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第40話 奮発


 初めての指定なし依頼である、はぐれ牛鳥の討伐を行った日から約一ヶ月が経過した。

 一日で金貨五枚もの大金を稼ぐことができ、圧倒的に効率の良い仕事を見つけることができたと息巻いていたのだが……現実はそう甘くはなかった。

 

 初めてはぐれ牛鳥を討伐した日から、次に見つけることが出来たのはその六日後。

 その間の期間はずっと、あの岩場を一日中捜索する日々を過ごしており、最初の三日間に至ってはヘスターとラルフまで雇っていた。


 無駄に時間を浪費する感覚に辟易としながらも、ようやく二匹目を発見、討伐に至ることができた。

 だが、はぐれ牛鳥はサイズが小さかったこともあり、買取金額は金貨三枚。


 所要日数六日のため、日で割ると一日辺り銀貨五枚。

 更に、ヘスターとラルフを三日間借り出したため銀貨六枚を消費。

 結局、一日辺り銀貨四枚となり、指定ありの依頼と変わらない結果だったのだ。

 

 捜索には丸一日使っていたし、夕方には全ての作業が終わる指定ありの依頼よりも費用対効果が悪かったのだが、俺はどうしても初日のことが忘れられず、この一ヶ月間は全てはぐれ牛鳥狩りに専念した。

 結論から言うと、一ヶ月間で稼いだ金額は初日の分も含めて金貨二十六枚。


 初日の大幅な上振れはあったものの、前月の倍以上の金を稼ぐことができた。

 一ヶ月間で一番上振れていたのが初日で、下振れていたのが初日の次である六日。

 

 平均的には四日間捜索すれば一匹見つけることが出来る計算で、報酬は金貨三枚から金貨五枚。

 一日、金貨一枚ぐらいを稼げる美味しい依頼であったことには変わりなかったため、初日に大当たりを引けたのは色々な意味で本当に良かった。

 最初の討伐に六日間かかっていたら、二度とはぐれ牛鳥狩りはやらなかっただろうしな。


 兎にも角にも、前月の稼ぎの余っている分と含め、俺の手元には金貨三十枚がある。

 これで白金貨二枚の魔導書を購入できるのだが、さてどうしたものか。

 

 ヘスターを先にものにするのか、それともラルフの怪我を治すためにまだ貯金するのか。

 あの二人も、この一ヶ月間でようやくルーキーランクから脱したのだが、脱してもなおゴブリン狩りを続けている。


 ラルフの足の都合もあって、ブロンズランクのクエストはこなせるレベルに達していないのだ。

 正直、はぐれ牛鳥の捜索に六日かかったのは、最初の三日間ラルフを連れていたっていうのもあったぐらいだしな。


 ヘスターが魔法を覚えることが出来れば、指定ありの依頼ならこなせる可能性が出てくる。

 ただ伸び幅が大きいのは、上級職を持っているラルフの足の治療を行うことのはず。


 悩みに悩んだ末……俺は魔導書を買うことに決めたのだった。

 今、ラルフとヘスターは生活費を抜いて、一日銅貨五枚の稼ぎを出している。


 これがブロンズランクの依頼をこなせるようになれば、銀貨三枚の稼ぎへと跳ね上がるのだ。

 一ヶ月換算で約金貨七枚の差となるのを考えると、やはり先にヘスターに魔法を覚えてもらうのが一番良い。

 ……あと、単純に俺が魔法を見てみたいというのもある。


 そういった訳で、俺ははぐれ牛鳥を納品した後に『七福屋』へとやってきた。

 最近は朝から晩まではぐれ牛鳥を探し回っていたため、かなり久しぶりの訪問となる。

 売れていないかだけが懸念点だが、流石に白金貨二枚のものが裏通りで売れる訳がない……はず。


「いらっしゃい。……お? おお。クリスじゃないか、随分と久しぶりじゃのう」

「ちょっと忙しくてな。中々遊びに来れなかった」

「それで今日は急にどうしたんじゃ? 遊びにきてくれたのかの?」

「いや、買い物をしに来たんだよ。以前、売って欲しいといった魔導書ってまだあるか?」

「――っ! ま、まさか魔導書を買ってくれるんか?」

「ああ。そのまさかだ」


 そう伝えた瞬間に、店主のおじいさんは飛び跳ねて喜んだ。

 老人が感情を全面的に出して喜んでいる姿など、生まれて初めて見たため思わずたじろいでしまう。


「クリス、本当にありがとのう! 知られていない人物の本だけでなく、魔導書まで買ってくれるとは……! これでワシは安心して老後を過ごせるわい」

「別にじいさんを助けるために買う訳じゃないから礼なんていらない。俺が欲しいだけだからな」

「それでもワシが助かるんじゃから同じことよ。ちょっと待っておれ。すぐに持ってくるからの」


 鼻歌交じりで店の裏へと消えていったおじいさんを待っていると、前回見せてもらったのと同じ魔導書を持って戻ってきた。

 

「これが魔導書じゃ。白金貨二枚なのだが、一括払いで大丈夫かの?」

「ああ、一括で払わせてもらう」


 俺は袋から金貨二十枚を取り出し、机の上へと並べる。

 おじいさんは並べた金貨の枚数を数えてから、俺に魔導書を手渡してくれた。


「この魔導書は、一応ヘスターに取り置きを頼まれているものじゃ。盗まれんように気をつけてな」

「ははっ、大丈夫だ。それじゃまた何かあったら来させてもらう」

「ああ、いつでも待っとるからの」


 おじいさんに見送られ、俺は『七福屋』を後にした。

 前回来た時は、ヘスターに使うために白金貨二枚なんて馬鹿げていると思っていたが、まさか本当にヘスターのために白金貨二枚を使うことになるなんてな。

 

 あの二人を強くさせるのは自分への投資。

 一人では絶対に行き詰まる場面が訪れるはずだ。


 クラウスに至っても、王都に集められた優秀な人材からパーティを組む奴を選ぶはず。

 来るべき日に備えて個人の強さだけでなく、パーティとしても負けないようにしなくてはならない。

 そう強く信じて手に持つ魔導書を強く握り締めた俺は、ヘスターに魔導書をみせるため、『シャングリラホテル』を目指して帰路へと就いたのだった。


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