第400話 作戦会議
グラハムとの食事会を終え、すぐに眠りについた翌日。
出発の日が二日後に迫っているため、グラハムからの情報を元に色々と動きを決めないといけない。
ラルフとスノーには買い出しに行ってもらい、宿屋に残った俺とヘスターでどうするかを話し合うことにしようか。
「……とまぁ、これが昨日貰った情報だ。この情報を踏まえてどう動くかを考えたいと思ってる」
「その情報が正しいのであれば、確かに考えなしに向かうのは危険ですね。どれくらいの戦力を集めているのかだけでも分かれば、作戦も立てやすくなるんですけど……シャーロットさんに尋ねても分からないですよね?」
「分からないだろうな。シャーロットはまんまと古代遺跡に追い込めたと思っているだろうし、情報を掴めていない可能性の方が高い。俺達で探る他ないだろうが、情報の伝手も一切ないから二日じゃ確実に無理」
話し始めたはいいが、正直完全に手詰まっている。
クラウスが網を張っているであろう古代遺跡に、俺達は正面から向かわなければいけない状態。
「この情報量では作戦の立てようもないですね。教会の人間もいるというのを頭に入れて動く――ぐらいしかやりようがないように感じます」
「確かにそうかもしれないな。こっちもマンパワーを使うために冒険者を雇うことを考えてもみたんだが、そこまでの金銭的余裕はないし、見ず知らずの人間をこちら側として迎え入れるのは抵抗がある」
「冒険者を雇うぐらいでしたら、『アンダーアイ』を攻め込んだ時に協力して頂いた王国騎士団に助力を願いたいです」
「確かに王国騎士団の方が信用できるな。……でも、唯一の知り合いである三番隊の面々は『アンダーアイ』との戦いで大打撃を受けているし、力を貸す余裕なんてないだろう」
アレクサンドラも普通に動けているように見えたが、ダメージは相当大きいだろうし戦うなんて以ての外なはず。
戦力として期待できるギルモアとブルースも、アレクサンドラ同様に大怪我を負っているしな。
他の団員も戦死したものや怪我を負ったものが多く、三番隊は実質機能を失っている状態。
三番隊ではなく他の隊であれば、動くことが可能かもしれないけど……それだと見ず知らずの相手な訳だし冒険者と何ら変わりない。
「あれだけの大規模な戦闘後に普通に動けている私達……というより、クリスさんが特殊な例ですもんね。この情報を貰った神父さんのお父さんが王国騎士団の団長さんなんですよね? その方にご助力願うのは難しいのでしょうか?」
そのことは俺も一度だけ頭を過った。
シャーロットも協力はしてくれるだろうし、グラハムの父親である王国騎士団の団長が協力を願い出てくれれば上手くいくのは確定だろうが……。
ここでグラハムに頼むのは違うと思ってしまった。
俺と境遇が似ているからこそなんとなく分かるが、グラハムは父親にはなるべく頼りたくないと思っているはず。
何よりも俺が逆の立場だったら、絶対に頼みたくないからな。
グラハムは優しい奴だから俺が頼めば引き受けてくれそうだが、これ以上の力は借りたくない。
「言えば多分取り次いでくれるだろうが、それは俺がしたくない。あまり関係値が高い訳でもないし、これ以上の迷惑をかけたくないってのが本音だな」
「そうなんですか……。それでしたら、やはり誰かに頼るというのも難しいですね」
「だな。俺達だけでなんとかする方法を考えるしかない」
振り出しに戻ってしまったが、ここまで来たらやはり自分達でなんとかするしかないということだろう。
そこから二人で色々と策を出しては練ったものの、結局大した案は出ないまま時間だけが過ぎた。
「策としてはこんなところでしょうか。……策というか、いつもと同じことをやる感じですけれど」
「だな。いつも以上に気をつけるぐらいしかやれることがないからな」
行うことになった策はスノーに広範囲の索敵を行ってもらい、補足として俺が索敵を行うというもの。
正に普段通りであり、恐らく作戦を練らずとも実行していたであろうが……特段やれることも思いつかなかったし、当たり前のことを当たり前にやるということで落ち着いてしまった。
「待ち構えられているというのを分かっていても、大した策を取れないのは痛いですね」
「まぁ、待ち構えていると分かっているのは気持ちの面では大きいし、作戦会議をしておいた甲斐はあったと思うぞ。いきなり襲われるのと、知った上で襲われるのは大分違うからな」
「それはそうですね。クリスさんのスキルで警戒も行えますし、大した案は出ませんでしたが話せたのは確かに良かったです」
作戦会議を円滑に進めるためにラルフには外れてもらっていたが、ここまで何も案が出ない状況を考えるとラルフが居てくれた方が良かったかもしれないな。
ラルフはアホだけど、アホ故に突拍子もないことを言ってくれる。
俺はそんなことを思いつつ、とりあえず今話したことや三人で情報整理を行うため、ラルフとスノーが戻ってくるのを宿屋で待ったのだった。