第388話 手分け
「色々な情報提供や手回し本当に助かった」
「気にしないでいいわ。私にもそれだけのメリットがある訳だしね。それにミルウォークの情報だけは得られていなかったから、この作戦で大きな誤算があるとしたらミルウォークの存在だったの。それを自分達の手で先に倒したのだから、私の情報を正確なものにできたのはクリス達のお陰でもあるのよ」
そう謙遜しているが、ミルウォークだってシャーロットが誘導してくれた訳だしな。
実際に倒したのは俺だが、やはりシャーロットの手柄は大きい。
「なんにせよ本当に助かった。シャーロットの期待に添えるよう、キッチリと倒してくるから安心してくれ」
「ええ。倒せなかったら恨むから」
そんなシャーロットの言葉に俺は軽く笑ってから、ソファから立ちあがる。
それと同時に再び深々と頭を下げたアレクサンドラに軽く会釈をしてから、部屋を後にしようとしたのだが……。
未だに倒れているゴーティエが視界に入った。
「なぁシャーロット。ゴーティエを起こした方がいいか?」
「改めて聞くけど死んではないのよね?」
「ああ。……ほら、呼吸音は聞こえるだろ?」
「本当ね。なら放っておいていいわ。こちらで対処するから」
「分かった。それじゃ――三日後でいいのか?」
「私は見送りにいけるか分からないけど、ええ。また三日後で」
シャーロットに別れの言葉を済ませてから、俺は今度こそ『レモンキッド』の応接室を後にした。
『レモンキッド』に来る前は真っ暗だった外もすっかりと朝日が昇っており、メインストリートも人で賑わいを見せ始めていた。
「なんか色々と頭を使って眠いんだけど、気持ちが昂ってる変な感じだわ!」
「俺も全く同じだな。……とりあえず今日はこのまま活動しよう。時間も限られているしな」
「賛成です。まずは何からしますか?」
三日後と時間はあると言っても限られているため、手分けしてできることは手分けして行いたいところ。
まず始めにやるべきことは……イザベルの家に代わる宿探し、それとスノーの迎えだな。
シャーロットとの話し合いで、『アンダーアイ』に関してはもう完全に片がついたことが分かった。
クラウスも王都にいない中、こそこそ隠れる必要がなくなった訳だし、堂々と宿屋探しや買い出しを行いたい。
「まずは宿屋探し。それからスノーの出迎えだな」
「そりゃ真っ先にスノーの出迎えか! ……でも、スノーも『フォロ・ニーム』ってとこに連れて行くのかよ。下手すれば命を落とすかもしれないだろ?」
「スノーは言葉を理解してくれるし、これからの事情は直接伝えるつもりだが……スノーの決めたことに口出しする気はない。俺も心情としてはペイシャの森でこのまま待っていてもらいたいが、仮に何も伝えずにクラウスとの戦いで俺達が死んだとしたら、スノーから恨まれるだろうしな」
「私もスノーの立場なら絶対に黙っていてほしくありませんね。話を聞いた上で、残ってくれるというのなら残ってほしいですけど」
ラルフの言いたいことも分かるが、それを言い出したらラルフとヘスターも俺の中ではその対象となる。
二人を信じると決めた時から、スノーも信じると俺は決めていた。
「確かに俺も黙って行かれたら嫌だし、実際にクリスには怒ったからなぁ……。スノーにもキッチリと説明しないといけないのか」
「そういうことだ。それでスノーの出迎えだが、やっぱり俺かラルフのどっちかが行く。時間も限られているし、スノーには悪いが二人で迎えに行くのは効率が悪すぎるからな」
「なら俺が出迎えに行く! 迎えに行くって約束しちまったからな!」
「そうか。ならスノーはラルフに任せた。キッチリと連れて来てくれ」
「了解! 今すぐに発って、今日中には戻ってくるぜ!」
ラルフは先日までスノーのところに居た訳だし、今いる場所も正確に分かっている。
任せておけばすぐに連れてきてくれるだろう。
「私は何をしたらいいですかね?」
「ヘスターは宿探しを頼む。魔物が可ならば、『ギラーヴァルホテル』でいいからな」
「分かりました。まずは『ギラーヴァルホテル』に行ってみますね。駄目なようでしたら王都のホテルを色々回って探します!」
「頼んだ。俺は買い出しと情報の精査を行う。それと……一人会っておきたい人がいるから、そいつに会いにも行ってくる」
俺が会いたいという人物に心当たりがなかったのか、二人共に首を傾げた。
説明してやってもよかったのだが、どうせ説明したところで覚えていないだろうし実際に何かあってからでもいいだろう。
こうして各々のこれからの動きについてを決めたところで、俺達は一度イザベルの家へと戻った。
それから、ラルフはすぐにスノーを迎えにペイシャの森へと向かい、ヘスターは宿屋を探しにメインストリートへと向かった。
一人イザベルの家に残った俺は、荷物をまとめてから買い出しと王都に向かったと聞いていた顔立ちの良い神父に会いに行くとしよう。