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【完結】追放された名家の長男 ~馬鹿にされたハズレスキルで最強へと昇り詰める~  作者: 岡本剛也
8章

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第431話 看破


 刃が体には届かなったが、気持ちの良いクリーンヒット。

 地面に転がるクラウスを見て、胸が少しだけスッとする気分。


 それにしても……クラウスがしっかりと基礎技術を上げていることに少し驚く。

 強力なスキルばかりを磨いていると思っていたが、クラウスが剣術を学んでいるのが今の攻防で分かった。


「今の一撃を受けられるとは思っていなかった。スキルにかまけず、ちゃんと技術も磨いていたんだな」

「くっそ、が……! 【農民】の雑魚の癖に、なんで上から語っていやがる!」

「俺が雑魚なのだとしたら、その雑魚にふっ飛ばされたお前は何なんだ?」

「絶対に殺す――。【鬼神の闘気】」


 俺の言葉にキレた様子で、クラウスは更なるスキルを発動させた。

 元々纏っていた光輝くオーラに混じり合うように、赤いオーラが立ち昇った。


 あそこから更に身体能力を上昇させてくるのか。

 この状態でもまだスキルを隠し持っていそうだし、【剣神】という適性職業の化け物っぷりを再確認させられる。


 凄まじいということは理解しつつ、俺もただ見ている訳ではなく策を講じる。

 金と赤のオーラが入り混じり、神々しささえ感じるクラウスは地面を踏み込むと――先ほどよりも速い動きで距離を詰めて来た。


 クラウスの動きは確かに速いが、速く動けば動くだけ一つの動作が雑になるし音で聞き分けることができる。

 【聴覚強化】と【音波探知】のスキルを発動させてから、タイミングを見計らい【黒霧】のスキルを発動。


 広い故に闘技場の全域とまではいかなかったが、十分すぎる範囲が漆黒の霧で包まれた。

 突如現れた霧によってクラウスは俺を見失ったようだが、俺はしっかりとクラウスの位置を把握できている。

 位置を音で正確に捉えてから、【剛腕】と【強撃】のスキルを重ね掛けしつつ斬りかかったのだが……。


「【神眼】」


 そんなスキルの発動と共に、暗闇に乗じて放った渾身の一撃はあっさりと躱され、逆に暗闇に紛れられて放たれた横薙ぎにより、俺は腹を深々と斬り裂かれた。

 どこに攻撃されるか分からなかった分、先ほどの首の一撃よりも深く斬られているせいでダメージが大きい。

 

 俺は音でしか感じ取れないのだが、クラウスは五感全てでしっかりと俺を捉えている。 

 これまで無類の強さを誇ってきた【黒霧】だが、まさかクラウスに一切通用しないスキルだとは思っていなかった。


 自分で蒔いた種だが、確実に大ピンチを招いてしまっている。

 とにかく【黒霧】の範囲外に行かないといけないため、全力で逃走を図ることに決めた。


 【脚力強化】に【疾風】。

 更に【戦いの舞】の効果を足に集中させ、念のため【野生の勘】も発動させる。


 そこからは腹の傷口を押さえながら、とにかくクラウスから全力で逃げる。

 速度は俺の方が若干速いが、何にせよクラウスはこの暗闇の霧の中で目が利く。


 深手を負って逃げている俺に対し、的確な攻撃で攻めてきたが……。

 追ってくる足音が聞こえるお陰で、なんとかその後の攻撃は全て躱しながら【黒霧】の範囲外まで逃げることができた。


 これで一難は去ったが、俺の仕掛けで俺が大ダメージを負ったことには変わらない。

 【黒霧】の中から出てきたクラウスは、悪魔のように大口を開けて笑っている。


「くっ、あーはっはっ! 目晦ましなんか仕掛けて何をしてくるかと思えば、自分自身は何も見えないなんてな! 俺相手に命掛けのギャグをかましてくるとは、お前は本当に馬鹿なのか?」


 腹の傷が痛くなくなるほど、クラウスに対しての苛立ちが募るが……。

 ここは冷静に【自己再生】と【痛覚遮断】を発動させて処置を行う。


 シャーロットから貰った世界樹のポーションを使おうかも迷ったが、このぐらいの傷なら使い時ではないと判断して止めた。

 痛みを消し去ったお陰で普通に動けそうだし、出血具合は気になるけど支障はないだろう。


「一発斬っただけで調子に乗るな。お前も仕留められなかった訳だしな」

「仕留められなかったんじゃない。わざと泳がしたんだよ。クリス、お前のアホ面を拝むためにな!」


 そう言うと、再び大声を出して笑い始めたクラウス。

 本気でイラつくし、今すぐにでも斬りかかりたい衝動に駆られるが――今は抑えないといけない。


 【黒霧】が使えないと分かった以上、俺の戦法が狭まってしまうのは確定済み。

 他の変則的なスキルが通用するかどうかも不明なため、とりあえず【広範化】での毒を食らわせておきたいところ。


 クラウスの動きに注力しつつ、王都の薬屋で買った毒薬を準備する。

 【広範化】の範囲については、ラルフに付き合ってもらいながら死ぬ気で覚えたため、範囲内に踏み込んできさえすれば大丈夫。


 危惧する点は思っている以上に範囲が狭く、【広範化】の範囲内ということはクラウスの間合いでもあることだ。

 さっきまでは使える隙すらなかったが、腹を斬らせたお陰で油断を誘えている。


 全く本位ではなかったけど、毒をくらわせることができるのであれば【黒霧】が失敗に終わったのも悪くない。

 物事をポジティブに捉えながら、笑いながら近づくクラウスの距離を冷静に推し量る。


 ……あと三歩。……あと二歩。……あと一歩。

 腹を押さえて痛がる素振りを見せながら引きつけ、範囲に足を踏み込んだ瞬間に【広範化】を発動。

 それと同時に、俺は『ラカンカ』で購入した毒薬を一気に飲み干した。



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黒霧は、『深紅の瞳』で見えてたんじゃないの? なぜ使わないのか?
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