後日譚 第22話
翌日。
今日から早速プレゼントを配って回るつもりでいる。
まずは王都にいる人物にプレゼントを配り、次にレアルザッドへ行って、その次にオックスター。
それからノーファストに向かい、最後はエデストルに行って王都に戻ってくるというルート。
特に日数は決めておらず、ゆっくりと旅をする感覚で報告をするつもり。
ちなみに俺、ヘスター、ラルフ、スノーでのパーティは、このお礼参りが終わった段階で解散する予定だ。
昨日、奴隷を解放することに対して完全に気持ちを固めたため、お礼参り後は一人で動く。
パーティとして行動するのは最後——とまでは言わないが、しばらくは一緒に行動できなくなるため、このお礼参りの旅は噛み絞めるように行うつもり。
「ふぁーあ。クリス、おはよう。今日も随分と早起きしたんだな」
「今日から買ったプレゼントを渡して回るつもりだからな。俺は個人的にお世話になっている人物の下に行ってくる。すぐに帰ってくるから、ラルフはヘスターと一緒にルパートへの栄養剤を買ってきてくれ」
「栄養剤、もう買うのかよ! 今買って腐らないのか?」
「栄養剤は多分大丈夫だ。ルーファスへの甘い物は、ノーファストで買う予定だから買わなくていいからな」
「なら、ルパートさんへのプレゼントもノーファストでいいだろ! シャンテルがいるし、とびきり良い栄養剤を作ってくれそうじゃん!」
正直、その考えもあったのだが……良い栄養剤がなかった時のことを考えて、購入しておいて損はないはず。
「とにかく買っておいてくれ。『旅猫屋』に良い物があれば、そっちに買い替えればいいだろ?」
「まぁそれもそうか! ちなみに金はどうするんだ? もうかなり少なくなってきたぞ!」
「王都を出発する前に手頃な依頼をこなそう。今の俺達なら短い期間でガンガン稼げるだろ」
「んー、じゃあ今から準備して買ってくる!」
「ああ、頼んだ」
渋々ながらも頷いたラルフと別れ、俺は昨日に引き続き一人で宿を出た。
今日の予定としては教会に向かい、グラハムと会って色々と報告を行いつつ、昨日購入したタリスマンを渡す。
それから出発前に借りたロザリオを返さないといけない。
思えばグラハムへの報告が遅くなっているし、俺は早足で教会に向けて歩を進めた。
いつ見ても神秘的な外観の教会。
レアルザッドの教会も中々だったが、これまで訪れた街の教会で一番金がかかっているであろう王都の教会。
そんなこともあってか、まだ朝早いのにかなりの信者が教会の中にいた。
オックスターの教会なら人もいないし、何の気ないに神父に会うことができるんだけどな。
そんなことを考えながら、グラハムを探したのだが見つからない。
この人がたくさんいる中で会話するのも嫌だし、ひとまず能力判別部屋に向かうとしよう。
祈りを捧げている人達の横を素通りし、俺は奥にある能力判別部屋へと向かう。
神秘的な教会の中で、唯一神秘的ではない部屋。
手入れや掃除も行き届いていない一室にポツンと置かれた椅子に腰かけ、目の前に置いてある少し錆びたベルを鳴らす。
錆びてはいるが心地よい音を鳴らし、そして数分ほどで奥からシスターがやってきた。
ドレークと話していたプリシラと呼ばれていた老婆のシスターだ。
威厳があり、オーラのようなものが漂っているように思える。
「お前さんは……ドレークと一緒におった奴か。能力判別をしにきたのかい?」
「いや、この教会に勤めているグラハムと言う名の神父に用があってきた。もしいるならクリスが来たと伝えてくれれば、グラハムに伝わると思う」
「…………分かった。すぐに呼んでくるよ」
プリシラはそう言うと、入って来た扉から戻って行った。
あの反応から考えるに、恐らくグラハムは教会にいるはず。
グラハムが来るまでしばらく待っていると、グラハムが扉を開けて中に入って来た。
顔立ちが整っている上に清潔感があるため、こんな埃っぽい部屋でも映える姿をしている。
「本当にクリスさんだったんですね。また会えて良かったです」
「色々と心配をかけたな。少し前には戻ってきていたんだが、報告が遅くなって申し訳ない」
「大丈夫ですよ。色々と大変だったでしょうし、私への気は使わないでください」
優しい笑顔でそう答えてくれたグラハム。
俺が女だったら確実に好きになっていたと思うほど、教会という背景と相まって絵になっている笑顔だ。
「とりあえず、まずは借りたものを返させてもらう。このロザリオだが、枢機卿との戦闘で役に立った。貸してくれて本当に助かったよ」
「やはり枢機卿はその場にいたんですね。安否なんかは分かりますか?」
「司教から聞いていないのか? 司教だけは逃がしたんだが……」
帰りの道中に司教はおらず、てっきり戻っているものばかりと思っていたが、この様子じゃどこからへ逃げたのだろう。
情報を話させるために生かしたのに、これでは完全に生かし損だな。
「司教は戻ってきてないですね。枢機卿含めて捜索願いを出しています」
「そうなのか。ちなみにだが枢機卿は俺が殺した。司教は逃がしたから、いずれ見つかると思う」
「そうだったんですね。決着もついたのですか?」
「ああ。全ての決着をつけてきた。それで色々と世話になったお礼でグラハムに渡したいものがある」
本当に軽く報告をしてから、昨日購入したタリスマンをテーブルの上に置いたロザリオの横に置いた。
喜んでくれるか分からなかったが、表情を見る限りでは嬉しそうにしているように見える。
「タリスマンですか? ありがとうございます! クリスさんからプレゼントを頂けるなんて思ってもなかったので嬉しいですよ。ほとんど何もできていないのにすいません」
「いや、このロザリオや情報がなければ決着をつけることができていなかった。グラハムには本当に感謝している。特殊な効果が付いているタリスマンだから、実際に身に着けてくれると嬉しい」
「そうなんですね。早速身に着けさせてもらいます」
ロザリオはポケットに押し込み、俺がプレゼントしたタリスマンを首にかけてくれた。
サイズ感もピッタリで、アクセサリーとしては少しダサいかもしれないと思ったが、グラハムが身に着けている分には似合っている。
満足そうにしてくれているし、タリスマンをプレゼントとして選んで良かった。
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