第399話 回復魔力
「色々と気になる単語があったんだが……まずは回復魔力について聞いてもいいか? 魔力は知っているんだが、回復魔力は聞いたこともない。答えられるなら是非教えてくれ」
「あー、確かに回復魔力という単語は聞き覚えがないかもしれませんね。能力判別では測ることができない情報ですから」
「ああ。初めて聞いた単語だったから引っかかった。それで教えても大丈夫な情報なのか?」
「もちろんです。クリスさんは魔力に性質があるのはご存じでしょうか? 基本である火、水、風、土の四つの属性がありまして、大体の人の魔力はこの四属性から形成されているんです」
それに関してはゴーレムの爺さんから、魔法を教わる時になんとなく聞いたのを覚えている。
俺は火属性が得意な体質で、爺さんは確か……水属性が得意だとか言っていた。
つまり俺の魔力は火属性が大半を占めており、他の三属性は少ないということだよな。
俺に魔法の才能がないというのもあるだろうが、【ファイアボール】しか使えないのもそう言った理由。
逆に爺さんは全ての属性で上級魔法を扱えると言っていたし、水属性の割合が多いながらも四つの属性がほぼ均等に形成されているってことだろう。
「そのことについてはなんとなく知っている。俺は以前、火属性の割合が高いと説明を受けた」
「なら話が早いですね。基本的にはこの四つで形成されているのですが、稀に四大元素とは違う属性の魔力が混じっている人がいるんです。複合属性である氷や雷を元々持っている人や、そもそも複合ですらない光や闇……その中の一つが回復属性ってことですね」
なるほど。グラハムの説明が非常に分かりやすく理解することができた。
そもそもの魔法の才がない俺にはあまり関係ないが、聞いているだけでワクワクするような話だな。
「詳しく説明してくれて助かった。非常に分かりやすかったよ」
「理解できたようで良かったです。他に聞きたいことはありますか? この際ですので私に分かることなら全て説明しますよ」
「それはありがたい。なら、【高位神官】についても教えてもらえるか? これから相対するかもしれないからな」
「構いませんよ。【高位神官】はいわゆる上級職業に値する適性職業です。数は少ないですけど治療師や冒険者の中にもいるようですが、【高位神官】というだけで司教以上の地位が確定してますので、基本的には教会に勤める者が多いですね」
確か宗教者の序列は、教皇>枢機卿>大司教>司教>司祭(神父)>助祭>修道女>信徒って感じだったはず。
【高位神官】の適性職業を授かった段階で上位10%は確定しているんだから、結局のところ教会も適性職業だけで全てが決まるのか。
まぁ『天恵の儀』が教会で行われている訳だし、当たり前といえば当たり前なのかもしれない。
「冒険者でいう【賢者】や【拳帝】といった職業に近い感じか」
「流石にそこまで優秀な適性職業ではなく、【魔導士】や【魔法剣士】ぐらいの感じですが……まぁ流石に細かいですね。とにかく上級職だと思って頂けたら大丈夫です」
「【高位神官】の能力については、回復だけって認識で大丈夫なのか?」
「そうですね。攻撃魔法として聖属性魔法も使えますが、クリスさんなら気にする必要はないと思います。ただ、枢機卿については私もほとんど情報がなく、唯一持っているのは【裁定者】という適性職業なことだけです。これは噂なのですが、昔に上位悪魔を滅ぼしたという話を聞いたことがありますので、噂が本当なのであれば実力者である可能性は高いと思います」
レアルザッドに居た時から俺を捜索していた枢機卿。
グラハムの話を聞く限り、戦闘面で注意するべきなのはこの人物だけって感じだな。
上位悪魔を滅ぼしたという噂が本当なのであれば、クラウスとの戦いの前に出くわしたくない相手。
でも、色々と借りた借りを返したいから心情としては難しい部分がある。
「なるほど。グラハムのお陰で本当に様々な情報が得られた。今更だが、教会側に属しているのにも関わらず情報を流してくれてありがとう」
「神父になった成り行きから察してくれていると思いますが、神父だからといって神様を信仰している訳じゃありませんからね。何なら神を恨んでいる節もありますし、応援したいと思っている方に肩入れしているだけです」
とんでもない発言のように思えるが、俺もグラハムの気持ちは痛いほどよく分かる。
仮に俺が【神官】の適正職業を得られ、今のような冒険者ではなく神父として働くことになっていたとしても、グラハムと同じように神を恨んでいただろうしな。
「神父としてはあるまじき発言なんだろうが、まぁ俺も似たような境遇だから分かるな。逆の立場だったら、俺もグラハムに肩入れしていたと思う」
「一見、私とクリスさんは似ていないような感じがありますが、根っこの部分はやはり似た何かがありますよね。……とりあえず私から追加でお話したいことは以上です。どうかくれぐれもお気をつけてください。またこうしてお話がしたいので」
「ああ。情報提供してくれたのが無駄にならないよう、片はしっかりとつけつつ――全力で生き残る」
俺はグラハムと固い握手を交わしてから、『ルアン』を後にしたのだった。
またしてもグラハムには助けてもらったし、この借りを返すためにも生きて帰らなくてはいけない。
そう心の中で強く誓い、俺は夜の王都の街を歩いて宿屋へと戻った。