第384話 その後のこと
ベッドに腰かけながらヴァンデッタテインの手入れをして待っていると、アレクサンドラが部屋を出てから僅か数分後に部屋の扉が勢いよく開けられた。
「クリス! 目を覚ましたのか!」
喜々とした声を上げながら部屋の中に飛び込んできたのはラルフで、そのすぐ後ろにヘスターもいる。
てっきりイザベルの家に戻っているかと思っていたが、この速度からしてこの屯所に留まっていたようだ。
「ああ。二人にも色々と心配をかけたな」
「別に心配なんかしてねぇよ! 傷らしい傷もなかったみたいだし、疲れで倒れただけだって治療師のおっさんが言ってたからな!」
「でも筋肉の損傷は大きいとも言っていましたし、もう起きても大丈夫なんですか?」
「ああ。若干体がダルいけどもう大丈夫だ。……それで俺はどれくらい寝ていたんだ?」
なんとなく一日ほどと決めつけていたが【能力解放】に【狂戦士化】を使った挙句、そのあと無理やり体を動かして幹部のプラウズとも戦っているからな。
これまでのこともあるし、三日間ぐらい寝ていてもおかしくないぐらいには体をこき使っている。
「時間的にはそれほど経ってねぇ! 昨日の昼過ぎに倒れて、今は翌日の朝だから一日経ってないくらいだな!」
「そうだったのか。エデストルの時は何日も寝てしまったし、もしかしたらまたそれぐらい寝たのかと思ったけど良かった」
「シャーロットさんが手配してくれた治療師さんの腕が良かったからかもしれませんね。なんでも王族が抱きかかえている典医で、凄腕の治療師なんだとアレクサンドラさんが仰ってました」
シャーロットがわざわざ治療師をよこしてくれたのか。
王族専門の治療師なのだとすれば、俺の回復が早いのも納得だな。
「シャーロットにも礼を言わないといけないな。……まだ色々と聞きたいことがあるんだがいいか?」
「もちろん! クリスが倒れた後の話が聞きたいんだろ?」
「いつにもなく察しがいいな。本当にラルフか?」
「俺はいつだって察しがいいだろ! そんじゃ話していくぜ――」
それからラルフとヘスターから、俺が倒れてからの話を聞いた。
俺がミルウォークや幹部二人を倒していたことで、あの後は特に苦労することもなく全ての建物を制圧することができたらしい。
『アンダーアイ』の構成員の半数以上は死んでおり、捕縛できた奴らは王国騎士団が預かっていて色々と情報を吐き出させられているようだ。
王国騎士団側の被害はアレクサンドラから聞いた通りで、ミエル、ラルフ、ヘスターの三人は全員無事で大きな怪我もなし。
死者は出ているため大きな声では言えないが、こちら側の完勝で『アンダーアイ』との戦いは幕は閉じたという認識で間違いないようだ。
ただ『アンダーアイ』による被害は予想以上に大きかったようで、制圧した建物の地下からは連れ去られていた人間や臓器を抜かれた大量の人の死体が発見され、また別の建物では王都に蔓延る違法ドラッグも大量に見つかったらしい。
「なるほどな。あの後は色々と見つかったようだけど、特に大きな事件が起こることもなく終わったのか」
「クリスが体を張ってくれたお陰だな! まぁ後処理を行った騎士たちは悲惨な感じだったらしいけど」
「あんま覚えていないけど、スキルを使ったこともあってド派手に暴れたからな。死体の処理等を行った騎士たちには申し訳ないが、俺が暴れたお陰で戦死しなかったと思ってもらうしかない」
「そんな影響もあって、昨日は闇市場自体が封鎖されていたみたいなのですが……もう今日からは普通に営業しているみたいですよ」
かなり大規模な戦闘が行われ、戦死者も多数だしたのにも関わらずもう普通の日常に戻っているのか。
流石は無法地帯なだけはあると、少しだけ感心してしまうな。
「色々と報告助かった。寝ていた間のことは大まかだが把握できた。この後の動きについてはシャーロットから何か言われてないか?」
「三日後にまた『レモンキッド』で話がしたいとだけ言われています。それまでは目立った行動を取らないようにしてくれ――と」
「三日後までは体を休めろってことか。とりあえず話し合いまではゆっくりするとしよう。二人も疲れているだろ?」
「確かに疲れてはいるけど、そろそろスノーが心配になってきたんだよな! クリスは動けないだろうから、俺が様子を見に行ってもいいか?」
スノーか……。
今はペイシャの森で待っていてもらっている状況で、確かに少しだけ心配ではある。
ただ『アンダーアイ』を片付けたら迎えに行くつもりだったし、三日後のシャーロットの話し合いが終わり次第、迎えに行きたいと思っているからな。
今日から三日間の期間はあるとはいえすぐに迎えに行くのに、今様子を見に行くのはかなり悩むところ。
「俺も心配だけど、この話し合いが終わり次第迎えに行くつもりでいるからな。スノーにはあと三日だけ待ってもらって、迎えに行けばいいんじゃないか?」
「……でも心配なんだよなぁ。強いけど変に優しいところあるし、ちゃんと飯を食えてなかったら大変だろ?」
「飯はかなりの量を置いてきているし、大丈夫だとは思うけどな。まぁラルフがどうしても心配って言うなら見に行ってくればいいんじゃないか? 俺は疲労も残ってるし王都で待たせてもらうけど」
「よしっ! じゃあ一人でちょっくら様子を見に行ってくる! ヘスターも王都に残ってていいぞ!」
「ええ。スノーの様子を見に行くのはラルフに任せます。私も疲れを取るのに専念させてもらいますね」
こうして話し合いまでの三日間の過ごし方を決めたところで、俺達は王国騎士団の屯所を後にしイザベルの家へと戻ったのだった。