第393話 喜びの表現
王都の入口へと辿り着くと、一人で立っているヘスターの姿があった。
姿が見えないことから、ラルフとスノーはまだ戻ってこられていないようだな。
「ヘスター、待たせてしまったか?」
「あっ、クリスさん。全然待っていませんよ。私も先ほど到着したばかりです」
「それなら良かった。宿の方はどうだった? 見つかったか?」
「はい。『ギラーヴァルホテル』は駄目でしたが、魔物可で良さそうな宿屋を取ってあります」
「流石ヘスターだな。ラルフはまだ戻って来ていないよな?」
「この場にいないということはそうだと思います。距離的なことを考えても、もう到着していてもおかしくないと思うんですけどね……」
ヘスターと合流し、そんな会話をしていると――遠くから聞き覚えのある鳴き声が聞こえた気がした。
二人で鳴き声の聞こえた方角を見てみると、門を潜り俺達の下へと走って近づいているスノーの姿が見えた。
「あれは絶対にスノーですね!」
「スノーの後ろで必死に走ってるラルフも見える。どうやらちゃんと迎えに行けたようだな」
凄まじい勢いで駆け寄ってきたスノーはそのままの勢いで俺に突っ込んできた。
瞬時に【要塞】【鉄壁】を発動させて受け止めるが、毎度のことながらもう少し威力を弱めてほしいところ。
「スノー、元気だったか? 迎えに行けずに悪かったな」
「アウッ!」
ベロベロと舐めまわしてくるため、顔を中心にベットベトになっていく。
白いフワフワな毛並みは変わっていないが、ずっと森で過ごしていたからか臭いが少々キツくなっているため、ある程度で止めてほしいのだが……食べられるのではという勢いで舐めてくる。
「スノー、嬉しいのは分かったから落ち着いてくれ。メロンも買ってあるから」
メロンという単語に耳をピンと立てると、急にお座りをして舐めるのを止めたスノー。
それでも口はハァーハァーと言っており、尻尾も地面を叩くように振っているため、なんとか本能を理性で抑えているといった様子。
「スノー、元気にやっていましたか? あとで一緒にお風呂に入りましょう」
「アウッ!」
俺には遠慮なく突っ込んでくるのに対し、ヘスターには対応が優しいんだよな。
最大の嬉しさを見せつつも、舐めるのも手だけだし。
「ぜぇーはぁー。……す、スノー速すぎるだろ! てか、いきなり走り出すなよ! それも王都が見える前からだしさぁ!」
「随分とお疲れみたいだな。迎えに行ってくれて助かったよ」
俺達の下に辿り着くなり、膝に手をついて肩で息をしているラルフに労いの言葉をかける。
この様子だとラルフを置いて走り出したようだし、一般人から見たら凄まじい勢いで襲い掛かってきた魔物。
ラルフが必死に後を追いかけてくれて良かった。
「あ、ああ。俺が行きたいって言ったんだし礼なんかいらん! それよりもちょっとだけ休ませてくれ! 汗がだっくだくだし風呂も入りてぇ!」
「それじゃ宿屋に向かうとしよう。食材はあるし、宿屋にキッチンが付属してるなら飯も作れるからな」
「ついてますよ! お風呂とトイレ、それからキッチンもついてます」
「流石はヘスター! 気が利くぜ!」
「だな。早速案内を頼む」
こうしてスノーとの久しぶりの再会を喜んだ後、俺達はすぐにヘスターが取ってくれた宿屋へ向かうことにした。
案内されるがままついていき、辿り着いた宿屋は以前宿泊した『ギラーヴァルホテル』にも負けないくらいの大きさの建物。
名前は……『スカイトップ』と書かれている。
「もしかしてこの宿屋か!? いいのかよ、めちゃくちゃ高いだろ!」
「別に構わないだろ。金ならあるし、あと三日……いや実質二日しか滞在しないんだからな。最後の決戦前くらいは豪勢にいこう」
「確かに……そう考えたら良い宿屋に泊まるべきなのか!」
「そう言われていましたので、私も魔物可の一番良い宿屋を探してこの宿屋を見つけたんです。もう既にお部屋も取ってありますので、私が案内しますね」
ヘスターを先頭に宿屋の中に入ったのだが、入った瞬間から既に普通の宿屋とは一線を画していた。
闇市場のように下ももちろんあるが、やはり上は飛びぬけているのが王都。
教会とはまた違った豪華な造りの内装で、金がふんだんにかけられているのが馬鹿な俺でも分かる。
汚れた服装で中に入るのが悪い気がしてくるが、それだけの金は払っているため堂々と歩いて部屋へと向かった。
俺達の部屋はこの建物の最高層である四階にあり、この宿屋で一番広い部屋らしい。
魔物可なだけあって扉からまず大きく、隣の部屋との間隔から相当広いのが入る前から分かる。
「このお部屋です。鍵を開けますね」
「くぅー、ワクワクしてきた!」
ラルフはそわそわとヘスターが扉を開けるのを待っており、スノーもそんなラルフに触発されて尻尾をぶんぶんと振り回している。
かく言う俺も非常に楽しみで――鍵を開けた瞬間に部屋へと飛び込んでいったラルフとスノーの後を追い、俺もすぐに部屋の中へと入った。





