第48話 目標額
ラルフとヘスターがブロンズランクの依頼に着手し始めてから、約二ヶ月が経過した。
二人は一度も依頼失敗することなく、依頼を達成し続けており、ここにきてようやく戦闘職の才能が芽生えた感じがする。
冒険者内でも少しずつではあるが、二人のことについては噂になりつつあり、俺達は大々的にパーティを組んでいることを公表していないため、度々パーティやクランからの誘いが来るほどだ。
ブロンズランクといえど、やはり一度の依頼失敗もないのは注目される点のようで、青田買いのような感覚で誘われているらしい。
もちろん、二人よりも早い時期からブロンズランクへと上がり、ソロで一度の依頼失敗もない俺も噂になってはいるのだが……。
この数ヶ月間、はぐれ牛鳥狩りしか行っておらず、数日に一度はぐれ牛鳥を丸々背負って現れることから、『はぐれ牛鳥のクリス』という素直に喜べない異名がつけられてしまっている。
更に、有毒植物の採取のため、一、二週間ほど街に戻らないということもあって、俺は冒険者からは完全に変人扱い。
睨みを利かせながら歩いているような、ごっついおっさんからも避けられるというのは、嬉しさ半面悲しさ半面のなんとも言えない気持ちだ。
とまぁ、俺の噂はさておき……金集めの方は順調そのもので、目標の白金貨五枚まで残りあと金貨五枚まで迫っている。
そして俺はそのタイミングで、ペイシャの森に一週間籠っていた。
二人から、残りは私たちだけで貯めますと言ってきたため、遠慮なくペイシャの森に籠らせてもらったのだが……。
はたして白金貨五枚に到達しているのか気になるところ。
到達していれば、すぐにラルフを引き連れて王都へと向かい、ブラッドなる闇医者に手術をしてもらいに行くつもりだ。
結果を楽しみにしつつ、宿屋の部屋を開けると――二人は玄関の前で座って俺を待っていた。
「お前達何してんだよ。もしかしてずっと座って待っていたのか?」
そんな俺の問いには答える様子はなく、二人は互いの顔を見合わせ頷いてから各々言葉を発した。
「クリスさん、無事に金貨五枚貯めることができました! ここまで本当にありがとうございました!」
「本音を言うと、最初はクリスとはパーティを組まなくていいんじゃねぇかと思ってたけど……クリスとパーティを組めて本当に良かった」
「急にどうしたんだ? 俺達はまだまだ何も成してないぞ。礼をいうなら、何かを成してからにしてくれ。……こっ恥ずかしい」
「それはそうだが、お礼を言いたい気持ちになったんだから仕方ないだろ。ヘスターの魔導書だけじゃなく俺の手術費まで金を出してくれたんだ。本気で感謝しているんだよ」
珍しく真面目に感謝を告げてきたラルフ。
そのいつもと違う態度に、俺はむず痒くなってしまう。
「二人を強くさせるのは俺にとってメリットがあるからだ。本当に感謝しているなら、礼じゃなくいつか金を返してくれればいいさ」
「お金では返せない恩ですので、こうやって言葉にして伝えさせてもらっているんですよ。確かに今の私たちなら、いつかは白金貨七枚を貯めて返すことができると思います。……ですが、ほんの少し前までから考えれば、この状況がありえないんです」
「ヘスターの言った通りで――1から100にすることはできても、0を1にするのは容易なことじゃないと身を以て体感した。だからこそ、この最大限の感謝を表しているんだよ!」
二人の感謝の気持ちは伝わったが、どう返事をすればいいのか本気で困るな。
俺は苦笑いを浮かべながら頭を掻き、必死に言葉を探しながら返事をする。
「…………二人の感謝の気持ちは伝わった。その分、強くなることが俺に対しての礼だと思ってくれ。あと、まだ手術は終わっていないからな。腕が良いといっても落ちぶれた闇医者だ。怪我が完全に治るまでは気を抜くなよ」
「ああ。でも治らなかったとしても、もう俺の気持ちは折れない」
「その心構えなら良かった。もう普通に座り直してくれ」
なんとかこのむず痒い空気感を鎮めることができた。
大きく深呼吸をしてから、俺は鞄を下ろして床へと座る。
「それでクリスさん。王都へはいつ行きますか? またラルフと二人で行った方がいいのでしょうか?」
「いや、今回は俺も行くつもりだ。……日程はどうするかな。現状の俺達の手持ちはピッタリ白金貨五枚か?」
「いえ、白金貨五枚と金貨一枚ですね」
「確か、手術に必要な道具+白金貨五枚だったよな? 治療師ギルドの治療師が言っていたメタルスライムの油も必要になるかもしれないし、もう少し金を貯めてから三人で王都に向かうか」
「えっ? 今すぐに行かないのか?」
「往復の旅費が金貨一枚で済むわけないだろ。残りは自分たちで貯めさせてくれって言ってきたから、何か金策があるのかと思っていたが……。本当に白金貨五枚しか貯めていないのが悪い」
「完全に旅費のことが頭から抜けてた……。クリスに森へ行かせず、一緒に金を貯めてもらうべきだったな」
「まぁ、そう焦ることじゃない。もう手術費は貯めてあるんだからな。旅費だけならすぐに貯まる」
とりあえず数日間だけ金を稼ぎ、旅費が貯まり次第すぐに王都へと向かうことに決めた。
今回俺も王都に行くのは、クラウスについての情報を集めるため。
情報集めなんてしないでも勝手に情報が舞い込んでくるかと思っていたが、クラウスについての噂はまだレアルザッドには轟いていない。
本当に王都へ行ったのかどうかを調べるためにも、探りを入れるのはアリだと考えた。
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