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【完結】追放された名家の長男 ~馬鹿にされたハズレスキルで最強へと昇り詰める~  作者: 岡本剛也
8章

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第434話 決着


 腹部に傷を受けて血を流している人間と、黒い外皮に覆われた凶悪な化け物。

 傍から見れば圧倒的に俺が劣勢で、対峙している感覚からしても俺の方が確実に負けている。


 【狂戦士化】の精神支配を乗り越え、【能力解放】のマックスの出力でも明確な差。

 でも……不思議なことに何故だか一切負ける気がしない。


「【勇者の制約】」


 この化け物の状態でもまだスキルが使えるのか。

 そんな感想を抱いている中、まず動き出したのは更なるスキルを発動させたクラウスだった。

 先ほどから握られている紅蓮の剣からは光のようなものが伸びており、大剣であるヴァンデッタテインよりも長い。


 あの光が【勇者の制約】とやらのスキルの影響ならば、危険な臭いがする。

 一気に間合いを詰め、的確に振ってきた光を帯びた剣にヴァンデッタテインを合わせ――俺はなんとか受け止めた。


 クラウスは片手で俺は両手。

 軽く振っているようにしか見えないのだが、受け止める度に体がふっ飛ばされそうなほどの衝撃が全身に圧し掛かる。


 もう技術なんか一切いらないと判断したのか、力とスキルだけのゴリ押しなところだけが俺が付け入る唯一の隙。

 力で負けているのであれば、相手の力を利用すればいいだけのこと。


 常にカウンターを狙ってきた厄介なミルウォークを思い出し、今度はクラウスの剣を見切ることに全力を費やす。

 【野生の勘】を発動させ、ギリギリまで引き付けてから――ただ振り下ろされた剣を避け、クラウスの力を乗せるように右下から斬り上げた。


 手ごたえは完璧。分厚い外皮に覆われていたが、流石にヴェンデッタテインは負けなかった。

 黒い外皮の下に隠れている、クラウス本体まで届いた感触はあったのだが……。

 斬った余韻に浸る時間もなく、俺の腹部に強烈な衝撃が走った。

 

 発動させていた【野生の勘】のお陰で、なんとなく腹部に防御スキルを集めていたからふっ飛ばされずには済んだが、剣を持っていない手での抉り取るようなボディブローを決められた。

 息が止まるほどの強烈な一撃だったが、俺は笑みを絶やさずに今度は袈裟斬りをお見舞いする。


 この袈裟斬りは流石に紅蓮の剣で受け止められたが、やられたらやり返すのが重要。

 どれだけ強い力で押されても、絶対に後ろには引かずに前へと出る。


 振ってくる剣は躱し、飛んでくる拳は体で受けながらカウンターをぶち込む。

 体へのダメージは一切顧みず、一発受けたら確実に斬り返しながら闘技場の中央で互いに攻撃を打ち合っていった。


 【剣神】の力に加えて、魔神核とかいう聞いたこともないアイテムまで使ったのだから、数秒も持たずに余裕で俺を殺せると確信していたであろうクラウス。

 もちろんダメージだけで図るのであれば、俺の方が圧倒的にボロボロだしいつ倒れてもおかしくないが――楽しい。そう楽しいのだ。


 腕と足以外の感覚はないが、剣を振れさえすれば俺はまだ戦うことができる。

 そしてこれは全く意図していなかったことだが、クラウスが化け物の姿になったことで邪気が発生したのか、斬る度にドレイン効果で邪気がヴァンデッタテインに吸収され始めた。


 それにより、これまで使い方すら分からなかったヴァンデッタテインのもう一つの効果が発揮され、黒い外皮で覆われたクラウスの体には斬る度により深く斬ることができ始めている。

 そのことに気がついてなのか知らないが、いつ倒れてもおかしくないボロボロの俺相手なのに、一歩ずつ後ろへと後退し始めたクラウス。


「しつこい、しつこい、シツコイ! いい加減倒れやがれッ!!」


 冷静だった動きに乱れが生じ始め、功を焦ったクラウスは両手で剣を握ると思い切りブン回してきた。

 これまで片手だったのが両手になったことで、威力は何割も増しているが焦ったせいで更に動きが読みやすい。


 クラウスの袈裟斬りにタイミングを合わせ――ヴァンデッタテインを腕のガードがなくなったことでむき出しとなった魔神核に突き立てた。

 かなりの強度を誇っているようで感触は悪かったが、邪気を吸収してキレ味が増していたお陰でヒビが入り、そこから黒い瘴気のようなものが漏れ始めている。


 瘴気が漏れ出たせいか、クラウスの異形の姿も溶け始めているが……まだ目が諦めていない。

 俺ももう感覚がほとんどない体を動かし、絶対に仕留める覚悟で最後の攻撃を開始する。


 発動させるスキルは――【自滅撃】。

 もう既に自滅後のような状態だが、残りカスのような力を振り絞って体に鞭打った。


 勢いよく大地を踏みしめ、後方に土の塊が飛ぶほど蹴り上げて懐へと飛び込む。

 正真正銘、最後の攻撃。

 これを耐えられたら俺は一歩たりとも動けなくなり、殺されるが――もう後戻りはできない。



 クラウス、受けてみろ。最強の【農民】の最高の一撃を。

 クラウスのために積み上げてきた全ての集大成を。

 


 “次”なんてのはいらない。

 全てを振り絞った俺の人生を賭した全身全霊の一撃——。


「【自滅撃】――」


 受け止めにきた光の紅蓮の剣を叩き折り、溶け始めていたがまだ黒い外皮で覆われていたクラウスの肩から刃が入って、割れかけの魔神核を粉砕しながら体を両断。

 黒だか赤だか分からない色の鮮血が降りかかり、下半身を失ったクラウスはゆっくりと地面に倒れた。


「……何故だ。何故……俺はクリスに勝てない。俺は【剣神】で……お前は【農民】。身を捨て、魔に魂まで売ったのに……なんで、なんだ? 常にお前だけが――目をかけられ、大事に育てられた。暗くて狭い世界に閉じ込められ、力を手にしたのに、一歩届かなかったのも……お前が、俺よりも、先に生まれた……から、か?」

「……関係ないだろ。親父は俺よりもお前を大事にしていたんだからな」


 大粒の涙を流しながら、俺を見上げるように問いかけて来たクラウスに言葉を返す。

 しんどく重い腕を動かし、俺はホルダーから懐中時計を取り出した。

 

 この懐中時計は俺が家から飛び出た時に盗んだ物で、親父が一番大事にしていた宝物。

 価値ある物と踏んで盗んだが、安い値をルゲンツさんから提示され売らずに持っていた。


 そしてとある日、気まぐれで懐中時計を調べたところ俺はある秘密を見つけた。

 それは、この懐中時計がからくり時計だったということ。

 

 大した機能ではないのだが、蓋を二回素早く開閉すると時計ではなく裏が開くようになっている仕組み。

 そしてその小さなスペースには――幼い頃のクラウスの写真が入っていたのだ。


「……父さんが、大事にして、いた時計か?」

「ああ、見てみろ。俺ではなくお前の写真だけが入っていた」

「……はっ、くだ、らねぇ。……クリスが出て、行ったのは……天恵の儀から、三日後。俺が【剣神】を……授かったから、……差し替えたんだろ」

「まぁそうかもな」

「…………ど、こ……で、間……違え、たん……だろ、うな」

「生まれた瞬間から既に間違っていたんだろ。俺も、お前もな」

「…………………ち、が……い、な…………」


 段々と口数が少なっていたクラウスだったが、そこまで言葉を発してからピクリとも動かなくなった。

 その死に顔は憑き物が取れたような表情をしており、散々暴れた挙句に最後の最後まで身勝手な弟だった。


 ヘスターとラルフ、スノーのことも気になるが……どうやら俺の限界も近いようだ。

 クラウスを看取ったと共に【自滅撃】の効果も切れ、俺もクラウスの死体の横に力なく倒れた。


 この感じは――もう駄目かもしれないな。

 これだけボロボロで【痛覚遮断】を使っていないのに、体の痛みは一切感じないため死を覚悟する。


 俺はペイシャの森で打ち立てた人生の目的も果たせたし、一切の悔いも残っていない。

 ……ただ巻き込んでしまったヘスター、ラルフ、スノーだけはどうか無事であってほしい。

 そんな思いで闘技場の入口を見ながら腕を必死に伸ばしたが、もう体は少しも動かすことはできない。


 視界は徐々にぼやけ始め、次第に暗転していく。

 唯一の心残りは最後にみんなの顔を見たかった。

 異様な寒さを感じながらも、強烈な睡魔に意識を保つことを放棄し――俺はゆっくりと目を閉じたのだった。






 深く深く眠っていたのだが、誰かが呼びかけてくる声が聞こえてくる。

 非常に鬱陶しく、聞こえないフリをしようとも思ったのだが……何処か聞き覚えのある声。


 男女の二人の声で……もうすぐ思い出せそうだったけど、それよりも睡魔が勝ってしまっている。

 何も回らない思考。考えるのを放棄し、僅かに浮かび上がった意識から手を放そうとしたその時――。


「アウッッ!! バウッアウッ!!!」


 突然の爆音が響き渡り、俺は離しかけていた意識を無理やり呼び起こされた。

 まるで息が止まっていたかのように、目覚めだというのにも関わらず酷く苦しく必死に空気を吸い込む。


 ようやく呼吸が安定し、目をゆっくりと開けると……そこには見覚えのある顔が二人並んでいた。

 大粒の涙に大量の鼻水。

 ありとあらゆる体液が顔から漏れ出ており、その酷い顔に最悪の目覚めの中、俺はたまらずに吹き出してしまったのだった。




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