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第396話 正体


「神父になったのは、単純に天恵の儀で授かった職業が【神官】だったからです。天恵の儀を行う前までは必死に剣やら魔法やらを叩き込まれていたのですが、授かったのが【神官】ということで色々と諦めました」

「そういう理由だったのか。トラウマだったとしたら聞いて悪かったな」

「いえ、私はもう既に受け入れていますので大丈夫ですよ」


 グラハムは笑ってそう言ったが、まだ腹の底では煮えたぎるものがあってもおかしくはない。

 全てを見た訳ではないし、俺とは家庭環境も全く違うから一概に決めつけはできないけど、家庭環境は違くとも似たような境遇だからなんとなく分かる。


 俺も【農民】を授かったが、【毒無効】スキルのお陰で周囲の冒険者と比べても抜きんでた力を得ることができた。

 ラルフやヘスター、スノーといった仲間にも恵まれたし、過去さえ忘れることができれば幸せな人生を歩むことができる状態にある訳だが……。


 そんな状態でも俺の心の根底にはクラウスや親父がおり、どれだけ金を持って強くなったとしても忘れることなどできない。

 グラハムは俺ほどではないだろうが、心の奥底で燻っているものはあるはず。

 笑顔にいつもの爽やかさが欠けていたことからも、俺はなんとなくだがそう感じた。


「あの……私の心を探ろうとするのやめてもらえますか?」

「すまないな。笑顔がどこか作ったようだったから少し気になった」

「言葉を介さない詮索は止めましょう! とりあえず私のことは信用してもらえましたかね? そろそろ落ち着いてご飯が食べたいんです。お昼から何も食べておらずお腹が空いてしまっていて……」


 そんな言葉と共に、グラハムの腹がぐぅーと小さく鳴った。

 席にもつかずに話していたため少し申し訳ない気持ちになりつつ、俺はグラハムの真向かいの席に座った。


「時間を食ってしまって悪かった。俺も腹は減ってるし料理を注文しよう」

「ですね。注文しましょう! ここはお肉料理がオススメですので、クリスさんも同じもので大丈夫ですか? 苦手なものとかあれば言ってくださいね」

「ああ。同じもので大丈夫だ。苦手なものも特にないから気にせず頼んでくれ」


 それからグラハムはウェイトレスに料理を注文し、料理が来るまでの間は引き続きグラハムについてのことを色々と聞いた。

 この店に着く前まではてっきり俺の話を根掘り葉掘り聞かれるかと思ったが、まさかの立場が逆転してしまっている。

 それぐらい『クロスランド』の名は興味を引いたし、王国騎士団の団長の息子で天恵の儀で戦闘職ではない適性職業を授かったという境遇も相まって色々と聞いてしまった。


「……とまぁ、これが私がレアルザッドの教会で神父をやっていた経緯ですね。クリスさんが何をしていたのかや、クリスさんが去ってから何をしていたかについてを話したかったのですが、私の過去の話ばかりになってしまいました」

「興味が出てしまって色々と聞いてしまった。ただ、非常に面白い話が聞けたよ」


 ラルフやヘスターとは全くの別種ではあるが、過酷な人生を歩んでいるのが話を聞いて分かった。

 家族から見放されなかった俺の人生と言うべき感じで――色々と聞いておいてなんだが、『クロスランド』という名前に未だに縛られているのが分かる。

 

「クリスさんの過去も気になるんですが、他に話したいことが山ほどありますからね。――っと、その前にようやくご飯が出来上がったみたいです」


 料理を運んでくるウェイトレスの足音とかは特に聞こえていなかったのだが、グラハムの言葉通りその一分後に料理が部屋へと届けられた。

 匂いで分かったのか、それとも常連ならではの何かがあるのか気になるところではあるが……それよりも運ばれた肉料理の見た目が最高すぎる。


 皿の真ん中に小さく盛られたミディアムレアのステーキ。

 色とりどりの野菜やソースがかけられており、匂いそれから見た目でも楽しむことのできる一品。

 量は正直気になってしまうところだが、グラハム曰くここから色々な料理が運ばれてくるらしいから目を瞑る。

 

「こちらはゴールデンファングのポワレでございます。かかっているソースは――」

「詳しい説明は大丈夫ですよ。……クリスさんは聞きたいでしょうか?」

「いや、聞いたところで理解できないからな」

「かしこまりました。ごゆっくりとお召し上がりください」


 何よりも早く食べたいという俺の心境を察してくれたのか、ウェイトレスの説明を途中で止めてくれたグラハム。

 ウェイトレスが軽くお辞儀をして出ていったのを確認してから、俺はナイフとフォークを使ってポワレなる料理を口に運んだ。


「――うまっ! 肉もソースも抜群に美味しい」

「そう言ってもらえて良かったです。お肉だけでなく他の料理も美味しいので是非楽しんでください」

「グラハムがオススメする店なだけあるな。存分に楽しませてもらう」


 俺とグラハムは次々と運ばれてくる料理を平らげていき、最後に出されたデザートを完食して『ルアン』の料理を満喫した。

 食事中に先ほど話せなかったことを話そうと考えていたのだが、料理に夢中で料理の感想以外何も話すことができなかったな。


 時間の使い方は最低だったが、料理は『ペコペコ』のワイバーンステーキに匹敵するほど最高。

 決戦の前に最高の料理を食べることができたし、グラハムには本当に感謝だな。



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