第408話 軽口
構えているゴーティエを無視し、俺はアレクサンドラの下へと向かう。
最初から割りと丁寧な感じだったが、『アンダーアイ』の一件以降は更に丁寧になった感じがする。
今も頭を下げ続けられているし、ここまで下手に出られると少し喋りづらい部分があるんだよな。
「わざわざ見送りに来てくれてありがとう。いつもは三人だったけど、今回はアレクサンドラ一人なんだな」
「ギルモアとブルースは怪我の具合が良くないので、私一人で見送りに来ました。本当であれば私もついて行って、前回助けられた恩をお返ししたいところなのですが……私がついて行っても足を引っ張るだけですので、王都から応援させて頂きます」
「前から思っていたが、そんな気負わなくていいぞ。逆に俺がやられかけていて、アレクサンドラの方が早く片付いていたら助けてくれただろ? たまたま俺の方が早く片付けられたってだけだ」
「だとしても、命を助けられたことには変わりありません。私だけでなく、多くの王国騎士の命にも関わることでしたから」
なんとか普通に接してくれないかと試みたが、この感じだと無理そうだな。
ならば素直にその気持ちを受け入れて、無事に帰ってきてから何か返してもらうか。
「……そこまで言うのであれば、王都に戻ってきたら何か良いものでもくれ。それでチャラにしよう」
「はい! 私に買えるものでしたら何でも買わせて頂きます! 多少所持金が超えていたとしても、三番隊でお金をかき集めて購入させて頂きますので」
「そこまでの要求をするつもりはないが……ああ。楽しみにしてる」
アレクサンドラとは帰ってきた後の約束を交わし、その後握手をしてから――最後に一番後ろに突っ立っているミエルの下へと向かう。
ローブを身に纏い、杖も持っていることから装備はバッチリなように見える。
ミエルに関しては俺も実力を把握しているし、戦力になるのは間違いないから誘ってみるか。
「ミエルは見送りに来てくれたのか? それとも俺達と一緒に来てくれるのか? パーティから除外された訳だし、ミエルもクラウスに恨みがあるだろ」
「死地と分かっているのに一緒に行く訳ないじゃない! 確かにクラウスに対して恨んでいるけど、それと同じくらいクリスも恨んでいるからね!」
俺を殺そうとしてきたぐらいには、ミエルに恨まれているのを忘れていた。
何度か一緒に戦った訳だし、てっきりもう恨んでいないものだと思っていたが、無理やりコキ使っていた分まだ恨まれているらしい。
「装備もしっかりしているし、てっきりついてきてくれるかと思っていたんだが……当ては外れたか。というよりも、俺はミエルに恨まれる筋合いはないだろう。完全なる逆恨みだ」
「はぁ!? 最初にクリスが私を騙したんでしょ! そこから私がどれだけの時間を無駄にしてきたことか!」
「手紙のことを言っているのであれば、ミエルが襲ってきたのが悪い。襲われていなければ騙すことだってしていない訳だしな。エデストルでだってそうだ。ミエルから襲ってきたのを忘れたとは言わせないぞ」
俺がそう問い詰めると何も言い返せなくなったのか、小さくぐぬぬ……と唸ることしか出来なくなった様子。
「ほら、全部ミエル発端だろ。二度も一方的に襲われても殺さず、ここまで友好的に接している俺に感謝の言葉くらい欲しいところだけどな。……ほら、ありがとうございますを言え」
「ぐ、ぐぐぬぬぬ……あ、ありがとう、ございます」
無理やり感謝の言葉を述べさせると、表情を酷く歪ませながら睨みつけてきたミエル。
変顔をしているかのようなその顔に、俺は思わず笑ってしまった。
「ひっどい顔だな。全然感謝の気持ちが伝わってこない」
「本当に性格の悪い兄弟ね! 願わくば、共倒れしてほしい!」
「残念だけど共倒れはしない。最後に立っているのは俺だ」
「なら、キッチリとぶちのめしてきてよね。そうしたら私がクリスにリベンジマッチを……」
「俺にリベンジマッチを挑むのか?」
「やっぱやめておくわ。もしクラウスに勝ったのだとしたら、私に勝ち目はないから。心の底からムカつくけど、勝てない戦いはしない主義なのよ」
「それは残念だ。また俺に負けて、面白い顔をさせてやろうと思ったのにな」
「うるさいわね! 時間はないんでしょ? からかっていないでさっさと出発しなさいよ」
「確かにそうだな。恨んでいる相手なのに、わざわざ見送りに来てくれてありがとう」
俺が右手を差し出すと、ジト目で睨みつけながらも俺の手を握り返してきたミエル。
こうしてミエルとも握手を交わしたことで、見送りに来てくれた全員と挨拶を済ませることができた。
オックスターの時もエデストルの時のそうだったが、こうして見送りに来てくれる人物がいるというのは非常に嬉しいことだな。
「それじゃ行ってくる。クラウスとの決着をつけてくるよ」
見送りに来てくれた人達にそう言葉を残してから、改めて軽く頭を下げ――俺達はクラウス達がいる、古代遺跡『フォロ・ニーム』に向けて出発したのだった。





