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第370話 イカれた組織


 敵が魔法を使えるのを失念していた訳ではないが、ここまで早く対応してくるのは想定外。

 ……というよりも、【黒霧】の真っ暗闇の中で俺の動きを完璧に補足してきたミルウォークが予想外すぎた。


 流石はクラウスよりも戦闘の才能があると噂されているだけはある。

 ブルーデンスも非常に高い対応力を見せてきて、一人でどうにかできると高を括っていたが……これは予想以上に苦戦を強いられるかもしれない。


 俺は【黒霧】に対応してきたミルウォークを睨みつけているのだが、目の焦点が合っておらず明後日の方向を向いているのがなんとも気に食わないな。

 馬鹿にしている訳ではなく、ただイカれている奴だというのは分かるが……薬で飛んでいる奴に軽くいなされたという事実が俺の中にモヤモヤを残している。

 

「ミルウォークさんが仰った通り、あの爆発を受けていなかったみたいですね」

「ひゃっひゃっひゃ。だから言っただろぉ!? ……動きも速いしこいつ相当やるぞォ?」

「ワタクシはあの目晦ましが気になりますね。――どんなタネなのか教えてもらってもよろしいですか?」


 俺の方を一切見ずに二人で会話をしていたのにも関わらず、急に俺の方を向いて話を振ってきたブルーデンス。

 噂通り、顔立ちは非常に整っているのだが……ミルウォーク同様に不気味さを感じる。

 表情が一切動いておらず、口だけが動いている様子が彫刻が独りでに動いているような感じだ。

 

「殺しに来た相手に質問とは随分と悠長だな」

「ふふふふふ。貴方の方こそ悠長なのではありませんか? ここはワタクシたちのテリトリーなのですよ? 後ろからは仲間が駆けつけに来ておりますし、悠長にしていられないのは貴方たちです」


 そういう理由でこの余裕って訳か。

 下の階層からこっちに向かってきている反応が複数あるし、確かに俺達が悠長にしていられないのは事実。


 だが、応援が駆けつけてくる前にこの二人を仕留めることができる自信はある。

 さっきの不意打ちは失敗に終わったが、今度は正面から殺しにかかろうか。

 狙うのは――簡単に仕留められそうなブルーデンスから。


「ブルー、来るぞォ! 倒しに行かずに堪えるんだぞぉ!?」

「分かっています。お任せください」


 【肉体向上】【戦いの舞】【身体能力向上】【能力解放】。

 戦闘スキルを発動させたことで、僅かに変化した雰囲気のようなものを察知したのかブルーデンスに声掛けしたミルウォーク。

 ……だが、攻撃が来ると身構えたところでどうにかできるはずがない。


 ブルーデンスの下へ突っ込む一歩目を踏み出したと同時に、更に【脚力強化】と【疾風】のスキルを発動させる。

 黒い鞭のようなものを構えてはいるが、ミルウォークに言われた通りガードに徹しようとしているのが見え見え。


 急に速度の上がった俺の動きを追おうとして、視覚に意識が全ていっているのが分かった。

 俺は更に視覚に意識を集中させるため、分身を使ってきた『アンダーアイ』の構成員から盗んだステップを刻みながら一気に近づき間合いに入ったその瞬間――。


「ブルー、あの黒いのが来るぞぉ!」


 ミルウォークがダミ声で指示を飛ばしたが、俺は構わずに【黒霧】を発動させた。

 対処法が分かっている対人相手には【黒霧】は極端に効果が薄くなるが、使う場面を考えればいくらでも効果的に使える。


 増してやブルーデンスは対処法を知っているだけで、俺の【黒霧】を正面から対処した訳ではない。

 ブルーデンスを一発で仕留めるために何重にも策を張り巡らせ、全てを以てして殺しにかかる。


 部屋が暗くなった瞬間に再び【消音歩行】と【隠密】を発動させて闇に紛れ、左側から旋回しつつ真横からブルーデンスに斬りかかった。

 ミルウォークのように対処してくる可能性も十二分にあり得たが、ブルーデンスは俺が全く見えていない様子。


 更には、俺は間合いに入ってからの【黒霧】を発動させたのに風魔法で視界を確保しにかかっているのか、両腕に魔力を溜めているのが分かる。

 【黒霧】を飛ばしつつ、あわよくば俺への攻撃も同時に行うつもりなのだろうが――俺相手にその判断は悪すぎたな。


 ブルーデンスは真正面に風魔法をぶっ放し、その風によって俺の発動させた【黒霧】は一瞬で吹き飛ばされたが、既に俺はブルーデンスの真横でヴァンデッタテインを振り上げている状態。

 【剛腕】に【強撃】と……更にスキルを追加した一撃がブルーデンスの首の裏に直撃し、そのまま腰辺りまでを捉えて斬り落とした。


 何やら防御魔法のようなものを発動させていた様子だったが、戦闘スキルが全て乗ったヴァンデッタテインの一振りをどうにかできることはなく、あっさりとブルーデンスは血を噴き上げながら地に伏せた。

 仰向けに倒れたブルーデンスの死体と目が合うが、死ぬ間際でも表情を変えておらず真顔のまま。


 まるで魔物のように人間味の感じない奴だったな――見下ろしながらそんな風に思った瞬間、ブルーデンスの顔は解けるように崩れ落ちた。

 端麗な容姿のその下の顔はまるで溶けたような爛れた皮膚で、張り付いていた顔とは似ても似つかない醜悪な顔。


 迷わず自死した分身男にウッド、ダグラスダイン。そして、このブルーデンス。

 『アンダーアイ』は『ザマギニクス』という裏組織にすら居場所を作れなかった、あまりにも深い闇を抱えた人間たちの集い。

 俺に殺されたブルーデンスの正体と、そのブルーデンスの死体を見てゲラゲラと笑っているミルウォークを見て、『アンダーアイ』という組織を初めて理解することができた。



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