第362話 会合
情報の擦り合わせを行った翌日。
日が落ちるまではダラダラと過ごしていたが、日が落ちてからは早めに準備に取り掛かりいつでも外に出られるように身支度を整えていた。
「そろそろ出発するけど大丈夫か?」
「もちろん大丈夫だ! 俺はいつでも出発できる!」
「私も大丈夫です。戦闘を行える準備も万全ですよ」
「それじゃ、『レモンキッド』に向かうとしようか」
万全の準備を整え、俺達は待ち合わせ場所である『レモンキッド』へと向かうことにした。
外は人気がなく静まり返っており、どこからか鳥か何かの鳴く声が聞こえる。
目立たないように物陰に隠れながら移動を行い、王都に辿り着いた時にミエルから教えてもらったジュエリーショップである『レモンキッド』へと着いた。
もちろんのことながら明かりは点いておらず、誰もいないかのように静か。
ただ【魔力感知】と【生命感知】で探ってみると、既に到着しているのか店内から複数の生命反応が確認できた。
「これ……俺達が先に着いちゃった感じか? そうだとしたら鍵を持ってないし店の外で待たなきゃいけないぞ」
「いや、既に店内から人の気配を感じ取っている。中にいると思うから大丈夫だ」
「え、本当に人の気配なんかあるのか? ……ヘスターも分かるか?」
「いえ、私は気配を感じ取れていません。でも、クリスさんの索敵にミスがあったことはないので確実にいると思いますよ」
「改めて、クリスはスノー並みの気配察知能力だよな! スキルを魔物から取れるってのは本当に羨ましいぜ!」
「おい、ラルフ。声のトーンを落とせ。静かに俺の後をついてこい」
どこにテンションが上がる要素があったのか分からないが、急に興奮した様子で声量を上げたラルフを宥め、静かに階段を上って『レモンキッド』の店内を目指す。
ドアノブに手をかけると、やはり鍵はかかっておらず簡単に扉が開いた。
「本当に鍵がかかってないじゃん。やっぱ先についてるのか」
「ミエルやシャーロットかは分からないが、奥の応接室に誰かいるのは確実だな」
一人は魔力量的に多分ミエルだが、他の反応からは誰か分からない。
一際強い生命反応を感じるし、これは馬鹿騎士ことゴーティエっぽいが……。
もうゴーティエの生命反応がどんなものだったか覚えていないし、この目で見てみない限り分からない。
襲われても対応できるように警戒しつつ、店の奥にある扉に手をかけて中に入ったその瞬間――。
部屋の入口の真横で待機していた何者かが、間髪入れずに斬りかかってきた。
俺を殺す勢いで斬りかかってきており、剣が振り下ろされる速度も尋常ではなかったのだが、部屋に入る前から心の準備をしていたため十分に対応可能。
俺は足元に飛び込むように体を屈め、剣が体に届く前に斬りかかってきた人物の足元をはらいにかかった。
足ばらいによってコケたことにより、振られた剣は俺の体に届く前に間合いから外れ、その間に襲ってきた人物の腕を掴んで床に押さえつけた。
腕の関節を綺麗に極め、そのままへし折ってやろうとした瞬間に襲ってきた人物が大声で負けを宣告してきた。
「まいった! 俺は王国騎士団三番隊副隊長のギルモアだ! 降参するから離してくれ!」
「襲ってきておいて随分と身勝手だな。お前が本当に王国騎士団のギルモアなのかどうか分からないし、このまま腕を折らせてもらう」
既に部屋の中にはミエルとゴーティエ、そしてシャーロットもいるのが分かっているのだが、いきなり真剣で襲われてイラッときたため脅してから――。
腕を思い切り捻り上げる素振りを見せたところで、ソファに座っていたシャーロットが立ち上がり一つ拍手をしてから声を掛けてきた。
「クリス、非礼は詫びるから離してくれるかしら?」
「……いたのなら襲ってくる前に声をかけろ」
「部屋に入ってきた人物がクリス達とは限らないからね。念には念を入れて、部屋に入ってきた人物を殺すように伝えておいたの」
本当にとんでもない王女だな。
対応できていなければ、俺はこの三番隊副隊長のギルモアとやらに殺されていたって訳だ。
「さすがに動きが鈍ってはいなさそうだな。はっはっはっ、あの時の再戦がしたくて体が滾ってきたぞ!」
「お前、誰だっけ?」
「――なにっ!? 俺の顔を忘れた……だと? いい度胸だ。体に思い出させてもらうとしようかッ!」
ゴーティエが謎に強者ぶっているのがムカついたため、覚えていないフリをしたのだが面倒なことに襲い掛かってきた。
まぁギルモアのが不完全燃焼だから、ゴーティエに代わりのサンドバックとなってもらおう。
ギルモアが握っていた剣を奪い取り、襲い掛かってきたゴーティエに斬りかかったのだが、俺の剣とゴーティエの剣がぶつかる前にシャーロットの声が飛んできた。
「ゴーティエ、やめなさい! ……ここで暴れたら容赦しないから」
「も、申し訳ございません! シャーロット様!」
つい先ほどまでの俺に向けていた怒りは何処へやら、綺麗に動きを静止させて頭を地面につけて謝罪したゴーティエ。
その茶番劇みたいなノリになんだか毒気を抜かれた気分になり、ムカついていたのも馬鹿らしくなってきた。
……部屋の中にいたのがシャーロット達って分かった訳だし、色々と面倒くさいからさっさと本題に入るとしようか。