後日譚 第46話
大きく口を開け、固まっているドワーフの店主。
驚きで動けないといった感じであり、口をパクパクとさせている。
「売ることはできないが、見せることはできるぞ。……見たいか?」
「み、見たい!! ぜ、ぜひ見せてくれェ!!」
怖いくらい食い気味で食いついてきたドワーフの店主。
俺はそんなドワーフの店主の前に、引き抜いたヴァンデッタテインを置いた。
「ほ、本当にヴァンデッタテインじゃねぇか……! ま、まさか生で拝める日が来るとは思っていなかった!」
「喜んでくれたなら良かった。買い物している間なら、いくらでも見てくれて構わない」
「なら、遠慮なくじーっくりと見させて貰う! その間は俺の店の商品を見てってくれ!」
店主がヴァンデッタテインをかじりつくように見ている間、俺達は店内の装備品を見せて貰うことにした。
基本的にはラルフの武器を中心に見る予定だが、何か良い装備品があれば俺も買いたい。
「おおー! 本当に安い剣までしっかりとしたものだな!」
「だろ? 前にノーファストで一番の店って情報を得て、この店に来たからな。店主は少し変わり者だが、商品は間違いない」
「私も盾を買おうかな? なんか今さらって感じがしますが、盾を持っていてもいいですよね?」
「いいと思うぞ。エデストルに行ったらダンジョンに潜りたいし、買っておいて損はしないはず」
「なら、ここで盾を買わせて頂きます!」
そういうと、ヘスターは盾の売られているところへと向かって行った。
ヘスターの方も気になるが、まずはラルフからだろう。
「それでラルフは何か買うのか?」
「迷うが……二本目の剣を持ってもいいもんなぁ! でも、エデストルの武器屋も見てみたくなる!」
「エデストルで良い剣が見つかったら、ここで買った剣を売って買えばいいんじゃないか? 出費はかさむだろうが、移動距離を考えたら悪くない選択だと思う」
「その案いいな! 売るっていうのは頭になかったわ! よし――それじゃ剣選びをしよう!」
ラルフも買うことに決めたようで、剣を選び始めた。
まぁ金は結構貯まっているからな。
王都を出る前に依頼をこなして貯めてから出発したし、オックスターでは【翡翠の銃弾】と合同で依頼もこなした。
現状でも高い剣を買うぐらいの余裕はある上に、エデストルでダンジョンに潜るなら、多少の出費も痛くない。
「ラルフ、あっちのショーケースは質の高い剣が売られているぞ」
「ショーケース? 俺が買える値段のものなのか?」
疑問を抱きながらも、ショーケースの場所まで移動し、武器を見始めたラルフ。
郡を抜いて質の高い武器を見て唸りながら、見るからに迷っている様子。
「ここのエリア凄いな! どの武器も一級品だぞ!」
「どの武器でもいいぐらいの質の武器が揃ってる。その分値段も高いけどな」
「うっひゃー! こんな値段買えないだろ!」
「ダンジョンで稼げば一応買えるぞ。そのミスリルの剣とかはどうだ?」
「うぐぐ……。くっそカッコいいし、切れ味も凄そうだ!」
なんで俺がラルフに剣を薦めているのか分からないが、正直買ってしまっていいと思う。
タンクのラルフにとっては防具が一番大事ではあるが、防具は既に揃っているし、タンクだけでは最強の冒険者にはなれない。
レオンに宣言した『最強の冒険者』を目指すなら、ここでのミスリル剣は安い買い物なはず。
「ここでミスリル剣を買ったら、ラルフだけ節約の日々になるが……最強を目指すなら必須だろ」
「――ッ! なら買う! 強くなるための出費だ!」
「ふっ、いいと思うぞ」
ラルフが購入を決めたところで、次にヘスターの方に行ってみることにした。
どうやら既に二つまで絞り混んでいるようで、皮か金属で迷っている様子。
「あっ、クリスさん。皮か金属かで迷っているんですが、どっちの方がいいと思いますかね?」
「皮の方がキングアナコンダで、金属がライトメタルか。軽さ重視なんだな」
「はい。両手杖ですし、重い盾は邪魔になるだけだと思いましたので」
「なるほど。俺は……ライトメタルの方を推したい。軽さ重視なら買い換えるのも前提で買っていいと思うし、なら値段の安いライトメタルの盾が良いはず」
「分かりました! ライトメタルの盾にします! クリスさん、助言ありがとうございます」
「アドバイスしておいてなんだが……そんな簡単に決めていいのか?」
「はい。大した額じゃありませんし、クリスさんの言うことに従っておけばまず間違いないありませんから」
えらい信用されていて、間違っていたら申し訳ないのだが……とりあえずこれで決まったか。
ドワーフの店主はまだヴァンデッタテインにかじりついているが、残念ながらタイムアップだ。
「店主。選び終わったから終了だ」
「うえっ!? も、もう選び終わったのか……!?」
「もうって、結構な時間選んでいたぞ」
「まだまだまだまだ見足らない! な、なぁ……この魔法の剣と交換はしてく――」
「無理だな。魔法の剣も魅力的だが、ヴァンデッタテインは手放せない」
「がーん……!」
あらかさまに落ち込んだドワーフの店主。
手放すにしても大金と交換がいいし、魔法の剣は必要ないからな。
「とりあえず二人が買うから勘定してくれ」
「この盾をください」
「……はい。銀貨八枚だ」
「確認お願いします」
「はい、丁度。ご購入ありがとな」
対応してくれているが、視線は俺の持っているヴァンデッタテインを向いており、未練たらたらなのが目に見えて分かる。
「俺はだが……あそこのショーケースの剣がほしい!」
「……ん? ショーケースの商品? あそこは高額なものだが大丈夫なのか?」
「ああ! もう買うって決めた!」
「おぉ……ありがとうございます! ささ、こっちに来てくれ!」
テンションがだた下がっていたのが一変、高い武器が売れたからかテンションが少し戻った。
本当に現金な店主だが、感情に素直で分かりやすいのはいい。
「くぅー、ミスリルの剣を買ってしまった……!」
「本当にありがとな! ヴァンデッタテインを手に入れられないのは本気で残念だが、伝説の剣を見せてくれた上に高額な剣まで買ってくれた! 来たのは二度目だが、もう常連と認める! いつでも来てくれ! 贔屓にするからよ!」
「ああ、ノーファストに寄った時は寄らせてもらう」
「あのぅ……その時は……またヴァンデッタテインを見せてくれるか?」
「もちろん。見せるくらいなら構わない」
「ありがとう! 本当にいつでも来てくれていいからな!」
そんな会話をしてから、俺達は『イチリュウ』を後にした。
ラルフは剣が、ヘスターは盾が手に入ったし、実りある買い物ができたと思う。
非常に満足しつつ、俺たちはノーファストの街巡りを再開したのだった。
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