第409話 付近の村
王都を出発した俺達は、地図を頼りに『フォロ・ニーム』に向かって歩を進める。
少しでも体力を温存するべく馬でも借りようかとも考えていたのだが、一日移動し続けることを考えると自分たちで歩いた方が早いため、馬での移動の案は却下した。
ランニングに近い形で移動を始め、時折休憩も挟みながら移動すること約十二時間ほど。
日が落ちて辺りが暗くなり始めた頃に、シャーロットが目印の一つとして挙げていた『イノエス村』が見えてきた。
「おっ! 正面に村が見えてきたぞ! あれが今日の到着目標にしていた村か?」
「地図を見る限りでは、あの村が『イエノス村』だな」
「大分速度を上げて移動してきたつもりでしたが、思っていた以上に時間がかかりましたね。でも、この村に着いてしまえばもう遺跡は目の前なんですよね?」
「ああ。『フォロ・ニーム』はこの村から歩いて一時間ぐらいの場所にある。村に泊めてもらって体力を回復させ、早朝に出発して遺跡に向かうって流れだな」
「こっから一時間の場所にクラウスはいるのか! ……いよいよって感じになってきたな! クリスは緊張しているか?」
ラルフにそう尋ねられたため軽く心臓に手を当ててみたが、不思議と緊張もしていないし心臓が高鳴っていることもない。
王都を出た段階で既に覚悟を決めていたってのが大きいからか、クラウスを直接この目で見るまでは感情が揺れることはないと思う。
「いや、全くしていないな。自分でも怖いくらい落ち着いている」
「そうなのかよ! 俺なんか心臓が痛いくらい緊張しているのによ!」
「眠れないとかは止めてくれよ。それよりも……村に泊めてもらえるかの交渉をしに行こう。スノーがいるし、万が一断られたら野宿の準備をしなきゃならないからな」
「うへー、このタイミングでの野宿は絶対に嫌だ! スノー、絶対に大人しくしておけよ!」
「アウッ!」
それからどう交渉するか話し合った結果、ラルフが一人で交渉しに行くこととなった。
女であるってだけで警戒心が一段階下がるし、ヘスターを交渉に行かせることも考えたが……。
なぜか人に好かれるラルフに行かせるのがベストと考えた。ちなみに俺は論外。
ラルフを送り出してから、ヘスター、スノーと村の外で待機すること約三十分。
交渉するにしても流石に遅すぎるし、何かトラブルに巻き込まれたのかと心配になってきたところで、やけに楽しそうなラルフが村から戻ってきた。
「随分と遅くなかったか? トラブルに巻き込まれた訳じゃないよな?」
「いや、色々と話し込んで遅くなっちまっただけだ! 泊めてくれるって話になったし村に入って大丈夫だぞ!」
「話し込んでたって……完全に無駄な心配だったな。スノーについても説明したのか?」
「ちゃんとしたぞ! ただ家に入るのは狭いから、馬小屋を使ってほしいとのことだ! スノー、それで大丈夫か?」
ラルフにそう尋ねられたスノーは嫌そうに軽く唸ったが、流石にどうしようもないことを察してくれてか渋々了承してくれた。
言っても一日だけだし、拒否したところで馬小屋よりも酷い野宿が待っている訳だからな。
その辺りを天秤にかけ、スノーは了承してくれたのだろう。
「よしっ! んじゃ、村の中に入ろうぜ! 泊めてくれるって言ってくれた人の場所まで案内する!」
ラルフの後をついていき、そのまま泊めてくれる家まで案内された。
広々とした空き家を貸してくれるようで、想像していたよりも何倍も良い場所で寝ることができそうだ。
スノーが寝る馬小屋もふかふかの藁が敷かれて居心地は良さそうだし、割と気に入った様子のスノーはすぐに丸くなって眠りについた様子。
ご飯については持ってきた保存食で済まそうと思っていたのだが、交渉に向かった三十分の間でラルフは随分と気に入られたらしく……町長の家でご飯を振舞ってもらえることとなった。
「態度とか俺とあんまり変わらない気がするんだが、ラルフは人に好かれすぎじゃないか? 隠れスキルとか持っていたりしてな」
「俺とクリスが変わらない訳ないだろ! 俺は元気でクリスは元気がない! 俺は気を遣えてクリスは気が遣えない! 共通点は敬語が使えないぐらいなもんだ!」
「いや、そんなことはないだろ。なぁ、ヘス……」
ヘスターに尋ねようとしたところ、わざとらしくそっぽを向かれてしまった。
いつもは助け船を出してくれるヘスターがこの反応ってことは……ラルフの言う通りなのだろう。
もう少しだけ人付き合いを考えなくてはいけないとは思うが、まぁ無理だろうな。
村長の家で飯を頂きながら話に花を咲かせ、少し前にこの村を訪れたクラウス達の話も少しだけ聞かせてもらうことができた。
ただ大した関わりもなかったようで、一泊だけ泊まっただけらしく情報は全く得られなかった。
まぁこの村に泊まったという事実から、『フォロ・ニーム』に確実にいるということは分かったな。
ついでに村長が話した、俺らが泊まる空き家と同じ空き家に泊まったという情報は正直いらなすぎる情報だったが……。
意識して無駄に意識しないようにし、俺達は明日に向けて早めに床についたのだった。





