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第41話 魔導書

 

 『七福屋』から戻り部屋へと入ると、ラルフは素振りを行っていてヘスターは勉強をしていた。

 ラルフの素振りはいつものことで、ヘスターの行っている勉強はというと文字の読み書きの勉強。


 ラルフと違ってヘスターは地頭が良いため、結構前から俺が文字を教え込んでいるのだ。

 二人共に各々のことに集中し切っているようで、入ってきた俺の手に魔導書が握られていることは気づく様子がない。


「二人共、ちょっといいか? これを見てくれ」


 必死に机に向かうヘスターと、汗だくになりながら素振りを繰り返すラルフを呼び止め、こちらを向かせる。

 無表情で俺の方を見たのも束の間、俺の手に持つ本が何の本なのかすぐに気が付いたヘスターは、飛び掛かる勢いで俺の目の前まで走ってきた。


「こ、こ、こ、これって……」

「ああ、そうだ」

「おい、なんだよその汚い本。俺にも分かるように説明してくれ」

「ま、ま、魔導書だよ! ――クリスさんが買ってくれたんですか?」

「この一ヶ月のはぐれ牛鳥狩りで金が稼げたからな。お前らがいつまでもゴブリン狩りで低収入じゃ俺が困る」

「……本当に、本当にありがとうございます。面倒を見てくれるだけでなく、魔導書まで……。いくらお礼を言っても言い切れません」

「お礼の言葉なんて求めてない。俺への感謝の気持ちがあるなら、早く魔法を覚えて、パーティに役立つ力を身に着けてくれ」

「はい! 絶対に習得してみせます!」


 泣いたと思ったら目をギラギラに輝かせ、今までで一番のやる気を見せたヘスター。

 最初は盗みを働いた際に捕まえたということもあり、おどおどとした印象しかなかったのだが、最近にかけての印象の変わりようが凄いな。


「……おい。俺を置いてけぼりにするなって。魔導書って何なんだ?」

「端的に言えば、魔法を覚えることができるかもしれない本だな。俺もまだ読んでいないから分からないが、恐らく魔法についてが色々と書かれているはず」

「それ本当かよ! それじゃ、ヘスターは魔法を習得できるってことなのか? やった……な?」


 ヘスターに続き、爆発させるような喜びを見せたのも束の間、言葉尻を詰まらせると急に渋い顔へと変わった。


「ラルフ、どうしたんだ?」

「いや、こんなこと言うのはおかしいが……。ヘスターが魔法を覚えたら、俺だけ足手まといになるんじゃねぇかなって。ちょっと怖くなった」

「ふっ、随分とらしくないな。今までだって足手まといだったけど、バカ騒ぎしてただろ」

「それはまぁそうだが……」

「ヘスターの次はラルフだ。ブロンズランクの依頼をこなせるようにして、とっとと金を貯めるための魔法だからな」

「あ、ああ!」


 しょげているラルフを励ましつつ、ヘスターと一緒に早速魔導書を読んでみることとなった。

 ラルフも素振りを止めて本を覗きにきているが、恐らく何も分かっていないと思う。


「魔法を使う前に、魔力の操作を行えるようにする。全身を巡る水を想像し、その水の循環を遅くしたり早くしたりと繰り返す――だってさ」

「全身を巡る水の循環ですか。ちょっと試してみます」


 全員で一斉に目を瞑り、本に書かれていることを試してみる。

 俺も必死に水を全身に駆け巡らせようとイメージするが、さっぱり要領を掴むことが出来ない。


 一切の魔力なんか感じず、ただただ眠くなってくるだけだな。

 早々に諦め、パッと目を開けると……ヘスターの体に何か靄のようなものがかかっているのが分かった。


「おい、ヘスター! 大丈夫か?」

「……ん? おおっ! なんだそれ!」

「多分、魔力だと思うので大丈夫です。……ふふっ、ちょっと感覚を掴めてきたかもしれません!」


 目を瞑りながら楽しそうに笑うヘスターの体にかかる靄は、様々な速度でぐるぐると回転し始めた。

 あの短い文章だけの説明で、これができるようになるのか?

 自分で試してみてたから分かるが、ヘスターの魔法の才は図抜けているように感じた。


「ヘスター、くれぐれもここを破壊しないようにしてくれ」

「多分大丈夫です。今やってるのはただの魔力操作だと思いますから」

「お、おい……見てるこっちは全然大丈夫に見えないんだよ! どんどん量が増えてきている気がするし!」

「一度止めます」


 その言葉と共に、ヘスターの体にかかっていた靄はどんどんと薄くなっていった。

 まだ魔法ではないのだろうが、魔法の凄さの一端を感じられた気がする。

 俺にとってはまさに未知のものだな。


「…………ふぅー」

「ヘスター、どうだった?」

「コツを掴んだ気がしますね。今日はもう遅いので、明日からは早速魔法の練習に取り掛かろうと思います」

「それなら良かった。流石に『天恵の儀』で【魔法使い】を授かっただけはあるな」

「クリスさん、ありがとうございます。それでなんですけど、明日も魔導書を読むのを手伝ってもらえますか?」

「もちろん。まだ一人で魔導書を読むのが厳しいのは分かってる」

「ありがとうございます」


 こうして初日から、魔法の才を遺憾無く発揮したヘスター。

 この上達速度ならば、俺が考えていたよりも早くモノになるかもしれない。

 決して自分の成長ではないのだが、ヘスターの成長にワクワクした気持ちで俺は眠りについたのだった。


お読み頂きありがとうございます!

この小説を読んで、「面白そう」「続きが気になる」と少しでも感じましたら、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです <(_ _)>ペコ

読者様の応援が作者の何よりのモチベーションとなりますので、是非よろしくお願いいたします!

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