後日譚 第14話
席に通され、それからメニュー表を見てみたが、正直何がなんだか分からない。
どんな魚が良いのかさっぱり分からないため、ここは自分達で選ばずにおすすめのものを頼むのが得策なはず。
「クリス、一体何を頼むんだ? 何か良い料理はあるのか?」
「特にない。店名は教えてもらったけど、おすすめの料理までは聞いていないからな」
「んだそれ! 本当に大丈夫なのかよ!」
「従業員のおすすめのものを頼もう。まず間違いない料理が来るはずだ」
「異論はないが、生魚は本当に怖い! 明日、全員トイレから出られなくなるかもな!」
「そういうこと言わないでよ。そんな店がこんなに繁盛している訳ないじゃん」
ネガティブなことばかりを言うラルフをヘスターが叱り、俺は気にせず従業員を呼ぶ。
ベルを鳴らしてしばらく待っていると、先ほど席まで案内してくれた従業員が注文を受けに戻ってきた。
「お待たせ致しました。ご注文はお決まりでしょうか?」
「実は決まっていないんだが、おすすめのメニューとかって教えてもらえるか? 初めてきて、何が良いのかさっぱり分からないんだ」
「それでしたら“おまかせ”と言って頂ければ、おすすめのものをお持ち致しますよ」
「そうなのか。それじゃ……“おまかせ”を三人前頼みたい」
「かしこまりました。それではお待ちください」
注文を受けた店員は深々と頭を下げてから立ち去って行った。
ラルフではないが、全て任せるというのは少しだけ怖いものがある。
「一体何が出てくるんだろうな! 生きた魚がそのまま出てきたりして!」
「そんなの出てこないでしょ。ちゃんと切られた新鮮なお魚が出てきますよ」
「腹を壊したとしても美味い料理だったら許せるから、俺はとびきり美味しい料理が食べたい」
「俺はとびきり美味かったとしても腹は壊したくない!」
それからどんな料理が出てくるか、ラルフとあーだこーだ言いながら待っていると、ようやく料理が運ばれてきた。
皿からは魚の頭と尻尾がはみ出ており、一瞬本当に生きた魚がそのまま出てきたかと思ったが……よく見てみれば、身の部分はしっかりと切られている。
「お待たせいたしました。こちらはヒョウモンサカダイというお魚の刺身になります。こちらの調味料につけてお召し上がりください」
皿に乗っている頭は割りとグロテスクで、尾の部分のとげとげで決してうまそうな魚には見えない。
ただ、身の部分は半透明な綺麗な身。
油が乗っているのが分かり、本当に美味しそうな色合いをしている。
この身を見れば新鮮なのも丸わかりだし、生で食べても恐らく腹を壊すことはない。
「生なのに……めちゃくちゃ美味そう!」
「だから言っただろ。一等地に店を構えていて、客も多く入っているんだから変なものはでない」
「で、でもよ、食べてみないとまだ分からない! まずはクリスが毒見してくれ!」
「もちろん食べる。あと毒味って表現やめろ」
よだれを垂らしながらもまだ疑っているラルフ。
そんなラルフに注意しつつも、俺は出された刺身を黒い調味料につけてから口の中に放り込んだ。
身は柔らかくねっとりした感じの食感。
味はほんのりと甘いながらも調味料との相性が抜群によく、あっという間に口の中から消えていった。
あまりの美味しさに頬が緩んでしまうが、こればかりは仕方がない。
すぐにもう一切れ取り、再び口の中へと放り込んだが――やはり何度食べても美味しすぎる。
「……おいっ! 味の感想を教えてくれ!」
「最っ高に美味いぞ。ラルフがいらないなら俺が食べる」
「絶対にあげない! 俺も早速一口もらう——って、うまっ! なんだこれ!」
「本当に美味しいですね。生魚がこんなにも美味しいなんて思わなかったです」
一口目の感想だけを伝え合った後は、三人とも無言でひたすらヒョウモンサカダイの刺身を食べた。
予想の遥か上を行く味に既に大満足だが、これはまだ一品目。
刺身を食べたばかりだが、次の料理が早く食べたくて仕方がない。
「本気で驚いたな! 焼き魚はそんな好きじゃなかったけど、生魚は肉よりもうまいかもしれない!」
「ワイバーンステーキも別格だったが、この刺身も同じくらいの衝撃があった。散々文句を垂れていたが、この店に来て正解だっただろ?」
「大正解もいいところ! これなら腹を壊しても文句はない!」
「だから腹は壊さないって。ラルフは声が大きいんだから、あんまり失礼なことを言わないでよ」
ヘスターがラルフを注意している中、早速二品目が運ばれてきた。
次は先ほどのような刺身が切られ、一口大のご飯の上に乗っけられている料理。
さっきまでは少しだけ抵抗感があったのに、今は早く食べたくて仕方がないのだから凄い。
「こちらはお寿司という料理になります。様々なお魚の刺身で作られていますので、色々な味を楽しむことができます」
「これもこの調味料につけて食べるのか?」
「そうですね。お塩で頂くこともできるのですが、そちらの調味料につけて食べられるといいと思います」
従業員の説明を聞いてから、俺はすぐに寿司を手で掴んで口の中に入れる。
――やはり美味い! さっきの刺身も美味しかったが、何か物足らなかった部分を米が補っている感じがする。
「くぁー! 刺身も美味かったが寿司も美味い! この店、本当に最高だな!」
「ラルフは本当に現金ですね。ただ……最高に美味しいのは同意です。お寿司の方が私は好きですね」
「俺も寿司の方が好きだな。刺身は刺身でいいんだが、米との相性が抜群に良い」
初めて食べる生魚の料理に感想言い合いながら、俺達は最高の料理を堪能した。
その後に出てきた料理も本当に全て美味しく、また絶対に訪れることを心の中で誓ったのだった。





