第415話 迷路
階段を下りた先の広間のような場所を抜けると、そこからは狭い通路が迷路のように入り乱れており、その通路には所せましと小さな部屋が乱立していた。
この狭い部屋に闘技者たちは住み、この先にある闘技場で命を賭して戦っていたのだろう。
最初は狭かった部屋も奥に進むにつれて一部屋が広くなっていき、通路を抜ける時には最初の部屋の二倍くらいの広さになっている気がする。
冒険者ランクのように闘技者達にもランク分けがされていて、そのランクに応じて部屋が割り振られているのだろう。
部屋だけじゃなく、与えられる食事のグレードなんかも調整されていそうだ。
そのことを考えると……先ほど戦った元人間たちは、ランクの低かった闘技者である可能性が高くなってきた。
そのことを考えると、奥に進むにつれて敵の強さが増していき、最後にはクラウス達が待ち受けてるって感じか。
ダンジョンみたいで面白いとは思うが、体力を削られすぎないように極力戦闘は避けていきたい。
幸い迷路のような通路に加えて、こちらは『フォロ・ニーム』の地図を持っている。
【魔力感知】でアンデッドの反応を確認しつつ、戦闘が避けられるのであれば極力戦闘を避けて進んで行こうか。
「おい、クリス! また右に曲がるのかよ! 全く同じ風景だしぐるぐると同じところを回っているんじゃないのか?」
「ちゃんと前に進んでいるから安心しろ。それよりも集中を切らすな。いつ敵に襲われてもおかしくないからな」
広間での戦闘から約三十分。
徘徊しているアンデットとの戦闘を避けるため、通路を行ったり来たりしながら進んでいたところラルフがそんな愚痴をこぼしてきた。
確かに殺風景で変わり映えしないが、部屋の大きさが着実に大きくなっていることから先に進んでいるのは間違いない。
それにこの先いつ敵と出くわすか分からないし、集中していてほしいのだが――。
そこまで思考したところで、先頭を歩いていたスノーが急に立ち止まった。
「スノー、どうした! この先に何か先にいるのか? なぁ、クリスは何か感じ取ったか?」
「いや、俺の感知スキルにはまだ何の反応もない。ただ……スノーの反応を見る限りでは確実にこの先に何かいる」
「ペースを更に落として進みましょう。向こうには勘付かれたくありませんしね」
「だな。何か反応があればすぐに教える」
通路にいるアンデッドでは特に何も反応を示さなかったところを見るに、この先に先ほどの広間にいた大群や別の何かがいる可能性が高い。
【生命感知】と【魔力感知】の二つを発動させながら、俺がその反応を捉えるまでゆっくりと進んで行くと……スノーが先に勘付いていた何かの反応を俺も感じ取った。
ここまでは魔力反応しか感じ取れなかったのだが、この先から感じ取ったのは生命反応。
つまりアンデッドではなく、生きている人間がこの通路の奥にいるということ。
「二人共、一度止まってくれ。俺もこの先にいる何かの反応を感じ取った」
「またアンデッドの群れか? 今度はエリファス本人がいたりしてな!」
「エリファスかどうかは分からないが、生命反応を感じる。アンデッドではなくて生物なのは間違いない」
「それは本当でしょうか? 何人いるんですか?」
「反応を感じられるのは計六人だな。もしかしたら生命力の弱い人間がいるかもしれないが」
戦闘要員ではない人間は感じ取ることができない。
パブロの一件があるため、【生命感知】の情報を鵜呑みにし過ぎないように気をつける。
「六人ってことはクラウス、エリファス、ドレーク……枢機卿とその部下か?」
「そこまでは分からないが、図抜けた生命力ではない。だからクラウスの生命反応ではないと思うが、実際に見てみないと分からないな」
「動きについてはどうするんだ? アンデッドとの大群相手に取った隊列でいいか?」
「クラウス達がいれば、俺がクラウス。ヘスターがエリファス。ラルフがドレークと戦う。いなければ俺とラルフでタンクを請け負い、スノーがメインアタッカー。ヘスターはスノーのサポートをしてやってくれ」
「おお、スノーにメインで戦わせるのか! さっきの攻撃は凄まじかったもんな!」
スノーだけで倒せるという算段があるのもそうだが、それとは別に俺達三人の体力温存の意味合いの方が大きい。
軽く作戦を立てたところで、俺達は先に感じる生命反応を頼りに通路を進んで行く。
その生命反応が近くなるにつれ、段々と道幅が広くなっていき――六つの生命反応を強く感じた場所は食堂のような部屋。
ボロボロの大量の机と椅子が広い部屋にビッシリと並んでおり、その先には厨房のようなものが見える。
そして……その食堂のような部屋の中央には、見覚えのない四人の男が俺達の行く手を阻むように立っていた。





