エピローグ 魔王討伐
誰にも知られることなく密かに行われた――あの激闘から二年後。
俺達“三人”とスノーは魔王討伐に向けて、魔王の領土を突き進んでいた。
「あれが魔王城か? なーんか大したことねぇな!」
「そんなことはないんじゃないですか? 嫌な気配はなんとなく感じますし」
「なんとなく――だろ? なぁ、索敵してみてくれよ! 警備が手薄だったら正面から一気に突っ込んじまおう!」
「だから、何度も言うが俺は索敵なんかできねぇぞ。あと正面から突っ込むのもなしだ。あぶねぇからな」
呆れた様子でそう呟いたドレーク。
ただそんなドレークに代わって索敵をしてくれたであろうスノーが、行けると言わんばかりに吠えている。
「スノーは手薄だと言ってますね。……正面から突っ込みましょうか」
「おいおい正気かよ。仮にも相手は魔王だぞ。もう少し探ったりしてからの方が安全だ」
「でも、魔王軍の幹部やら四天王やらも大したことなかっただろ? ドレークはサポートよろしく頼むぜ!」
「サポートしろって言われてもなぁ……お前らはサポートの意味合いが広義すぎるんだよ。遠距離攻撃にタンクまで勤めながら回復も行ってピンチの時はメインアタッカーへと回る――んな一遍にできる訳がねぇだろ!」
「クリスは平然とやってくれてたけどな!」
「俺をあの超人と一緒にするんじゃねぇ。比べるならここで引き返すぞ」
そう言うと、ドレークはいじけた様子でしょげてしまった。
確かにクリスの仕事量を求めるのが酷なのはもちろん分かっている。
それは分かっているんだけど……クリスは何気なくやっていたから当たり前になってしまっているんだよな。
クリスの代わりにドレークが加入した当初は本当にビックリしたし、戦闘中にもこんな感じで爆発した時が何度もあった。
いなくなって分かることがあると言うけど、クリスがいなくなった時ほどそれを強く感じることはないと断言できる。
戦闘面だけでなく、索敵も超がつくほどの精度で行ってくれていたしな。
「ドレーク、悪かったって! しっかり分担してやるからよ!」
「そんで、クリスの奴は何をやってるんだ? あんま詳しく聞かないまま加入したが、クリスも呼べば良かっただろ」
「それはできません。クリスさんはクリスさんでやるべきことがありますので」
「そうそう! クリスにはやるべきことがあるんだよ! ……でも、俺達が魔王を討伐したらまた一緒に冒険するって約束だからさ! 早いところ魔王をぶっ潰したいんだ!」
そう。クリスは今王都に一人残って、闇市場で売買されていた奴隷たちを解放するために戦っている。
俺だって本音を言うならばクリスと一緒に魔王討伐に行きたかったけど、奴隷として扱われている人たちは謂わばクリスに出会う前の俺達。
命を救い、俺の人生を変えてくれたように、クリスの助けを待つ人間はごまんといるからな。
魔王の討伐なんてものは、言ってしまえば強ければ誰にでもできること。
クリスに頼らずとも大丈夫ってところも見せたいし、ここは頼らずに戦うと決めたのだ。
「お前ら本当にクリスを慕っているんだな。クラウスのパーティにいたから、正直そんな考えに至るのが信じられねぇわ」
「ドレークもクリスと一緒にいれば分かるぜ! 魔王を倒したら、ダンジョンに潜るつもりだから一緒に来いよ!」
「疎外感を覚えそうだからパスだな。それにダンジョンは前のパーティで攻略したし」
「攻略したって言っても、五十階層までだろ? エデストルのダンジョンはもっと奥まで続いているんだぜ!」
「……なんにせよ、今はダンジョンに行くかどうかなんて考えてられねぇ」
ドレークが加わった状態で、クリスが戻ってくれば安定感が増大する。
魔王のことなど忘れて、ダンジョンのことに思いを馳せていると――俺を現実へと引き戻すようにヘスターがピシャリと言葉を放った。
「話も終わったみたいですし、そろそろ行きましょうか。正面突破は変えません。このまま突っ走ります」
「結局、正面突破は変わらねぇのかよ。どうなっても知らねぇからな」
「あーだこーだ言っていますが、元はと言えば、ドレーク達が行う仕事を代わりに行っているんですからね。文句言わずについてきてください」
「でも、俺達を襲ってきたのはお前ら……」
言い訳をしようとしたドレークをヘスターがキッと睨むと、その圧に負けて言い淀んだドレーク。
クリスとの再会はめちゃくちゃ楽しみにしているが、俺以上に楽しみにしているのは何を隠そうヘスターだ。
この魔王討伐も行きたくないと駄々をこねていたし、普段は焦る俺を止める側なのに今は俺以上に先へ先へと行こうとしているからな。
口数が少ないのも早く魔王を討伐したいという無言の圧だし、今のヘスターは魔王であろうと止められないだろう。
「よしっ! それじゃサクッと魔王を倒しに行こうぜ! まずはスノー、先陣は任せたぞ!」
「アウッ!」
「ヘスターはスノーのサポートを頼む!」
「分かってる。スノーが危なくなったら魔法で蹴散らすからね」
「俺とドレークで敵のヘイトを一気に集めるぞ! それじゃ――突撃だ!」
「おいおい、本気で行く気かよ」
俺の号令と共にスノーが飛び出し、魔王城に向かって駆けていった。
クリスに早く会いたいから魔王を倒す。
動機が本当にコレだけだし、こんな理由で攻め込まれる魔王が可哀そうな感じもあるけど、悪さをしていたのだからしょうがない。
そして――覚醒した俺とヘスターを止められるものはおらず、あっさりと魔王の討伐を成功させ、余韻に浸ることもなく行き以上に早い足取りで王都への帰路についた。
そんな王都では魔王を討伐した俺達は“英雄”と讃えられている一方で、権力者を潰して回ったことでクリスは“ヴィラン”と呼ばれ、大悪人扱いされていることに驚愕することになるのだが……。
俺たちがそのことをクリスから直接聞くことになるのは、もう少し後のお話。
ご愛読頂きありがとうございました。
エピローグ 魔王討伐にて本編は完結となります。
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少しでも面白かったと思ってくださったら、ぜひ書店等で書籍版をご購入頂けると幸いです<(_ _)>ペコ
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また、コミカライズも来月の下旬から連載予定となっております!
漫画家様はにぃと先生でして、素晴らしい画力で描いて頂いておりますので、こちらも楽しみにお待ちして頂けたらなと思います。
そしてコミカライズの告知に合わせ、番外編(クラウスとの戦闘~各所へのお礼参り)を投稿予定ですので今後ともよろしくお願い致します!
web版『追放された名家の長男 ~馬鹿にされたハズレスキルで最強へと昇り詰める~』を読了頂き、本当にありがとうございました<(_ _)>ペコ





