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第371話 ミルウォーク


 俺に斬られて大量の血を流しながら絶命しているブルーデンス。

 そして、その死体を見て大笑いしている声が部屋の中に響き渡っている。


 ミルウォークが狂っているのは噂や見た目から分かっていたが、仲間であるはずのブルーデンスの死体を見て笑っているのを見て、より顕著にそのイカれっぷりが現れている。

 即座にミルウォークに斬りかかるつもりでいたのに、本能が止めに入って動けずにいた。


「ケッケッケ、ゲッハッハッハ! やっぱ女は駄目だなァ!? 使えると思って仲間に引き入れたけど、大事なところで結局これだぜぇ!! ……ねぇ、あなたもそう思いませんか?」


 楽しそうに笑っていたミルウォークは、一呼吸おいてから俺に質問を投げかけてきたのだが、つい数秒前とは別人のように真顔となり、口調も全く変わって丁寧な感じになっている。

 わざと丁寧な口調に変えたという感じはなく、人が急に入れ替わったようなそんな感覚。


 大笑いから理解できておらず、人が変わったような様子を見て俺は説明を求めるように振り返ってミエルを見たのだが……。

 ミエル本人も知らない一面だったようで、吐き気を我慢しているかと思うほど顔面蒼白で、今まで見た中で一番ドン引いた表情をしていた。


 頭がこんがらがって助けを求めるつもりでミエルを見て、結局何の助けにもならなかった訳だが、俺以上に困惑している他人の姿というのは冷静にさせてくれる。

 思っていた形とは違う形だが、頭のネジがぶっ飛んだミルウォークに困惑していた中で俺は冷静さを取り戻すことができた。


「……別に女がどうこうとか、男がどうこうとかは一切思ったことはない。次はお前が死ぬ番だし、男だろうが女だろうが変わらないだろ」

「うーん、あなたとは気が合わなそうですね。私を殺すことができると思っているところが特にです」


 あの表情を見る限り、ミエルの援護は一切期待できない。

 状況的には二対一だが、一対一のつもりでミルウォークを殺しにかかる。


 苦戦を予想していたブルーデンスを一撃で倒すことができたため、下の階層から向かって来ている構成員の反応はまだ遠い。

 この戦いの決着は俺とミルウォークのどちらが強いかの……単純な実力勝負となる。


 ただまだ遠いとはいえ、確実に下の階層から応援が近づいてきているため、ダラダラと戦っている暇はない。

 ブルーデンスの時と同じように、一撃で仕留めるつもりで戦う。


 ヴァンデッタテインを構えたまま俺がゆっくりと距離を詰めると、ミルウォークは先ほどまで使っていた短剣を投げ捨てて、腰に差していたレイピアのような刺突型の剣を抜いて構えた。

 目の焦点が定まっていなかった先ほどまでとは違い、俺をしっかりと見つめている。


 言動だけでなく雰囲気や体の使い方までも、さっきまでとは別人のような気がして違和感が凄い。

 初手に【黒霧】を使って攻撃を仕掛けた時の相手だと思って戦うと、確実にズレが生じてあっという間にやられる。


 目の前にいるのはミルウォークのままで間違いないのだが、さっきまでとは別の人間だと思って戦う。

 互いに武器を構えた状態で軽く見合った後、ミルウォークに動く気配がないと悟ったため俺から攻撃を仕掛けることに決めた。


 【疾風】と【脚力強化】は温存した状態で、真正面から斬りに動く。

 どうしても先ほどの【黒霧】の中での動きが脳裏にこびりついて離れないが、無理やり考えないようにし素直に攻撃を仕掛けた。


 フェイントとかも交えずにシンプルな踏み込みからの上段斬り。

 ミルウォークの出方を窺うつもりでの攻撃なのだが、当のミルウォークはレイピアを持つ手を弓のように引き絞った状態で構えたまま一向に動く気配がない。


 カウンターでの突きが飛んでくるのは目に見えているが、ひとまずはこのまま斬りにかかる。

 ギリギリまで剣は振らず、先に突きを打たせて避けてから――両断するつもりで袈裟斬る。


 脳内でその動作だけ何度も意識しながら近づき、振り下ろせばヴァンデッタテインの刃が届く間合いまで踏み込んだ。

 ……ただ、それでもミルウォークは動く気配がなく、軽く微笑んだまま静止した状態。


 こうなると先に攻撃を仕掛けてそのまま仕留めるか、仕掛けられた攻撃を躱してカウンターを合わせるかの我慢比べが始まる。

 相手の出方を窺うことのできる後者の方が有利なのだが、逆に見極めすぎると攻撃を躱す猶予のない距離になってしまう。


 自分の限界ギリギリを見極める力が必要とされるのだが――ヴァンデッタテインの間合いに入ってから更にもう一歩踏み込んでもなお、ミルウォークはまだ動く気配がない。

 全身の毛穴が全て開き、時の流れが何十倍何百倍にも遅く感じるほど集中力を発揮している中、まだ薄ら笑いを浮かべているミルウォーク。


 あと一歩。あと一歩近づいたらカウンターを合わせるどころではないはず。

 自分の中でそう決め、一歩踏み込んだ瞬間に【剛腕】と【強撃】のスキルを発動。


 スキルを乗せた袈裟斬りを放ったのだが――ミルウォークは後ろに下がる訳でもカウンターを合わせる訳でもなく、まさかの前進をしてきた。

 ヴァンデッタテインは小回りの利かない大剣。

 カウンターを合わせられないギリギリまで近づいたのを逆手に取られた。


 俺は無理やり後退しながら、懐に飛び込んできたミルウォークを斬りにかかったのだが……。

 当のミルウォークは懐に飛び込んで攻撃を仕掛ける訳でもなく、俺の脇の下辺りをそのまま素通り。


 その背中を追って剣を振り下ろしたがヴァンデッタテインは空を斬り、完璧に背後を取られてしまった。

 無理やり追従したためバランスも完全に崩されており、どう対処の取りようもない。

 なんとか防御スキルを発動させ、無防備な背中への攻撃を一発耐えるという方法しか俺に残された手段はなかった。


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