第414話 単調な動き
巨漢の男と同じように六体の内一体を【粘糸操作】で捕まえ、モーニングスターのように蹴散らすことも考えたが、今回はラルフが近くにいるしヘイトも集めてもらっている状態。
モーニングスターのように振り回すのはかなりの力を使うことも考え、一体ずつ斬り裂いていくことに決めた。
六体もいるのに連携など一切取らず、ラルフに対して好き勝手な攻撃をしている元人間の一体を【粘糸操作】を使って捕獲。
無理やりラルフから引き剥して俺の前へと連れ出し、一対一での戦闘を始めようと思ったのだが……。
俺の目の前まで連れ出したのにも関わらず、俺のことは一切目もくれずにラルフに襲い掛かろうとしている。
天然のモーニングスターで蹴散らしていた時から感じてはいたが、動きが想像以上に単調すぎるな。
ラルフの【守護者の咆哮】のスキル効果が上昇しているってのもあるだろうが、それ以上にエリファスの支配が甘いのだと思う。
これだけの量のアンデッドを使役し、それも遠距離から行っているのは凄まじいが、その分かなりお粗末な動きしか取れないらしい。
背中に俺の放った粘糸を引っ付けながら、一歩も動けていないのに必死にラルフに襲い掛かろうとしている元人間のアンデッドを見て俺はそんな考察をした。
ここまでのことをして、俺にヘイトが向かないのなら手こずる以前の話。
武器を持ったばかりの子供でも倒すことができるだろうし、俺は時間をかけず一体ずつスピーディに六体の元人間達を斬っていく。
闘技者なだけあって相当な力を感じただけに、生前の彼らと戦ってみたい気持ちになりつつも――俺は一瞬にしてラルフに群がっていた元人間のアンデッドを全て屠った。
「流石クリスだな! 強いオーラを感じる奴ばかり集めたつもりなのに、数十秒ほどで全部斬り殺しちまうなんてよ!」
笑顔でそう言ってきただけに、素で言っているのかそれとも嫌味で言っているのか判別がつかない。
アンデッドの支配が甘かったとはいえガン無視されたことに対して、俺としてはラルフに負けた気分になっているからな。
「お喋りはいいからヘスターのサポートに向か……」
ラルフを褒め返しても良かったのだが、それだとラルフの思うつぼな気がしたため話を変えるべくサポートへ向かう提案をしようと思ったのだが――。
ヘスターの方に目を向けると、地を駆ける青白い閃光が既にほとんどのアンデッドをなぎ倒していた。
「こりゃサポートの必要がなさそうだな! スノーが暴れ散らかしてるぞ!」
「確かに、俺達が向かう前に片付けてしまいそうだ。俺も即座に倒したつもりだったんだけどな」
「ずっとペイシャの森に待機させていたし、色々と溜まってたんじゃねぇか? いつになく暴れている気がするぞ!」
「あの動きを見るとそうかもしれない。残像しか見えていないけど、なんか生き生きしているように見えるもんな」
暴れ回っているスノーを見て、ラルフとそんな会話をしながらゆっくりとヘスターのところへと向かう。
そしてヘスターの下に辿り着いた時には、スノーが奥からやってきていたアンデッド達を全て倒し切っていた。
「クリスさん、ラルフお疲れ様です。こっちもスノーのお陰で片付きました」
「最後だけだが見ていた。とんでもない暴れっぷりだったな」
「溜まっていたものを吐き出した――みたいな戦い方でしたね。私の後方からアンデッドに突っ込んできた姿は、一瞬スノーと認識できなかったですもん」
「力を使い果たしてないといいんだが……。スノー、大丈夫か?」
「アウッ!」
既に体の周りを覆っていた氷の鎧は解除されており、白い息をハァーハァーと吐きながらも吠えて返事したスノー。
流石に息は若干上がっているものの、まだまだ動ける様子で一安心。
「まだ大丈夫そうだな。よくやってくれた」
「良いところ見せようと思ったのに、スノーに全部持ってかれちまったな! ずっと思ってたんだけど、スノーって本当にスノーパンサーなのかよ! 随分と様子が違うよな?」
「スノーの親を俺達が殺した訳だし、スノーパンサーなのは間違いないだろ」
ラルフの疑問にそう返答したが、確かに俺もスノーパンサーとは異なる気がしている。
親は白い体毛に青い斑点があったのに対し、スノーは銀色混じりの真っ白な体毛で斑点はなし。
子供だから青い斑点がないのかと思っていたけど、随分と体が大きくなったのに白いままだからな。
運動能力も比にならないし、親と同じ氷属性を扱っているけどその精度や威力も桁違い。
……別種と言われた方が納得するほど、戦ったスノーパンサーとは異なる成長を遂げている。
「確かにそうだよなぁ……。実際に俺達が拾い上げた訳だし、スノーはスノーパンサー。となると、俺達と一緒にいたからここまで強くなったのかな?」
「そこまでは分からん。スノーについても気にはなるが、今はスノーよりも先に進もう。時間を空けたら、またエリファスがアンデッドを寄越してくるかもしれない」
「そうですね。まだまだ先は長いですし、無駄話せずに奥へ進みましょう」
スノーについてはいつか調べるとして、今はクラウス達の後を追う方が優先。
まだ居住エリアに入ったばかりで、地図を見る限りは大きく迂回するように作られているため闘技場までの道のりは長い。
ゆっくりと話している時間はなく、少しでも先に進まないとアンデッドを処理しているだけで時間を食ってしまう。
枢機卿の他にも連れて来た人物がいる可能性も考え、移動速度を上げるために一息つく間もなく先を目指して再び歩き始めた。
告知していた通り、明日新作投稿致します。
新作の宣伝も兼ねて本作も三話更新致しますので、
どうぞ本作も新作も両作品共よろしくお願いします<(_ _)>ペコ





