第375話 最後の手段
見た目に出ていない以上毒が回るという淡い期待も抱かず、残りの体力も一切考えないで全てをぶつける。
下手な策も無意味だと分かった今、余計なスキルは解除して能力を上昇させるスキルに絞って発動させた。
【肉体向上】【戦いの舞】【身体能力向上】【鼓舞】【剛腕】【野生の勘】【脳力解放】。
それから反動が大きすぎるが故に四割程度の力に抑えて使っていた【能力解放】を、初めて実戦で十割の出力で使うつもりでいる。
調整に手間取っていた時は何度か十割の力で使っていたが、出力の調整ができるようになってからは常に四割以下に抑えていたため久しぶりの出力マックス。
【能力解放】だけで、先に発動させていた全てのスキルを合わせたぐらいの強化を感じながらも、同時にその反動の大きさを身を持って体感している。
基礎能力も上昇しているし、今ならマックスで使ったとしても耐えられるのではという淡い期待があったのだが、どれだけ鍛えようが割合は変わらないからこうなるよな。
あとは【狂戦士化】を発動させるかどうかだが、【狂戦士化】は本当に使いたくない。
バハムート戦では完全に意識を飛ばしているし、背後に控えているミエルにも迷惑がかかるから使用は控え……いや、なりふり構わないと決めたのなら使わないといけないな。
他の誰に迷惑をかけようとも、目の前にいるミルウォークは俺がこの手で倒さなければいけない。
「ミエル。迷惑をかけるだろうが、後の始末は頼んだ」
「……は? それってどういう――」
ミエルは急な俺の言葉に素っ頓狂な声を上げたが、質問を言い終える前に俺は――【狂戦士化】を発動させた。
凄まじい高揚感と同時に、脳みそを思い切り振られている気持ち悪さが体を襲う。
バハムート戦の時はすぐに意識を手放してしまったが、今回は必死に意識を取られないように堪えていたのだが……。
血沸き肉躍ル最高の感覚。
今回は【痛覚遮断】も発動シていないし、何の枷もナい最高に気持チが良い状態だ!
「ねぇ、クリス! 急に黙り込んだし、さっきの言葉はどういう意味なのよ!」
「――黙レ、糞女! 最高ノ気分ナンだかラ邪魔をスルな!」
甲高イ声で喚くミエルに中指を立テると、目を丸くさセて驚イたような顔を見せた。
……イラッとしたガ、顔ガ面白いかラ許してヤルか。
「く、くそおんな……? って、後ろ見なさいよ!」
「戦闘の際中にどこを見ているんだよ! 俺相手によそ見は死を意味するぜ?」
俺ガ後ろヲ向いテイる隙を狙い、攻撃しテきたもウ一人の馬鹿。
不意を突いテいルと勘違イシたのカ、フェイントも入レずに隙の大きいジョルトブローを放ッてキテいるのモ馬鹿だナ。
左手に握らレテいル大剣は使わズ、中指を立てテいタ手で振リ返りざマにミルウォークの顔面ニ拳を叩き込ム。
ココまで不発だッたと言うこともあるが、完璧ニ決マったカウンターが身悶えするほど気持チが良い。
鼻血を噴キ出しなガラ地面を転ガるミルウォークを見下ろシテいるト、ドうも嗜虐心が擽ラレてくるナ。
ヴァンデッタテインは納めテ、俺も素手デ戦おうかな。
異様なマデの高揚感とイキってタ奴をコノ手で痛めツけるこトができル幸福感。
……くっクっく。口角ガ上がるノを抑えるコトができなイ。
「――ひっさしぶりに意識が飛びかけたぞォ! 貴様、動きがまた随分と変わったなァ!?」
噴き出タ鼻血を美味ソウに舐めなガら起き上ガったミルウォーク。
血ヤら何やラで真っ赤ナ鼻が、殴っタオレもビックリするぐラい腫れていテ……。
「う、うクッ……プっ。ぷっハっはっ! 随分ト滑稽な姿になっタな! ソノ真っ赤で真っ青なドデカ鼻、気持チ悪い姿のお前ニはお似合イだと思ウぞ」
「最初と比べて性格も替わったなァ! 冷静な感じが貴様のトレードマークじゃないのかァ?」
「クくく、ソのドデカ鼻で変ナ喋り方すルな。さっキかラ笑いが止まらナくテ腹が痛いんダよ」
「…………いいぜェ? そんなに死にてぇならブチ殺してやるよォ!」
どウやらキレたようデ、再び俺ニ向かっテ突っ込んできタ。
張り巡らセタ糸も忘レているようダし、コノ状態のミルウォークならまだヴァンデッタテインはイらない。
そう判断シたオレはヴァンデッタテインを鞘ヘト納め、ミルウォークと同じく両の拳を構えタ。
結構苦しメられた訳だし、軽くボッコボコにするくらいなラ許されルよな?
結局は殺す訳ダし、極悪非道ノ限りヲ尽くしてきた相手なラばその過程はどうデもいいはズ。
少しだケ残っていル良心を納得させ――オレは満面の笑みで向かっテくるミルウォークと殴り合イを行い、生死のギリギリまデ痛めつケる決断をした。