第381話 激戦
かなり激しい戦いを行っているようで、階段を使って上へと向かっている道中、相当な人数の死体が転がっているのを目にした。
正確な死体の数は分からないが、感覚的に王国騎士が八割で『アンダーアイ』の構成員が二割と、戦況としてはかなり押されている印象を受ける。
俺は幹部であるブルーデンスも一撃で倒したし、ミルウォーク以外はほとんど苦戦していなかったから分かりづらいが、『アンダーアイ』は一人一人の戦闘力が非常に高い。
パブロのような戦闘要員ではない者もいるものの、基本的にプラチナランクぐらいの戦闘能力を持っている。
ウッドやダグラスダインに至っては、ただの構成員でありながらミスリルぐらいの強さはあったし、それだけでもレベルの高さが窺える。
対する王国騎士団は、基本的にシルバーランクぐらいの戦闘能力しか保有しておらず死体の数からも分かる通り、四人で一人を倒すという量でゴリ押しするしかない状況。
隊長であるアレクサンドラが殺られたら、一気に瓦解する可能性が高い。
道中に倒れているの死体を見てそんなことを考えつつ、俺とミエルは強い生命反応を感じる四階へと辿り着いた。
「この先に強い生命反応が二つある。一つはアレクサンドラだろうが、もう一つは確実に敵のものだ」
「はぁー、やっぱりまだ戦っていたのね。到着する前に決着ついててほしかった」
戦いたくない故の発言だろうが、仮にこの戦いに決着がついていたとしても戦うハメになっていたと思う。
それぐらいアレクサンドラの生命反応と思われるものは、衰弱しているのが分かる。
「ミエルが先に入ってくれ。そして敵が見えたら魔法を打て」
「分かったわ。近寄ってきたらクリスが戦ってよね」
「というか、魔法を打った瞬間に俺が前に出る」
軽く作戦を練ってから、俺達はアレクサンドラがいる部屋の中へと入った。
部屋に入るなり目に飛び込んできたのは、血だらけで倒れているブルースと副隊長のギルモア。
それから血まみれながらも、なんとか立っているアレクサンドラの姿。
ピカピカに輝いていた白銀の鎧だったからこそ、血が滲み出ていることでその凄惨さが際立っている。
そんなアレクサンドラと対しているのは、カルロに似た筋骨隆々の男。
装備が軽装だからこそ、そのはち切れんばかりの筋肉が目を引く。
恐らくだが、この男が幹部の一人であるプラウズで間違いないはず。
大男で王国一の怪力の持ち主って情報からも、プラウズ以外あり得ないだろう。
「【ヘイルインパルス】」
プラウズがメリケンのようなものを装備した拳で、瀕死のアレクサンドラを殴ろうとしたところをミエルの魔法が襲った。
氷属性が既に複合なのにも関わらず、更に雷属性を交えた複雑な複合魔法。
凄まじい速度でプラウズを襲い、飛んでくる魔法に気づいてガードを図ったようだが、ガードしていようがお構いなしに吹っ飛ばした。
卑屈な感じや情けない発言をよく聞くため忘れがちだが、やはり【賢者】なだけあって魔法の実力は桁違い。
ミエルがクラウス側だったら危なかったと思うと同時に、ミエルとクラウスの仲を瓦解させた昔の俺を褒め称えたくなる。
ミエルの魔法を見てそんな感情になりつつ、俺は吹っ飛んだプラウズ目掛けて突っ込んでいった。
残りの体力が少ないため、早期決着をつけなければ俺も危険を被る可能性がある。
ここまで【生命感知】と【痛覚遮断】のスキルしか使っていなかったところを、一気にスキルを発動させていった。
【肉体向上】【戦いの舞】【身体能力向上】【能力解放】。
身体能力を上昇させるスキルを発動させると同時に、酷い倦怠感に苛まれて意識が飛びそうになるが……一瞬だけ【痛覚遮断】を解除することで無理やり体を叩き起こす。
「ーーいってぇな! また新手の敵かァ!? いいぜ、ぶっ殺してやんよ」
ふっ飛ばしたは良かったものの、丸太のように太い両の腕でしっかりとガードされていたからかダメージはほとんどなさそうだな。
クロスさせた腕の隙間から近づく俺を睨み、野太い声でそう宣言してきたプラウズ。
確かに王国一の怪力の持ち主という噂に偽りはないようで、カルロよりも体のバランスが取れていて力も上回っているのが一目で分かった。
ただ、あくまでもカルロは左腕のみしかなく、仮にプラウズが片腕だけなら絶対的にカルロの方が上。
そう断言できるくらいの力関係だと思う。
倦怠感を振り払いながら冷静に分析し、プラウズがガードを解いて両腕を構えたのを見てから、更に深くまで近づいていく。
ミルウォークの時と同じような失敗は絶対にしない。
イメージするのはブルーデンスを仕留めた時で、ギリギリまで近づき間合いに入るか入らないかの瀬戸際で――俺は【黒霧】を発動。
部屋が【黒霧】に包まれて真っ暗になった瞬間に、【隠密】【消音歩行】を発動させて闇に紛れる。
「んだよっ、この暗闇は!!」
【聴覚強化】と【音波探知】でプラウズの姿を捕捉しているため、暗闇の中で闇雲に腕を振り回しているのが分かる。
流石の力なだけあり、その腕の風圧で【黒霧】が飛ばされ始めているのも分かるため、俺は気配を探られないように気をつけつつ背後へと回り込み――。
ただ腕を振り回しているプラウズの背後から、【剛腕】と【強撃】を乗せた一撃を叩き込んだ。