第413話 アンデッド
魔力反応があった通り、階段を下りた先にはかなりの数のアンデッド種が蠢いていた。
ゾンビやグール、骸骨剣士にボーンナイトなどの一般的なアンデッドがほとんどだが、そんな一般的なアンデッドに紛れて見慣れないアンデッドがちらほらと見える。
ほとんど人間のような見た目をしており、魔物とは違った感じがあるため……あれが死者を操る能力で操っている人間の死体。
手練れを集めたのか、それともこの居住エリアに転がっていた闘技者の死体を使ったのか。
どちらにせよ、人間の死体の方はかなりの力を保有しているように思える。
一般的な雑魚アンデッドはスノーに任せ、俺は手前にいる操られた死体を倒していこうか。
遠くのアンデッドに関してはヘスターに全て任せ、操られた死体の中でもより強力な力を感じる奴に関してはラルフに任せる。
どう動くかを【脳力解放】を使って一瞬で決めた俺は、スノーに合図を飛ばして連動しながら、単調な動きで襲ってくる操られている死体に俺は焦点を絞った。
敵の実力を即座に見極め、体力温存のため最低限の力で倒しにかかる。
この戦闘で発動させるスキルは、【粘糸操作】と【硬質化】だけ。
発動スキルに制限をかけず、短い時間で戦闘を終わらせることも考えたが、この数相手だとどう頑張っても時間がかかるからな。
生命反応がなく、どれくらいの力を保有しているかも分からない以上、必要最低限の力で焦らずに戦っていく。
一直線で襲いかかってきているグール、それから骸骨剣士の攻撃を避けながら、トロールのような見た目の元人間に向かって走る。
全身の至るところに戦闘によってできたであろう傷があり、身に着けている装備自体は薄着でほぼ裸に近い。
ただ手に持たれているハンマーのような斧は質が高そうで、あの巨体から繰り出される攻撃を一発でもまともに食らったら確実に大ダメージを負うだろう。
ここの闘技者であっただろうことは間違いないが、気になるのは受肉している点。
普通なら骨だけのはずだろうし、ちゃんと肉体となっているのは気掛かりだが……今は考えることではないか。
巨漢の元人間の分析をし、どう戦うかを定めたところで【粘糸操作】を発動。
両手の指から粘糸を飛ばし、両足に集中させて付着させた。
奇怪な攻撃だと思うのだが死体だからか特に対策も取らずに、足に付着した粘糸を気にすることなくドスドスとした走りで向かってくる。
何も対策を打ってこないのであれば、もう俺が負けることはない。
巨漢の足に何重にも付着させた粘糸を【硬質化】によって硬くさせた。
そして、そのまま思い切り引っ張り転ばせたところで――天然のモーニングスターが完成だ。
巨漢の死体を狙ったことでかなり重たいが、その分威力も上昇している。
小回りが利かないため振り回すような形でしか使えないが、周囲が敵ばかりのこの状況なら強力な武器となる。
一体一体、剣で斬り殺していくのは時間も労力もかかるからな。
襲ってきた巨漢の死体を強力な武器とした俺は、呻いているのも関係なしに周囲にいるアンデッド目掛けて適当に振り回しまくる。
威力は強烈だが、スピードはそこそこで射程範囲は固定。
人間相手にはもちろん通用しないし、ある程度の知能を持つ魔物にすら通用しないレベルの攻撃だが、単調な動きしかしてこないアンデッドには効果は絶大。
粘糸で捕らえた巨漢の死体を振り回して、武器として機能しなくなるまで蹴散らしまくった。
数多のアンデッドと衝突し、上半身は砕け散って両足のみとなった巨漢の男の死体。
武器として使い物にならなくなったため、【粘糸操作】を解除して投げ捨てた。
俺の周囲はアンデッドの残骸で地獄絵図となっているが、奥から戦闘音を聞きつけてやってきているようで、まだまだアンデッドの数は多い状態。
ヘスターはそんな奥からやってきているアンデッドに向かって魔法を放ちまくっており、ラルフは俺がモーニングスターとして使った巨漢の死体と同等以上の元人間達を複数相手取っている。
スノーはというと全身を氷で覆い氷の鎧のようなものを身に着けており、その全身に纏った氷を使ってアンデッドを斬り裂きまくっていた。
速度も尋常ではなく、スノーのことを知らなければ大きな氷塊が暴れ回っているようにしか見えない。
防御面でも攻撃面でも完璧な状態のスノーを止められるアンデッドはいないため、スノーに関しては放っておいても大丈夫だろう。
となってくると……俺が手助けしなくてはいけないのはラルフ。
ヘスターには足止めを頑張ってもらい、ラルフと共に操作されている元人間を殺してからそっちの対応を行う。
まぁあと数分間足止めしてくれさえすれば、スノーがそのままヘスターの助太刀へ向かってくれそうな感じはある。
俺はラルフが引き受けている元人間の方に集中し、確実に仕留めることだけを考えよう。
「ラルフ、一気に片付けるぞ」
「もう十体くらいなら引き受けられるけど、もう倒しにかかるんだな! どう倒すのか指示を飛ばしてくれ!」
「【守護者の咆哮】で敵のヘイトを集め続けてくれるだけでいい。その間に俺がぶった斬る」
「それだけでいいのか! 俺だけ楽な仕事で悪いな!」
「軽口はいいから頼んだぞ」
六体の元人間に囲まれている状態だが、本当にまだまだ引き受けられる状態なのか余裕そうな態度を見せている。
ここまで余裕なら先にヘスターの方のサポートに向かえば良かったと思いつつも、俺はラルフと連動して六体の元人間のアンデッドの討伐に当たった。





