第424話 再会
ヘスターと分かれてから、ラルフと共に闘技場を目指して歩を進めている。
流石のラルフでも緊張しているのか、いつもはうるさいぐらい喋るのに無言のまま一切口を開いていない。
かく言う俺も、【生命感知】でクラウスの生命力を感知してから、心臓がドンドンと高鳴り始めている。
実家で殺されかけて以来、久しぶりに会うクラウス。
こっちはずっとクラウスを目標にしながら、常に動向を追っていたため久しぶりな感じは一切しないが、俺を見てどんな反応をするのかは少しだけ楽しみだ。
闘技者達の入場口のようなものを進み、眩い光が差す開けた場所へと出た。
目の前に広がるのは、地下とは到底思えないほど広い楕円型の闘技場。
観客席までは高さ五メートル以上の壁で囲われており、その壁の至るところには金属の扉に色々と付着していたように、様々な人間がここから逃げようと藻掻いた形跡が生々しく残されている。
地面は金属に近い性質のもので出来ており、生半可な攻撃では壊れないようになっているが、それでも所々は武器によってつけられた傷がいくつか残されていた。
そんな闘技場の奥に二人の人影が見える。
一人は二メートルを優に超える大男で、縦にだけでなく横にも大きいため遠くにいるがとにかく圧が凄まじい。
情報でしか知らないため確定ではないが、あいつがジル・ドレーク四世で間違いないはず。
防具も最高級なものを身に着けているのが分かるが、まぁ防具に関してはラルフが身に着けている『アイドスカルナ』の方が上。
ただ、盾の方はかなり危険な臭いがする。
盾なのに死の臭いがプンプンと漂っており、何か秘密がありそうな感じだ。
そして……その大男の横に立っているのは、俺とほぼ同じ背丈の男。
そう、俺が長い間追い続けていた俺の弟——クラウスだ。
大きさだけを見比べたら圧倒的にドレークの方が強そうなのだが、有している生命力が段違い。
正直、俺が想像していたよりも遥かに強くなっているのが、生命力と魔力を感知した段階で分かっていた。
【剣神】を授かったばかりのあの頃とは違い、恵まれた適性職業に見合うだけの身体を作り上げたことで、【剣神】という後天的な才能が体に馴染んでいるのが分かる。
佇まいにも風格を感じるし、表情も随分と悪くなった。
こんなんでも双子な訳だし、昔はよく似ていると話をされることがあったが、今じゃ兄弟と認知されるかも怪しい。
纏っているオーラが悪そのもので、俺もそれなりの非道な行いをしてきたつもりだが、クラウスはその比ではないほど悪事に手を染めてきたのだろう。
正義の象徴として世間からは注目される中、裏では悪事に手を染めてきたクラウス。
元々歪みきっていた性格が、更に歪んだのが見た瞬間に分かった。
「クラウス、久しぶりだな。俺のことを覚えているか?」
俺はクラウスに対してそう声を掛けたのだが、ドレークと談笑しているだけで返事をしない。
軽く雑談でもしてでもと思っていたが、会話をする気がないならもう戦闘を始めるか。
そう思い立ち、俺がヴァンデッタテインの柄を掴む素振りを見せた瞬間、両手をわざとらしく使いながら言葉を返してきた。
「……あー。全然気づかなかったけどクリスか。俺にやられてそのまま野垂れ死んだと思って、声も姿も記憶から消去していて気づかなかった」
「嘘をつくな。必死に俺を探していたのを知っているぞ。お前のさしがねのカルロもミルウォークも俺が殺した」
「お前こそ嘘を吐くなよ。ただの【農民】風情が殺せる訳がないだろ? ――本当に面白くない冗談で反吐が出そうだ」
目を見開き、怒気を強めてそう吐き捨てたクラウス。
相変わらず沸点が分からないし、情緒が不安定で気持ちが悪い。
「嘘なんか吐く訳ないだろ。必死に努力して強くなったんだよ。クラウス、お前を殺すためにな」
「あー、本気でムカムカする。お前の顔も声も態度も全てにイラつくんだよッ!」
「クラウス、ちょっと待てや! まだ暴れるのは抑えろ! 俺が逃げてからにしてくれや! な?」
キレるクラウスに焦った様子でそう伝えたドレーク。
その言葉すらも癪に障ったのか、クラウスは殺意を籠めた目でドレークを睨みつけると、魔力の込めた拳で殴りかかり――拳が顔面に到達するギリギリで止めた。
「ドレーク、俺の邪魔をするな。次、邪魔したら……殺すからな?」
「わ、悪かったっての! もう邪魔はしねぇよ! ほ、ほら、後ろにいるあいつの連れを倒してくるから! な?」
同じ学園に通っていた将来を嘱望される英雄の卵同士なはずなのに、クラウスとドレークには絶対的な主従関係があるようで、本気で怯えながら下手に出ているドレーク。
クラウスが首で行くように指示を出すと、デカい図体を縮こませて俺達が入ってきた入場口へと向かっていった。
「それじゃ、俺はドレークと戦ってくる。……絶対に負けるんじゃねぇぞ」
「ああ。ラルフこそ、絶対に負けるなよ」
俺がそう言葉を返すと、ラルフは精一杯の作り笑いを見せてから親指を立てた。
それから入場口へと消えて行ったドレークの後を追う形で、ラルフも闘技場から姿を消した。
闘技場には俺とクラウスだけ残され、観客一人いない広い空間に静寂が流れる。
これ以上の会話はないまま互いに武器を構え、俺とクラウスによる本気の殺し合いが始まるのだった。
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