第387話 古代遺跡
俺との戦いのために、シャーロットはクラウスを遠征させたという訳か。
確かに闇市場というアンダーグラウンドな場所ならまだしも、王都内で戦えば他の人に迷惑がかかる可能性が非常に高い。
それに王都内には『アンダーアイ』の他にも、クラウスの手がかかっている人間がいるだろうし、孤立させるという意味でも遠征へ向かわせてくれたのはありがたいな。
「そういうことだったのか。それでその決戦の地ってのはどこなんだ?」
「『フォロ・ニーム』と呼ばれる古代遺跡。ここ王都から帝国のある方角へ二日ほど向かった場所にある遺跡よ」
「全く聞いたこともないな。……それに古代遺跡って価値のある場所なんじゃないのか? そんなところで戦闘しても大丈夫なのかよ」
「そこも織り込み済みよ。クラウスには『フォロ・ニーム』の調査という名目で遠征に向かわせてはいるけど、実は『フォロ・ニーム』は既に調査済みの遺跡なの。地下へと繋がる造りの遺跡なのだけど、その先にあるのは古代闘技場。――ふふ、決戦の場としては最高でしょう?」
古代闘技場と言われてもパッとイメージしづらいが、闘技場と言われているくらいだから戦いに向いた場所なのは間違いないはず。
シャーロットなりの最高の舞台を用意してくれたって訳か。
「古代闘技場が最終決戦の場か。――色々と手を回してくれてありがたい。心臓が高鳴るくらいワクワクしてきた」
「お礼の言葉なんていらないわ。その代わり、キッチリとクラウスを仕留めてきて頂戴。それがあなたからの最大のお礼になる訳だから」
「ああ。クラウスは俺が確実に倒すことを約束する。……それで、四日前に発っているってことは俺達もすぐに向かった方がいいんだよな? ちんたらしていると王都に戻ってきてしまうだろ?」
ずっと気になっていたのはそこのところ。
調査を終えたクラウスが王都に戻ってきてしまう可能性は十分高いし、すれ違いになったら色々と面倒くさい。
「時間については心配いらないわ。『フォロ・ニーム』は相当に広い古代遺跡だから、調査には相当の時間を要する。いくら【剣神】といえど、数日で調査を行うなんて不可能よ。……まぁでも、何か不測の事態があるかもしれないから三日後には発たないといけないわね。クリス達には『フォロ・ニーム』の地図を渡しておくから、すぐに最奥にある古代闘技場へは行けるはずよ」
「三日後には出発だな。……大丈夫だ。三日もあれば準備も整う。『フォロ・ニーム』までの地図と『フォロ・ニーム』の内部地図の両方を渡してくれ」
「分かっているわ。それと、クラウスとそのパーティメンバーの情報も教えるから。今日は朝まで付き合ってもらうわよ」
「クラウス達の情報までくれるのか。これだけ色々と用意してもらったら本当に負けられないな」
「負けられないと思うのは自由だけど、油断だけはしないで頂戴。クリスの実力をしっかりと評価している上で、まだクラウスの方が分の良い戦いだと思っているから」
真面目な表情でそう言い切ったシャーロット。
クラウスに追いつくために努力してきたから分かっているが、あの一撃を目の前で見せられた俺が油断するなんてあり得ない。
『天恵の儀』が終わって数日しか経っておらず、戦いの“た”の字も知らないクラウスが放った【セイクリッド・スラッシュ】なるスキルの乗った一撃。
今でも思い出すだけで体が震えそうになるし、思い出補正とかではなく紛れもない強烈すぎる一撃だった。
衝撃波だけで家の壁をぶっ壊し、それでも斬撃の威力は収まらずに彼方まで飛んでいったからな。
数多のスキルを会得し成長した今の俺でもあんな芸当はできないし、クラウスに対して油断をするなんてのはあり得ないと断言できる。
剣神、剣神と騒がれているこの世の中で、皮肉なことだが一番あいつを評価しているのは俺だろうからな。
「大丈夫だ。油断なんて行為は絶対にしない。全身全霊を以て――俺がクラウスを殺す」
「……そう。それなら私からはこれ以上言うことはないわ。それでは『フォロ・ニーム』の情報とクラウス一行についての情報について教えていくわね」
「ああ。よろしく頼む」
それから俺は、シャーロットから様々な情報を朝まで聞かされた。
『フォロ・ニーム』についての情報もだが、それ以上にクラウス一行についての情報が非常に詳細にまとめられており、クラウス以外には会ったことすらないのだが、顔まで思い浮かべられるぐらいには情報を得ることができた。
ラルフとヘスターも真剣に話を聞いていたし、この情報のお陰で対策も取れるし有利に戦うことができる。
シャーロットには感謝しつつ、『フォロ・ニーム』に向かうまでの残りの三日間を有意義に使わないといけない。