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第390話 毒薬


「ちょっと聞きたいことがあるんだがいいか?」

「はい。なんでしょうか?」

「この店って毒薬は置いていないのか?」


 俺が店員にそう声を掛けると、呆けた表情で固まってしまった。

 さすがに毒薬を探す客なんて初めてだろうし、まぁ固まってしまうのも無理はない。

 

「毒薬だ。体に害のある薬を探している」

「……え、えーっと、ここはあくまでも病気や怪我の治りを早くする薬を扱っているお店ですので、毒薬は置いて――」

「いやいや、置いてあるぞい」


 困惑した様子でないと言おうとしてきた店員の後ろから、一人の老人がひょっこりと顔を出した。

 ゴーレムの爺さんよりも年齢は上な感じがあるが、色黒で金髪にサングラス——白衣を着ているが派手な柄シャツに短パンと大分ファンキーな姿をしている爺さん。


「あっ、カリファさん! 出てきちゃ駄目ですって!」

「いちいちうるさいのう。お主が嘘を言っておるから訂正したんじゃろうが」

「本当に置いてあるなら売ってほしい。金は言い値で買わせてもらう」

「言い値とは思いきったのう。いいじゃろう、ちょっと奥までついてこい」

「また営業停止命令を出されても知りませんからね!」


 会計を行っていた店員の叫びを無視し、店の奥へと向かって行くカリファと呼ばれた老人の後をついていく。

 見た目や言動からもかなり危険な臭いがするが、危険な毒を手に入れられるなら全然気にならないな。


「ほれ、そこに座れ。お茶とかは出さんからな」

「別にいらない。毒薬を売ってくれるならな」

「心配せんでも売ってやるわい。ちょっと待っておれ。何種類か持ってきてやるからのう」


 カリファと呼ばれていた爺さんは、楽しそうにしながら店頭の何倍もの量の棚から薬をいくつか取り出すと、取り出した薬を俺の前へと並べた。

 色も形も違う薬が三種類並べられ、毒薬というだけあってどれも見るからに危険な形状をしている。


「これがワシの店のおすすめ毒薬じゃよ。三種とも買うかのう? それともまずは説明を聞きたいか?」

「三種類もいらないから説明を聞かせてくれ」

「あい、分かった。まずはこの黒い棘っぽい薬は、ブラックフリージアと呼ばれる綺麗な毒の花を主成分とした毒薬じゃ。効果は目に見えて現れないが、一週間摂取し続けると必ず死に至らしめる毒薬じゃよ。死体からは毒が検出されんし、効果もほとんど現れないことから一番人気の毒薬じゃな」


 一発目からブラックすぎる毒薬が出てきた気がするが、俺の求めている毒ではない。

 暗殺や気づかれずに殺したい相手がいる場合には重宝するのだろうが、俺は効果が目に見えて現れる毒薬を欲しているからな。


「魅力的な毒薬ではあるだろうが、今求めているものではないな」

「なんじゃい、暗殺目的ではなさそうじゃな。じゃあ二種類目の毒薬を紹介するぞ。この黄色い星のような形の薬は、幻覚と快楽を引き起こさせる毒薬じゃ。一度使用すると強烈な依存症に陥り、すぐに二度目の使用を体が求めるようになる」

「……裏の組織が流通させている違法薬物と同じ類のものか?」

「けっ、そんな素人の安物と同じじゃないぞい。腕が切断された状態でも快楽で痛みが忘れるぐらいぶっ飛ぶ薬じゃ! ただし、連続して使用できるのはせいぜい三回まで。三回以上の使用を行うと心臓が止まってぽっくり逝ってしまう毒薬じゃよ」


 効能としては気になる部分も多いが、これも俺が求めている毒薬とは少し違う。

 致命傷を受けた際に使用し、一時的にダメージを紛れされるみたいな使い方もできそうだが、俺には【痛覚遮断】がある上にそもそも毒が効かないからな。


「二種類目も求めているのとは違うな。……最後のに期待していいのか?」

「まぁオススメがこの三種類ってだけで、まだまだ毒薬自体はあるからのう。んでは、オススメの最後の紹介をさせてもらうぞい。この赤い薬は通称『血の涙』と呼ばれておる薬でな。ワシが配合に配合を重ねた超強力な毒薬で、使用者の脳に強烈な負荷をかける薬なんじゃ。脳を取り出し洗いたくなるほどの痛みで、その痛みのあまり自ら目玉をほじくり返すことから――『血の涙』と呼ばれておる」


 話を聞いているだけで背筋が寒くなるような効能の毒薬だが、これぐらい強力な毒薬を探していた。

 サイズ的にも奥歯に仕込むことができそうだし、クラウスとの戦いで使うかどうかは分からないが、この『血の涙』を買わせてもらうとしよう。


「効能としては申し分ないな。その『血の涙』を売ってくれ」

「おお、買ってくれるのかのう! 一瓶でええか?」


 一瓶……。多分、一錠しか使わないし、多めに見積もっても十錠。

 一瓶なんて絶対にいらないが、値段を聞いてから決めるか。


「一瓶でいくらなんだ? そこまで量を使わないから、値段次第では減らして売ってほしい」

「一瓶で金貨五枚じゃな。減らすっていってものう……この瓶の半分でええか?」

「金貨五枚は高いな。金貨二枚分だけ売ってくれ」

「むむむ、言い値と言っていた割りには意外とケチじゃのう」


 そう文句を言いながらも、カリファは金貨二枚分の『血の涙』を売ってくれた。

 正直あまり期待はしていなかったが、これで毒薬についてはもう十分だな。



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