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【完結】追放された名家の長男 ~馬鹿にされたハズレスキルで最強へと昇り詰める~  作者: 岡本剛也
8章

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後日譚 第25話


 王城を後にした俺達は、すぐに『三日月亭』に向かった。

 名前的に普通の宿屋かと思っていたが王城から近い位置にあり、驚くほどに大きく一目で高級宿屋だと分かる外観。


「ここが『三日月亭』だな。良いところの出であり、適正職業も【賢者】ともなればこんな宿屋に泊まれるんだな」

「俺達もかなり奮発して宿を取ってるけど、一泊の宿代は比べ物にならないだろうな! 一度でいいから泊まってみてぇわ!」

「依頼をガンガンこなせば泊まれるだろ。それにシャーロットにお願いすれば、融通を利かせてくれるかもしれない」

「うーん……。私はシャーロットさんに頼むのは嫌ですね。自力で稼いで泊まるのは賛成ですけど」


 豪華な造りとなっている『三日月亭』を眺めながら、三人でそんな感想を言い合う。

 俺もラルフと同じく一度くらいは泊まってみたい気持ちはあるが、今の宿屋でも十分すぎるからな。


 欲を出し過ぎてもいい事なんてないため、現状で満足できているなら現状維持が得策。

 上げた生活水準は簡単に下げられないってのはよく聞く話だ。


 そんなことを考えながら、俺を先頭に『三日月亭』の中に入った。

 外観も凄かったが、内装も驚くほどに豪華な造りだな。

 王城と比べても引けを取らないし、従業員の動き一つ見ても精錬されており、つい見入ってしまうような光景。


「これ、本当に凄いな! ……俺達、完全に場違いだよな?」

「場違いなのは王城の時から同じだ。それよりも、ミエルの居場所を聞き出すことができるかが不安だな。ここにいることは知っているが、ここまでの宿屋だと隠されそうだ」

「確かにその可能性が高いですね。シャーロットさんから紹介状でも貰っておくべきだったかもしれません」


 ここまでの宿屋だとは知らなかったし、そこまで頭が回らなかった。

 ミエルに会わせてもらえなかった場合、もう一度シャーロットに会って紹介状を書いてもらうしかない。


 二度手間だし、シャーロットも何か不機嫌だったし、すんなり部屋を教えてくれるか呼んでくれれば楽なんだが……。

 こればかりは実際に尋ねてみないと分からない。


「いらっしゃいませ。ご予約のお客様でしょうか?」

「いや、この宿屋に知り合いが泊まっているというのを聞いて、会いにやってきたんだが部屋を教えてもらうことはできるか?」

「申し訳ございません。お部屋を案内することはできかねます」

「なら、呼んできてもらうだけでいい。直接会うことができれば、向こうは俺を知っているからな」

「申し訳ございませんが、個人情報をお教えすることはできませんので、そちらのご要望も難しいですね」


 予想通りと言うべきか、話を聞いてくれる気配がまるでない。

 こうなったらシャーロットの名前を出すしかないな。


「言いたくなかったが、俺はこの国の王女であるシャーロット様の使いできている。ミエルという人物が泊まっているだろ? シャーロット様とのやり取りは何度か行っているはずだ」


 嘘でしかないが、実際にシャーロットと関わりがあったようで、露骨に動揺し始めた受付の女性。

 このままゴリ押せばなんとかなりそうだな。


「シャーロット様からの紹介文をこれから取りに行くこともできるが……シャーロット様はすぐに会ってきてほしいと俺に頼んだ。どう判断するかはお前に全て任せる」

「…………分かりました。すぐにミエル様をお呼び致します。あなたのお名前だけお伺いしてもよろしいですか?」

「クリスだ。クリスが来たと言えば、ミエルはすぐに来ると思う」

「分かりました。少々お待ちください」


 半分脅しているような感じなったが、時間は有限だからな。

 プレゼントを渡すだけなのに無駄な時間は使ってられないし、ここは少々強引な手を使わせてもらった。


「クリス……相当汚い手を使ったな! 受付嬢の表情が完全に固まってたぞ!」

「紹介状を書いてもらって、またこの宿屋まで戻ってくるのは面倒だからな。シャーロットとミエルの知り合いなのは嘘じゃないしいいだろ」


 それから三人で雑談しながら待っていると、先ほどの受付嬢に連れられたミエルがやってきた。

 表情はムスッとしているが、口角は若干上がっているし嫌がってはいないと思う。


「本当にクリスだ。……三人共、しぶとく生き残ったんだ」

「お陰様でクラウスとの決着はついた。ミエルにも世話になったから報告も兼ねて尋ねて来た」

「ふーん。なら、そこのテーブルで少し話そう。何があったのか、色々と聞きたいことがあるし」


 受付嬢に許可を取り、フロントに備え付けてある席について話を行うことにした。

 内容に関しては既に色々な人に話した内容のため、慣れた感じで何があったのかを事細かにミエルに伝えることができた。


「ふーん、なるほどね。話を聞いて本当に行かなくて良かったと思ったわ」

「ミエルがいてくれたら、死闘を強いられることはなかったんだけどな」

「そうそう! ミエルがいてくれたらもう少し楽だったはず!」

「だとしても絶対に嫌よ。まぁとにかくお疲れ様。クリスがクラウスを倒してくれて助かったわ。これで私の序列が上がるからさ」

「空いた席につくってことか。クラウスに見限られて、落ちるところまで落ちてたんだよもんな」

「ええ、誰かさんのせいでね」


 忘れかけていたが、俺の手紙のせいで仲違いしたのだった。

 急に襲ってきたミエルが悪いとは言え、まぁ少しだけ悪いことをしたな。


「何度も言うが、ミエルが俺を襲っていなかったら――ってもうこの話はいいか。それよりも今日は礼だけじゃなく、プレゼントも持ってきたんだ。大したものじゃないが受け取ってくれ」


 このまま互いに責め合うことになりそうだったため、話を無理やり変えてミエルにプレゼントを渡した。


「黒いブローチと……黒い袋? 中に何が入っているの?」

「その袋の中には魔力を操作しやすくなる薬が入っている。効果のほどは分からないが、店主によれば効果は抜群とのことらしいから試してみてくれ」

「この袋が怪しすぎて飲むのも嫌なのだけど、せっかくだし一度くらいは試してみるわ」

「試したら感想を聞かせてくれ。効果が気になるからな」

「試していないのものを渡したの? ちょっと神経を疑うんだけど」

「まぁ多分大丈夫だから安心してくれ。それと黒いブローチにも効果があって、身に着けていると自身の魔力を隠すことができる。変装魔法に持ってこいだろ?」

「へぇー……。こっちのブローチはかなり嬉しいかも」


 魔力操作がしやすくなる薬は微妙な反応だったが、ブローチの方は喜んでくれたようで口角が上がっている。

 おばあさんに薦められるがまま買って良かったな。



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