
まさに特別な魔物という感じだ。
「じゃあ、やっぱりスノーが凄いのか! おー、よしよし。スノーはモッフモフで可愛いなぁ」
ルパートに撫でられ、気持ち良さそうに目を細めているスノー。
圧倒的な癒し担当でもあり、索敵に攻撃役もこなせるスノーが俺達の中で最強かもしれない。
「俺達は割と通常運転だが、三人の連携にも驚いたぞ?」
「確かにな! ボルスさん一人だと割とプラチナランクか?って思う部分があるけど、ルパートさんとルーファスさんのコンビネーションは見とれるぐらい凄かった!」
「見習いたい連携攻撃でしたが、一朝一夕で身に付くものではないことも同時に分かりましたからね」
舐めていた訳ではないが、ボルスさんとルーファスとは模擬戦を行っている。
そこで二人の実力は知っていたつもりだったが、パーティでの動きとなると全くの別物。
特にルパートの指示が的確であり、ルパートが欠けたらパーティとして機能しないことは一発で分かった。
なぜボルス一人で冒険者をやっていたのか、今回の戦闘を見て即座に理解できたな。
「私達はクリス君達みたいに個々が優れている訳じゃないからね! 連携を重視する戦い方しかできないんだよ」
「そうそう! 本当は俺達だって個人の力で打開したいし、個の強さに憧れているんだぜ?」
「……いや、絶対に憧れる必要はない。今まで見た冒険者の中で――圧倒的二番目にカッコいいと思ったからな」
「――ん? やっぱり二番目かよ! ……でも、クリスに誉められるとまんざらでもねぇんだよな!」
ボルスさんには前にも同じことを言ったと思うが、他と圧倒的に大差をつけて二番目にカッコいい。
一番はアルヤジさんであり、アルヤジさんだけは誰にも越えられないからな。
「確かに……めちゃくちゃ嬉しいですね。裏表がないのは分かりますし、クリス君に誉められるのは自信になります」
「うん! 折れそうになったときは何度もあっけど、頑張ってきてよかったと思えた! クリス君ありがとね!」
「ただ、素直な感想を言っただけなんだけどな。それに……このまま連携を極めたらどうなるのか単純に気になる」
もしかしたらダイヤモンドランクに届くのではと、今日の戦闘を見た限りでは思った。
ただ懸念点としては、年齢が冒険者としてのピークを迎えていること。
どこまでやれるのか分からないけど、三人には極めるだけ極めてほしい。
「クリスが褒めてくれているし、俺達は俺達らしく連携を極めるとしようか!」
「だね! なーんかやる気も出てきた!」
「それじゃ話はこれくらいにして……ブルーオーガを倒して街に戻ろうか。スノー、探せるか?」
「アウッ!」
スノーは元気よく返事をすると、勢いよく走っていった。
実力差を考えたらブルーオーガも問題なく倒せるだろうし、サクッと倒してエデストルに戻るとしよう。
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