第428話 馬鹿で天才
最初は互角にシールドバッシュを打ち合っていたのだが、次第にドレークの苦手なところを見出し、不得意な形を押し付けることで戦況が傾き始めてきた。
ここまで汗一つ流していなかったドレークの額には汗が浮かび始めていて、俺の立ち回りに酷く鬱陶しそうにしている。
「ドレーク、どうだよ! 俺の方が強いって分かってきたんじゃないか?」
「ふざけるな! 俺はまだ一発も攻撃を食らってない」
「そんなの時間の問題だぜ! 諦めて退いてくれ! この立ち回りはドレークから盗んだものだし、できるなら叩きのめしたくないんだよ!」
「俺も舐められたものだな。ちょっと打ち合いで優勢になったくらいでイキがるなよ!」
本心から生死をかけた戦いはしたくないのだが、舐められたと思ったドレークは、少しキレ気味に無理やりこの状況の打開を図ってきた。
しっかりと受け流してからシールドバッシュを行う――ここまではお互いにその繰り返しだったのだけど、ドレークは盾を力技で振り回し始めた。
巨体を生かして両手の盾をブンブンと振り回し、正面からガードしたらふっ飛ばされるような威力。
ただし、俺はもうドレークに力では敵わないことは分かっている。
盾の側面を滑らせるように威力を受け流し、力技で打開しようとするドレークのシールドバッシュを技術でいなした。
そして体勢が崩れたところを見計らい、下から突き上げるようにカウンターのシールドバッシュをぶち込む。
ドレークとの戦闘が始まって、初めてのまともに入れることのできた一撃。
俺に向かってくる力を上手く利用したこともあり、ドレークはかなり苦しそうに悶えている。
「これでまずは一発だ! ドンドン行くぜ!」
一発入れてからは更に俺が優勢になってきた。
同じ個所を徹底して攻めることで、鎧の上からでの攻撃でも痛みが出てきたのか、特定の箇所を庇うような動きを見せ始めている。
ただ特定の箇所を庇ってしまうと、動きに歪みが生じてバランスがドンドンと崩れていく。
バランスを崩させては別の箇所を一点狙いで攻め、そこを庇ったらまた別の箇所を狙う。
一気にケリをつけることはせず、俺は地道に相手が嫌なことを徹底して攻め込んでいった。
そして、右足に比重を乗るように左側を攻撃していった効果があったのか……。
ドレークは右膝から崩れるように、思い切りバランスを崩して転倒した。
「だから言っただろ! さっきの言葉はハッタリじゃなくて、俺が完全に上回ったんだよ!」
「ぜぇー、ぜぇー……。ば、馬鹿と天才は紙一重とはよく言ったもんだな」
ドレークは仰向けに寝転んでおり、シャワーでも浴びたのかと思うほど大量の汗をかいている。
発した口調も諦めの気持ちが混じっているように感じ、俺はドレークに盾を向けるのを止めた。
多分だけど、もうドレークに戦う気力は残っていないはず。
戦闘不能にまで追い込まなかったことをクリスにドヤされるだろうが、俺は戦う気のない相手を痛めつける気はないからな。
「それじゃ俺は戻らせてもらうぞ! ……ドレークと戦えたお陰で成長できた。ありがとな!」
仰向けで寝転ぶドレークにそう声をかけ、俺はドレークとの戦闘を行った部屋から立ち去ろうとしたのだが……。
「ちょっと待てや。サブイボ立つような気持ち悪い台詞を吐いてどこ行くんだよ。……まだ終わってねぇぞ」
ドレークはなんとか立ち上がると、左手に持っていた盾を去ろうとする俺目掛けてぶん投げてきた。
ただ感覚が冴えわたっているため、そんな不意の攻撃も俺は余裕で盾で弾いた。
「もう立つのすら大変だろ! これ以上の戦闘は無駄だ!」
「無駄だろうが関係ねぇんだよ。お前だけは向こうに行かせる訳にいかない」
なぜここまで拘るのかが分からない。
もちろん、俺のようにクリスを死んでも助けるぐらいの特別な感情があるならまだしも、ドレークは本気でクラウスを嫌っているように見えた。
だったら、このまま倒れていてもいいだろうし……ムキになる理由が俺には分からない。
「なんでそこまでするんだ? クラウスを嫌いなのは本心だろ?」
「心底嫌いだけど、クラウスの実力は俺が一番分かっている。クラウスが誰かに負けることは絶対にないし、俺がお前を通して向こうに戻らせたら――」
「……戻らせたらなんなんだよ!」
「なんでもねぇ。とにかくクラウスが勝つと分かっている以上、俺は死んでもお前を止めなくてはいけねぇんだ」
結局のところ核の部分は分からなかったけど、クラウスに何か脅されているとかだろうか。
確かドレークは辺境の村の出身だったはず。
クリスの話に出るクラウスなら、ヘマをしたら村を潰す――それぐらいのことを言っていそうな感じがする。
ドレークが何も語らないから完全に俺の妄想だけど、だとしたらここまで本気になるのも頷けるからな。
ただ仮にそうだったとしても、俺にも闘技場へ戻らないといけない理由がある。
それを阻止してくるのであれば、全力で戦わないといけない。
「俺はドレークのことは嫌いじゃない! むしろ似たような感じがあるし、親近感が湧いているくらいだ!」
「……は? 急に何を言っているんだ?」
「でも、俺を死ぬ気で止めるというなら全力で抗わせてもらう!」
「ふっ、はっは! 当たり前のことを何言ってんだよ。……なぁ、お前の名前なんだっけか?」
「俺はラルフ。貧困街で生まれ育ったから苗字はなく、ただのラルフだ!」
「ラルフ……な。覚えたぜ。俺もラルフは嫌いじゃねぇけど、絶対に行かせる訳には行かねぇ! こっからは本気で止めに行くから覚悟しろよ?」





