第392話 久しぶりの再会
予定していたよりも長居してしまったせいで、日が落ちかかっている。
宿屋を取っているであろうヘスターとの待ち合わせが、日が落ちたタイミングで王都の入口前のため、早いところ教会へ向かうとしようか。
グラハムには別に急いで会いたい理由とかはないのだが、世話にはなったし近くにいるのであれば会っておきたい。
本当ならシャンテルや副ギルド長とも会いたいところだが、オックスターは流石に遠すぎるからな。
オックスターの面々のことを思い出しつつ、俺は西地区からメインストリートへと戻ってきた。
王都の教会はメインストリートの一等地に建てられており、倒れてから寝かせてもらっていた王国騎士団の屯所の近くにある。
それもかなり広い造りとなっていた屯所よりも更に大きく、通る度に目が向いてしまうほど豪華絢爛な建物。
俺はそんな教会の前に立ち、建物を見上げてから……大きな扉を押して中へと入った。
色々な街を巡り様々な教会を見てきたが、どこの教会とも違う異質さ。
紫色のステンドガラスが影響しているのか建物内は暗く、まだ日は出ているのに非常に落ち着き払った内装。
暗いからといって神々しさが欠落しているかと言われたらその真逆で、壁やら柱やらに施されている金の装飾がより強調されていて圧倒的な神々しさを感じる。
人も多数いるが真剣に祈っているためか、俺の足音が響くぐらい無音な空間。
俺はそんな圧倒的な空間に呑まれつつも、とりあえずグラハムの情報を得るために誰かに聞き込みをしないとな。
……とはいうものの、シスターや神父の姿が見えるものの静かに祈っているため、非常に話しかけづらい。
奥に能力判別部屋のような部屋が見えるため、能力判別部屋で待機してそこにやってきた神父だかシスターに話を伺おう。
そう決めた俺は、悪目立ちしないようになるべく音を立てないように歩き、奥にある能力判別部屋へと入った。
やはり奥の部屋は能力判別部屋だったようで、真ん中に水晶とベルが置かれている。
俺は椅子に座ってからベルを手に取って鳴らし、誰かがやってくるのを静かに待つ。
手前の部屋は凄まじかったが、能力判別部屋は他の教会との違いはそこまでなく安心するな。
椅子に座り、リラックスした状態でしばらく待っていると、奥の扉が開かれ部屋の中へと入ってきたのは……まさかのグラハムだった。
「これは――お久しぶりですね。私のこと覚えていますか?」
部屋に入ってきた瞬間に俺も気がついたのだが、俺が声を出す前に先に声を掛けてきたグラハム。
何百人、下手すれば何千人と相手をしているであろうグラハムが俺のことを覚えているか疑問だったが、どうやらしっかりと覚えてくれたいたようだ。
「もちろん覚えている。なんなら探してたんだ。グラハムも俺のことを覚えてくれていたのか」
「当たり前ですよ。未だにクリスさんのような、能力判別を連続して行う人に会ったことがありませんから」
そう言って爽やかに笑ったグラハム。
俺に情報を漏らしたせいで飛ばされたと思っていたから心配していたが、特に変わった様子もないようだし元気そうで一安心だな。
「それで……私のことを探したと言ってましたが、何かご用でもあったのですか?」
「いや、用ってほどのものじゃない。レアルザッドを出発する前に色々と気にかけてくれたし、戻ってきたから挨拶をしようと思ってただけだ。貴重な情——」
そこまで言いかけたところで、珍しく慌てた様子で口の前に一本指を立てたグラハム。
……そういえば、王都の枢機卿が俺を探していたんだっけか。
この場所でその情報の話は流石にまずかったな。
「すまんすまん。ここじゃなんだし、別のところで話をしないか? グラハムが良ければだが」
「もちろん構いません。仕事が終わってからなので、少し遅くなりますが大丈夫ですか?」
「ああ、こっちも少し用があるから大丈夫だ」
「それでは別の場所でゆっくり話しましょう。面白い話が聞けそうですので楽しみです」
色々と察してそうだし、こりゃ根掘り葉掘り聞かれそうだ。
まぁこっちも王都の事情とかを聞きたいし、どちらにとっても有益な話し合いができそうだな。
「それじゃ夜、改めて会おう。グラハムは良い店を知っているか? 全く詳しくないからそっちが決めてくれると助かる」
「『ルアン』というお店がオススメですね。クリスさんがここでよければ、このお店でどうですか?」
「もちろん構わない。それじゃ『ルアン』に改めて集合で」
「分かりました。楽しみにしてますね。……それで、今日は能力判別をされていきますか?」
能力判別か。グラハムを探しに来ただけだし、特に能力を見たいとかはないんだよな。
エデストルで能力判別を行ってから、『アンダーアイ』との連戦はあったものの特段成長させる何かをした訳ではない。
強いて言うのであれば、先ほど購入した『血の涙』で能力上昇が起こるのかを確認してみたいが……。
能力の上昇が確認されたとて、クラウスを仕留める用で使うから特に意味がない。
「いや、今日は大丈夫だ。グラハムを訪ねてきただけだからな」
「それは珍しいですね。クリスさん=能力判別のイメージでしたので」
「最近は能力判別の回数も大分減っているからな。それじゃ俺は失礼させてもらう」
「ええ。夜に改めてよろしくお願いします」
「ああ。よろしく頼む」
こうしてグラハムとは一度別れ、俺は教会を後にした。
グラハムが元気だったのは良かったし、覚えてくれたのも何気に嬉しかったな。
夜の会食を楽しみにしつつ、俺はヘスター、ラルフと待ち合わせている王都の入口へと向かったのだった。