後日譚 第41話
三人と一匹で向かったのは、懐かしのカーライルの森。
この森に、今の俺の全てが詰まっているといっても過言ではない。
最初は能力を強化する植物の採取から始まり、次に魔物を栄養に成長するオンガニールを使ってのスキル獲得、そしてカルロから隠れるための潜伏先として利用した本当に思い入れの強い森だ。
スノーを鍛えたのもこの森だったし、まだ小さかった頃にリスと追いかけっこしていた時が懐かしい。
「……あれ? 立ち止まってどうしたんですか?」
「いや、色々と思い出してしまってな。この森は色々な思い入れがあるんだ」
「へー。森に思い入れがあるって珍しいですね!」
「確かにそうかもしれないな。俺はスキルが特殊だったから、森に籠もらざるを得なかったっていうのもある」
「クリスさんとは全然違いますが、私もイルダと一緒に森で修行のようなものをしていました。あの頃はお転婆じゃなく、私の後ろをついてくる控えめな性格だったのを思い出します」
「控えめな性格のイルダ。……想像もつかないな」
「僕も想像できませんので、クリスさんが想像できなくても仕方ないと思います」
三人でそんな昔話をしつつ、カーライルの森を進んで行く。
今回狙う魔物は、マタンゴと暴れウルフの二種類。
マタンゴはキノコの魔物で、胞子を使って状態異常を狙ってくる厄介な魔物。
まぁ【毒無効】を持っている俺には無害な魔物であり、そもそも討伐推奨ランクがゴールドの魔物であり【毒無効】がなくとも楽に勝てる。
二種類目の暴れウルフはその名の通り、狼のような姿をした気性の荒い魔物。
スノーウルフと比べると体が一回り小さいし弱いのだが、群れで行動しているため厄介な魔物とされているのだが……こちらも討伐推奨ランクはゴールドであり、単体で見るならシルバーと非常に弱い相手。
クラウスと死闘を繰り広げた俺にとっては楽すぎる相手だが、これでもカーライルの森の中では強い部類の魔物だからな。
今回は交流を深めるための依頼であり、カーライルの森を懐かしむことも考えたらこれくらいがちょうどいいだろう。
「なんだかスノーが楽しそうですね! 僕が見る限りでは落ち着いた感じでずっと寝ていましたので、ウキウキで歩いている姿を見るのは新鮮な感じですよ!」
「森じゃなくても外に出ると基本的にウキウキだぞ。今回は思い入れのあるカーライルの森ってことで、いつも以上にウキウキだけどな」
「スノーは可愛いですね。確か、従魔って言うんですよね? どなたが魔物使いなんですか?」
エイミーから不意にそんな質問をされ、思わず下を向いてしまう。
俺達の中に魔物使いや魔物マスターはおらず、スノーは裏ルートで従魔登録をしてもらっている。
「……もしかしてですが、魔物使いがいないんですか?」
「ああ。実は裏ルートを使って従魔登録をしてもらったんだ」
「ええ!? それって駄目じゃないですか! ギルド長さんにバレたら大変ですよ!」
「いや、副ギルド長が従魔登録をしてくれた相手だ。助けた恩ってことでやってくれた」
「ま、まさかギルド長とグルだったんですね……! それにしてもギルド長が違法行為とは、流石の僕も知りませんでした!」
「まぁスノーは襲わないから安心していい。なぁ、スノー?」
「アウッ!」
人間の言葉も理解しているし、性格も非常に温厚。
狩らせるために捕まえたリスと遊んでいたぐらいだし、俺が命令しない限りはまず人を襲わない。
仲良くなった相手なら、俺が命令しようが襲わないだろうしな。
「まぁ襲われる心配はしていませんが、随分と大胆なことをしたんですね」
「……この情報を使えば、私達も従魔を見つけられますかね? ギルド長が従魔登録してくれるかもしれませんよ」
「俺が言える立場じゃないが止めておいた方がいい。バレた時に全てを投げ出せる覚悟があるならいいと思うがな」
色々と面倒くさいだろうし、慣れていない街に行くときは結構ヒヤヒヤしている。
従魔となる魔物のことを考えても、到底おすすめできる方法ではない。
「そもそも従魔自体難しいと僕は思っていますから。イルダだけで大変ですし、カルビンも扱いが難しい。エイミーもイルダと喧嘩を始めると手がつけられなくなりますから、従魔のお世話に気が回らないと思います」
「私の場合は基本的にイルダが悪いので、大変な人扱いされるのは癪ですが……まぁそうですね。クリスさんはヘスターさんの存在が大きいですよね」
「そうだな。ヘスターには大分支えられている。スノーも本当に賢いし、俺達の中じゃラルフが一番の問題児だな」
「ラルフさんは……まぁ大変そうですね」
イルダと似た雰囲気をラルフにも感じていたようで、二人は心の底から同情してくれた。
ラルフとイルダの苦労話で話に花が咲き、盛り上がってきたところだったのだが――前方から魔物の群れがやってくる気配を俺は捉えた。
「二人共、正面から何か来ている。どうする? どうやって倒す?」
「クリスさんは索敵もできるのですね。強さ的にはどんなものですか?」
「数は多いが普通に弱い反応だな」
「なら、クリスさん達の力を見せてもらってもいいでしょうか?」
「もちろん構わない。ただ、スノーだけで終わっちゃうだろうな。スノー、やっちゃっていいぞ」
「アウッ!」
スノーは短く吠えて返事をすると、正面に向かって走って行った。
やはり俺よりも早く近づいてくる魔物を見つけていたらしい。
俺達も先を走るスノーを追うと、生い茂る雑草の先に――オークの群れがいた。
オークといえば、オックスターの街から西に進んだ先にあるインデラ湿原で討伐したオークジェネラルの群れ。
これまた懐かしくもあり思い入れのある魔物だが、今回は通常種オークしか見当たらない。
当時ですらオークは楽に倒せていたため、今の強さの俺達にとっては相手にすらならない魔物。
スノーは全速力でオーク達に突っ込んで行くと、一瞬にして全てのオークを凍らせてみせた。
氷属性攻撃もいくところまできており、弱い魔物なら触れなくとも凍らせる域まで達している。
魔力を使わない分、スノーのスキルの使い勝手の良さは凄まじいな。
華もあり、美しさも兼ね備えている戦闘のため、毎度少しだけ嫉妬してしまう。
「うっわー! スノー、凄いですね! オークの群れを一瞬で倒すって……めちゃくちゃ強いじゃないですか!?」
「私よりも強いのは当たり前ですが、ルディよりも絶対に強いですよね?」
「スノーも俺達と一緒に修羅場をくぐってきたからな。並大抵の冒険者よりも強いぞ」
「可愛くて強いって最強ですね! うわー! 私、本気で従魔が欲しくなってきました」
「スノーが特別なんですよ! 僕が知っている限り、これほど強い魔物が従魔なんてありえません! 従うことなんてありませんからね!」
スノーが二人に褒められ、俺も嬉しくなってくる。
これでもまだ力の一端しか見せていないため、本気のスノーを見たら二人共に腰を抜かすかもしれないな。
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