第361話 合致
ラルフとヘスターが調べてくれた情報で、ようやく四人の幹部の全ての情報が集まった。
既に情報を持っていたプラウズとブルーデンスに加えて、魔物使いベルファインと暗殺者グリゼット。
ベルファインは珍しい魔物使いのようで、基本的には王都とは別の場所で暮らしているらしい。
大規模な戦いの時だけ現れ、大量の魔物を戦闘に投入させるようだ。
主に暗殺を担当しているグリゼットはほとんど情報がなく、唯一分かっていることは元奴隷の獣人族ということだけ。
王国騎士団の隊長であった主人を殺し、逃げ込んだ先が『アンダーアイ』だった――そんな噂話があるとヘスターは言っていた。
クラウスとの決着をつけたら獣人族の奴隷をなんとかすると決めている手前、グリゼットとは正直やり合いたくない気持ちが芽生えてしまっているが、敵となるからには私情を挟むつもりはない。
いくら壮絶な過去があり、そこから自らの力で脱却して『アンダーアイ』に居場所を見つけた人物であろうと……俺は『アンダーアイ』を名乗るからには一切の躊躇もせずに斬り殺す。
「おい、クリス! また怖い顔をしてるぞ!」
「別にしてないっての。それよりも『アンダーアイ』の拠点の位置の情報を擦り合わせたい」
「先ほどお話しましたが、闇市場の建物が並ぶ一角に『アンダーアイ』の拠点があるらしいです。緑色の旗がぶら下がっている建物に怪しい人物が出入りするのを見たという情報もあるようなのですが……こちらの情報は信憑性がかなり低いと思います。色々と聞いて回りましたが出回っている情報はこれだけでしたね」
ヘスターが手に入れた情報を再び話してくれた。
信憑性がないと言っていた情報は俺もピンとはこなかったのだが、白髪の女がいた建物の屋上から緑色っぽい布が雑に垂れていたのを朧気ながら思い出した。
ハッキリとした記憶じゃないし、ヘスターの情報から俺の中で都合の良い記憶に塗り替えている可能性も否めないが……。
実際に俺の情報とヘスターの情報が合致するのであれば、やはり白髪の女がいた建物も『アンダーアイ』の拠点ということになる。
「このタイミングで俺が集めた情報の話をさせてもらうが、闇市場に潜入した時に『アンダーアイ』の拠点らしき建物を見つけた」
「へっ!? お前、追われている身なのに闇市場に入ったのかよ! 見つかってないだろうな!?」
「そこは心配いらない。しっかりとバレないように行動していた」
「それで拠点らしき建物って一体何だったんでしょうか? もしかして先ほどの情報と合致する点があったんですか?」
流石はヘスター。理解が早くて話が進めやすい。
「その通りだ。その拠点らしき建物に緑色の布のようなものが垂れていた気がする。ただ布なんか意識して見ていた訳じゃないし、かなり曖昧な記憶なんだけどな」
「でも、クリスはその建物を怪しいと思ってたんだろ? そんで俺達が集めた情報と合致した点も見つかった! ……こりゃ、拠点はそこで間違いないんじゃねぇか!」
「私もそう思います。ちなみにクリスさんはなんでそこが『アンダーアイ』の拠点だと思ったんですか?」
「闇市場で露骨に探し回ることはできないから、魔物を索敵するように強い生命反応を持つ奴がいないかを見て回ってたんだよ」
「なるほど。その緑色の布があった建物から強い生命反応を感じ取った訳ですね」
「そういうことだ。ちなみにだが強い生命反応は複数感じられて、一つの建物じゃなくてその付近に密集していた」
「まだ確定した情報じゃありませんし、明言は避けた方がいいと思いましたが……そこが『アンダーアイ』の拠点で間違いないと思います」
「俺もヘスターと同じ意見だ! 絶対にそこが『アンダーアイ』の拠点だって!」
二人も俺と同じ意見なようで良かった。
ヘスターと同じく決めつけるのはよくないと思うが、ここまで情報が一致している以上ほぼほぼ間違いない。
「やっぱりそう思ってくれたか。二人の情報を聞いた時にまず間違いないと思った」
「他に何か情報はないのでしょうか? その建物で白髪の女性を見たということは、近くまで行ったってことですよね?」
「慎重に動いたから正直大した情報は得られていない。ただ、レアルザッドで戦闘を行った奴らと同じような黒ローブに身を纏った人間を、白髪の女がいた建物の横の建物で見た」
「やっぱ絶対にそうじゃねぇか! 重要な情報を得られなかったとか言ってたけど、重要すぎる情報だぜ!」
「ちなみにだが、その白髪の女が一番強い生命反応を持っていたな。俺はその女が幹部のブルーデンスだと睨んでる」
「その建物が『アンダーアイ』の拠点でしたら、ブルーデンスで確定だと思います。……部屋に籠もらずに情報集めをして良かったですね。王女様にこちらからも良い報告ができますよ」
「だな。二人もずっと出ずっぱりでよく情報を集めてくれた。待ち合わせの時間である明日の夜中までは、部屋に籠もってゆっくりと体を休めるとしよう」
「賛成! ふぅー、やっと落ち着いて体を休めさせられるぜ!」
情報のすり合わせを終えた俺達は、明日のシャーロットと会う時間まで体を休めることに決めた。
俺に関しては体は休まりきっていると言っても過言ではないのだが、明日から何が起きるか分からない。
シャーロットの判断によっては、明日いきなり拠点に攻め込む――なんてこともあり得るため、二人と同じようにゆっくりと体を休めることに決めた。





