後日譚 第6話
当たり前だがシャーロットはドレークの顔を知っているようで、ドレークもシャーロットの顔を知っている様子。
一瞬だけ雰囲気がピリついたことから、クラウスのパーティとシャーロットが本当に仲が良くなかったことが窺い知れた。
「ドレーク……久しぶりね」
「シャーロット様、お久しぶりです」
「ドレークもシャーロット相手にはそんな口調なんだな」
「……当たり前だろ。この国の王女様だぞ」
礼儀というものがありながらも、敵対していたというのはよく分からない。
まぁ表面上だけと考えるのが普通か。
「ここに連れて来たのはドレークだけなの?」
「ああ。他の連中はエリファス以外全員殺してしまった」
「エリファスも生きているのね」
「いや、エリファスも死んでいる」
「……? ちょっとよく分からないわ。何があったか詳しく話してくれるかしら?」
「そのためにわざわざ王城までやってきたからな。俺とドレークとで、何があったのかを話させてもらう」
それからシャーロットに『フォロ・ニーム』で何があったのかを一から十まで丁寧に説明した。
枢機卿や王国騎士団の副団長の件。
エリファスのことについてもキッチリと説明し、約三十分ほどかけて全て話した。
「なるほどね。予想していた以上に大変だったようね」
「今すぐに宿屋に戻って眠りたいくらいの死闘だった。今の説明で理解はしてくれたか?」
「ええ、しっかりと理解できたわ。クラウス含む、今回の死者については全面的に任せてくれて大丈夫よ。何かしらの理由をつけて世間に公表するから」
「それは助かる。剣神殺しとして世間に出回ったら、俺達はこの国で生きていけないからな」
一番心配していた後処理をキッチリとシャーロットが行ってくれるということで、とりあえずは一安心。
後は宿屋に戻ってぐっすりと眠り、体が全快した時には全てが丸く収まってくれていたら最高だな。
「私からシャーロット様に一つ質問してもよろしいですか?」
「もちろん構わないわ」
「私の処遇はどうなるのでしょうか? ……死刑でしょうか?」
「ふふっ、今更殺すなんてことはしないわ。ラルフに恨みを買うことになるでしょうしね。ドレークには、クラウスの代わりとして動いてもらうつもりよ」
「クラウスの代わり――ですか?」
「まずはクラウスが死んだ内容についての隠蔽に協力してもらうわ。その次は、魔王の討伐に動いてもらうつもり」
「隠蔽については協力致しますが、魔王の討伐を私が行うのですか? ……一人ででしょうか?」
ここで一人で魔王の討伐に行けと命令したら、それは実質の死刑宣告。
ドレークの額には汗が滲んでいたが、ラルフとの関係があることからそれを命令することはありえない。
「パーティについては、ドレークが自分で決めていいわ。その代わり、王国の鎧を身に着けて動いてもらうから」
「……ありがとうございます。今後はシャーロット様の下で動けばよろしいのですね」
「ええ。そうすればあなたの家族も幸せに暮らすことができるわよ。クラウスの監視下から外れた訳だからね」
俺が完全に蚊帳の外で話が進んでいるが、なんとなく話の内容は理解できる。
やはりというべきか、ドレークは家族を人質のような形で取られて、クラウスに従っていた。
その家族を解放したから、今度はシャーロットの下で働きなさいと言われているのだろう。
「勝手に話が進んでいるが、ドレークは俺が捕まえた人間だぞ。そっちだけで決められても困る」
「ドレークについて何か要求でもあるのかしら?」
「要求ってほどではないが、ドレークについては俺の方で一度預からせてほしい」
「パーティに加えるの?」
「それもまだ分からない。何も決めていないから、これから今後について話すつもりでいる。その話し合いによってはあり得るかもしれないってぐらいだ」
パーティを組んだ目的はクラウスへの復讐を果たすこと。
その目的が達成した今、今後どうなるかは一切決まっていない。
俺はこの国に蔓延っている奴隷文化をぶっ壊したいとは大雑把に考えているが、まずはレアルザッド、オックスター、エデストルへと回って、お世話になって人物への挨拶を兼ねて恩返しをするのが先。
お礼参りを行う間に、みんなで今後についてをじっくりと話すつもりではいる。
「分かったわ。ドレークについてはクリスに全てを任せる。その代わり、情報の隠蔽だけは確実に手伝ってもらうから。ドレークも大丈夫よね?」
「先ほども答えさせて頂きましたが、もちろん協力させてもらいます」
「これで交渉は成立。詳しい指示については追って連絡するわ」
「分かりました。お待ちしております」
シャーロットに対し、深々と頭を下げたドレーク。
それからドレークには一度席を外してもらい、俺とシャーロットの二人きりとなった。
「いやぁ、クリスが現れた時は本当に驚いたわ。ドレークを連れていたから、一瞬クラウスに見えたぐらいよ」
「俺が倒せるとは思っていなかったようだな」
「別にそんなことはないわ。信じていたけど……いえ、クラウスの実力を私は間近で見ていたから、心のどこかでは無理と思っていたのかもしれないわね」
ドレスに酷い皺がついてしまうような雑な寝方でベッドに横になったシャーロット。
何もない天井を見つめており、クラウスについてやはり何かしら思うところがあるようだ。
「……本当は自分で殺したかったとかあるのか?」
「殺したいというか、越えたいという気持ちはあったわ。学園に入ってから常に意識していたしね。……でも無理だった上に、クラウスは裏の組織と繋がり始めた。王女としても一冒険者としても、色々と複雑な感情なのよ」
「そうか。悪いが、俺には複雑な感情とやらを少しも理解できない」
「それでいいわ。全てたらればの感情だから。……ただ、クリスには心から感謝している。私ができなかったことをやってくれた訳だからね」
「それは俺も同じだ。シャーロットが全面的にサポートしてくれて助かった。手助けしてくれなきゃ、俺は剣神殺しの大悪党として追われる身だったろうしな」
「それは間違いないわね。ということは、貸し借りなしのお互い様ってことでいいのかしら?」
「俺はそのつもりでいるが」
「……本気で言ってそうだから怖いわね」
冗談めかしく笑いながらそう話してきたのだが、俺は至って真面目に返答した。
本気で貸し借りなしの状態だと思っているからな。
「もっと色々と話したいところだが、とりあえず今日はもう帰らせてもらう。疲れて仕方がない」
「わざわざ報告してきてくれてありがとう。後処理はこちらで行うからゆっくりと休んで頂戴」
「ああ、休ませてもらう。……あっ、もう一ついいか? ゴーティエはいないのか?」
「流石に部屋にまではいないわ。クリスにやられたことが悔しいみたいで、城の訓練場で死ぬ気でトレーニングに励んでいるから、会いたいなら探してみたらどうかしら?」
「会いたくはない。鬱陶しいのがいないから、逆に気になっただけだ。それじゃ今度こそ帰らせてもらう」
「ええ。また体力が回復したら顔を見せてね」
シャーロットに別れを告げ、俺は一人王城を後にした。
ドレークとも先ほどの話も踏まえて話したかったが、もう体力の限界ギリギリ。
ぼやける視界の中必死に足を動かして、俺はなんとか宿屋に戻ったのだった。
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