第46話 ラウドフロッグ
はぐれ牛鳥狩りと魔法、剣術訓練。
そして、時折行う植物採取。
植物採取に関しては、拠点からあまり離れずに採取していたということもあって、熊型魔物にはあの日以降一度も襲われていない。
そもそも一ヶ月間の潜伏に加えて、二度のペイシャの森で植物採取をして一度しか出会っていないのだから、遭遇確率は極めて低いのだと思う。
とりあえず俺は充実した生活を送っている中、ヘスターがボール系の魔法に続き、アロー系の魔法も完璧に習得した。
今日からは、いよいよゴブリン狩りから脱却しブロンズクエストに挑むらしく、俺は本日に限り、付き添いを行う予定となっている。
二人が受けた依頼は、西南の田畑に現れたラウドフロッグの群れの討伐。
ラウドフロッグは大声で鳴く大型のカエルのような魔物で、主な攻撃方法は高い跳躍力からの踏みつけ。
更に皮膚を覆う粘膜には微弱の毒を持っているようで、直接触れると痺れや痛みを伴うらしい。
単体で見れば大した強さを持っていないが、群れとなると若干の戦い難さがある、実にブロンズランクらしい依頼だ。
「準備は整ったか? 忘れ物はしてないよな?」
「うん、大丈夫。ラルフも作戦を忘れてないよね?」
「あ、ああ。近づいてきたラウドフロッグは俺が倒して、遠い位置にいるラウドフロッグはヘスターが倒す――だろ?」
「そう! よし、行こうか」
「…………な、なぁ。こんな単純な作戦で大丈夫なのか? 今、改めて口に出して心配になってきたぞ」
「お前ら、うだうだとうるさい。大丈夫だからとっとと行け」
「クリスには俺達の怖さが分からないんだよ!」
「早くしろ。付き添いをやめるぞ」
荷物や作戦の確認を行い、中々レアルザッドから出ようとしない二人に鞭を入れる。
俺もヘドロスライムの依頼を初めて受けた時は、若干だが緊張したから気持ちが分からんでもないが、流石にじれったい。
ヘスターが新たに覚えた魔法だけでなく、ラルフも毎日のように行っている剣術訓練のお陰でかなりの上達を果たしている。
アロー系の魔法を覚えきるまでというヘスターの要望で、今までゴブリン狩りを続けていたが……足の怪我という大きなハンデがあっても尚、既にブロンズランクの魔物なら余裕で倒せるくらいには強くなっている。
ついでにいえば今日は俺も付き添うため、どう転んでも危険に曝されることはない。
心配そうにしている二人を促し、俺達は西南方向にある田畑へと向かった。
「あれが依頼のあった田畑だな。確かにちらほらとラウドフロッグの姿が見えるな」
「本当にゴブリン以外の魔物と戦うのか……。しかも今回は人型ですらないぞ」
「ヘスターの魔法があれば余裕だ。練習通り、距離を取ってしっかり当てることを意識な」
「はい。それじゃ行ってきます」
ラルフとヘスター。
二人は横並びで田畑へと近づいていき、田畑を縄張りとしているラウドフロッグに向かっていった。
俺はその様子を少し離れて窺い、戦いぶりを観察する。
かくいう俺も、ヘスターの魔法は見たことはあるが、実戦で使えるかどうかまでは確認していない。
話によれば、ゴブリンなら一撃で倒せると言っていたし、特段心配はいらないと思っている。
ヘスターの魔法が魔物に放たれるのを楽しみにしつつ、二人とラウドフロッグが接敵するのを静かに待つ。
一匹のラウドフロッグが近づく二人に気づいたようで、地面を跳ねながら距離を縮めに来たのが分かった。
ラルフは剣を引き抜き、ヘスターは片手を前に突き出して魔法を放つ隙を狙っている。
まず先に動いたのはラウドフロッグ。
異様に長い後ろ足を限界まで溜めると、まるで空を飛んでいるかのような跳躍をみせてきた。
二人は高く跳んだラウドフロッグに目が釘付けになってしまっているが、正面からは二匹のラウドフロッグが距離を詰めてきている。
口出しはしないと決めていたが、距離を詰め切られればパニックになるのが目に見えているため、仕方なく俺は二人に指示を飛ばした。
「ヘスター、前から二匹のラウドフロッグが来ているぞ! 跳んだ奴はラルフに任せて正面の奴らを倒せ!」
「――っ! はい! 【ウィンドボール】」
俺の言葉ですぐに正面を向きなおしたヘスターは、即座に【ウィンドボール】の魔法を二匹のラウドフロッグに放った。
練習で見ていたものよりも大分小さい玉となっているが、恐らく周囲の田畑に被害をださないための配慮だろう。
両手から放たれた二つの手のひらサイズの【ウィンドボール】は、周囲の風を纏いながら距離を詰めてきたラウドフロッグへと向かっていった。
ラウドフロッグの弱点は火属性。
四元素な中では【ファイアボール】が一番効く魔法なのだが、【ファイアボール】も田畑への被害を出さないために使用できない。
周りへの被害を考え、仕方なく選択した【ウィンドボール】で、どれほどのダメージがあるのか見ものだな。
かなりの速度で飛んでくる【ウィンドボール】を回避不可と判断した二匹のラウドフロッグは、体をまん丸にさせて防御態勢を取った。
その防御態勢のラウドフロッグに、ヘスターの【ウィンドボール】は勢いそのままに突っ込んでいき――ラウドフロッグはズタズタに斬り裂かれていく。
ラウドフロッグの体液や肉片を巻き込みながら、ドス黒く染まった【ウィンドボール】は、そのまま地面にぶつかると何も存在しなかったかのように消え去った。
見るも無残な姿になって死んでいったラウドフロッグの残骸を見て、俺は思わず苦笑してしまう。
魔法の威力の高さに驚き、加えて、恐怖の心も芽生えた。
初級の魔法でこの威力だ。
ヘスターはまだ仲間だからいいが、魔法使いと対峙した際の対処法を今のうちから考えなきゃいけないと、強く感じさせられた。
「ラウドフロッグ、二匹討伐したよ」
「俺も無事に倒せたぜ」
ラウドフロッグの残骸から目を離してラルフの方を確認してみると、確かに先ほど跳躍したラウドフロッグが仰向けになって倒れている。
どうやら着地するタイミングを狙い、一撃で腹を掻っ捌いたようだ。
焦りがあったのか、かなり不格好な切り口に加えて、ラウドフロッグの体液を浴びてしまったようだが……倒せれば何の問題もないな。
俺が少し口出ししてしまったが、余裕で三匹のラウドフロッグを倒せたし、緊張も解れてここからは作業感覚で討伐できるはず。
俺の方に飛び掛かってきた奴を殺しつつ、俺は二人が討伐している様子を遠巻きに眺めたのだった。