後日譚 第30話
オックスターの街並みを懐かしみながら歩き、『旅猫屋』の前までやってきた。
相変わらずお洒落な店で、外に出されている看板には本日のおすすめの商品なんかが書かれている。
「なんか前よりもお洒落になってないか!? こんな看板なかったよな?」
「前までは店名だけだったな。ただ変わった点は看板くらいだろ」
「そうだと思います。お洒落っていうよりも懐かしいって感じですね」
確かに看板には目がいくが、変わっているところはそこまでない。
とりあえず潰れていないことに一安心しつつ、俺達は店内に入った。
扉につけられたベルが心地の良い響かせ、その音に反応したシャンテルがこちらを向いた。
どうやら品出しをしていたようだが、俺達の顔を見るなり固まった状態から一切動かない。
「久しぶりだな。元気にしていたか?」
「…………ほ、本当に本物ですか? 本当にクリスさんなんですか!?」
突然の来訪に見間違いでとでも思っていたようだが、声を聞いた瞬間に確信したようで満面の笑みを浮かべながら飛び跳ね始めた。
商品を抱えているから飛びついてはこなかったが、手に何も持っていなかったらそのままの勢いで飛びついてきたぐらいの喜びよう。
「本当に本物だ。全てが終わったから、挨拶周りのためにオックスターに戻ってきた」
「元気そうで良かったです! ずっとずーっと心配していたんですよ!! ラルフさんやヘスターさん、それからスノーも――って、スノー!! めちゃくちゃ大きくなったね!!」
後ろに控えていたスノーにまで目が向いたようで、スノーの成長ぶりに驚きを隠せていない。
ヘスターが知っているころも日に日に成長していたとはいえ、まだ抱きかかえれたぐらいの大きさだった。
今は背中に乗れるぐらいの大きさになっているし、この中にいる中で一番変化があったのはスノーだろう。
「スノーの成長は凄まじいからな! でも、性格は全然変わってないから撫でさせてくれると思うぞ!」
「えー、大丈夫かな!? 私のこと覚えているのかな!?」
シャンテルは手に抱えていた商品を置いてから恐る恐るスノーに近づき、手を伸ばしてスノーの頭を撫でた。
下手したらラルフよりは賢いし、世話をしてくれたシャンテルを忘れているはずもなく、甘えるように頭をシャンテルに擦り付けた。
「うひゃー! 大きくなっても可愛いままだ! スノー、私のこと覚えててくれたの?」
「アウッ!」
「そっかぁ! スノーも元気にしてくれてて良かったよ!」
頭を撫でるような形から、抱き着くようにして撫で回し、スノーも尻尾を振りながら喜んでいる。
「スノー、シャンテルさんと会えて良かったですね」
「うぅー、めちゃくちゃ可愛いんですけど……くさいー!」
「はっはっは、スノーを可愛がる代償だな!」
「そりゃ五日間かけてオックスターまで来た訳で、着いてからそのままこの店に来たからな。ただ、くっつかなければそこまで臭わないぞ」
「抱き合うようにくっついてます!!」
スノーの臭いに苦しんでいるシャンテルを見て笑いながら、スノーに離れるように伝えた。
非常に残念そうにしているが、風呂に入って綺麗にしたらまた可愛がってもらえるだろうし、それまで辛抱してもらうしかない。
「よし。これでひとまずは大丈夫だろう」
「お風呂に入ってから来てほしかったよぉ」
「シャンテルに会いたくてすぐに来たからな。臭いについてはおいておいて、シャンテルは……というより、オックスターも含めてどうだったんだ?」
オックスターに来たばかりの時は、お世辞にも治安の良い街とは言えなかったからな。
穏やかな人は多かったが、冒険者ギルドにはグリースのような悪者がいた。
それに魔物もかなり頻発して現れていたし、色々と大変だった思い出がある。
「私も変わりなく元気にやっていましたし、街の方も全然何ともなかったですよ! クリスさん達が去ってから、新しくプラチナランクの冒険者パーティがオックスターを拠点にしてくれたんです! 温厚な人ですし、強いので街が危険になるようなこともなかったですよ!」
「そうだったのか。シャンテルはその冒険者パーティと関わりがあるのか?」
「全然ないです! 一度だけお店に顔を見せてくれたんですが、それっきり来てくれていませんので! 温厚な性格って話は副ギルド長さんが教えてくれました!」
『旅猫屋』はシャンテルがたまに面倒くさいって点を除けばかなり良い店なのだが、その良さを知る前に寄り付かなくなってしまったのか。
冒険者ギルドに寄った際、その冒険者がいれば軽く話をしてみたいな。
それと……副ギルド長の話も久しぶりに聞いた。
今はギルド長のはずだが、シャンテルも俺達と同じように副ギルド長と呼んでいるんだな。
「副ギルド長とは未だに関係性があるのか。別に知り合いじゃなかったよな?」
「そんなことないですよ! カルロって人の情報を集めてた時、ずっと協力してくれてましたから! その時からこのお店にちょくちょく買い物に来てくれてるんです!」
「カルロの情報を集めてもらっていた時って、私達がカーライルの森に身を潜めていた時ですよね。懐かしいって気持ちもありますが、正直あまりいい思い出ではなくて、今少しだけうっとしました」
「そうか? 俺は三人で森の中での生活は楽しかったけどな! 追手がいつ来るか分からない状態は大変だったけど!」
「俺も森の中での暮らしは慣れてたから何ともなかったな」
「私も情報集めなんて、探偵になったみたいでしたので楽しかったです!」
「えー! じゃあ、あまりいい思い出ではないのは私だけなんですかね?」
全員と感覚が違っていたことが衝撃だったのか、あまりにも驚いたような声をあげたヘスターに対して全員が笑った。
まぁ女の子にとっては森での生活はしんどかっただろうし、かなり負担をかける選択をしたと俺は思っている。
逆にヘスター以外が、あの時を良い思い出として捉えてくれていることが凄いことだよな。
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