第357話 隠密行動
イザベルにはしっかりとここに泊まる経緯を説明し、俺達が『アンダーアイ』に狙われているという事実にまた驚いた様子を見せたものの、なんとか理解してもらうことができた。
安全に寝泊まりする場所を見つけることが解決したものの問題はここからであり、ミエルと約束した三日後までにやれることをやらなくてはいけない。
「クリス! ここからはどう動くんだ? それとも目立たないようにジッとしてるのか?」
「いや、三日後までに少しでも情報は集めたいと思ってはいる。目立たないようにしたいのは山々なんだけどな」
「でも、クリスさんは顔が割れているんですよね? 情報集めは私とラルフで行った方がいいんじゃないでしょうか」
ヘスターの言う通りで、俺が情報を集めに行くのはリスクが高い。
まぁだからこそ、普通の宿屋を取らずにこうしてイザベルの家に上がり込んでいる訳だしな。
その事実を考えたら俺は一人でジッとしていて、二人に情報集めを頼む。
これが一番安全な策だと思うのだが、今回は俺も情報を集めに行こうと考えている。
「いや、情報集めは三人で行う。二人はこれまでと同じように情報を集めてほしい。俺は違ったアプローチで情報を集める」
「違ったアプローチ? 違ったアプローチってなんだ?」
「隠密行動をしつつ街の中をうろつくつもりでいる。情報屋から情報を聞くんじゃなくて、街全体から何かしらの情報を得ろうと思っているんだ」
「なるほど! それは私も良い方法だと思います。クリスさんは隠密行動もできますし、『アンダーアイ』の情報だけでなく王都の地形を把握するという意味でもやるべきだと思いますね」
「よく分からないけど、ヘスターも良いって言うなら俺もいいと思う!」
正直リスキーな行動だが、ヘスターもラルフも迷いなく賛同してくれた。
……まぁラルフは流れで賛同してくれたって感じだが。
「それなら一度体を休めてから、別々に行動して情報集めを行おう。そっちは正当な手段で『アンダーアイ』についての情報集めを頼んだ」
「任せてください。目立たないように行動しつつ、情報集めを行わせて頂きます」
「クリスも見つからないように気をつけて動けよな!」
「ああ。ヘマはしないから安心してくれ」
三日間の動きが決まったところで、早速借りた部屋で睡眠を取ることにした。
既に完全に日が昇っているが、急遽王都へとやってくることを決めてから眠れていなかったし、本格的に活動するのは目立ちにくい夜になるだろうから丁度いい。
長年使われていなそうな布団を床に敷き、俺はすぐに就寝したのだった。
目が覚めたのは眠ってから約五時間後。
辺りはすっかり橙色に染まっており、寝る前は昇っていた日が落ちかけている。
正直な話、まだまだ眠り足らないところだが……だるくて重い体を無理やり起こし、外へ出る支度を整えることに決めた。
部屋の中を見てみたがラルフとヘスターの姿はなく、二人は既に情報集めへと出て行った様子。
俺と同じくらいの疲労感なはずなのだが頑張って働いてくれていることに感謝しつつ、俺も顔が隠れるローブを身に纏い王都の街へと繰り出した。
さて、まずは何処から回ってみるとしようか。
『アンダーアイ』の情報を集めるとしたら闇市場に向かうのが一番良いのは間違いないのだが、今回の情報集めに関しては王都の地形を把握するという意味も込められている。
どうせ王都中を回ることになる訳だし、今いる西地区から回ってみるとしよう。
【隠密】【消音歩行】【変色】のスキルを発動させ、とにかく目立たないように存在感を消して動く。
いつ襲ってくるか分からない『アンダーアイ』に備えて索敵スキルも発動させ、人目につかないように西地区を見て行くことに決めた。
孤児院からイザベルの家までの道は実際に見ているが、他の場所も変わった様子のない住宅区域といった場所。
店らしい店もなく一番珍しい建物が孤児院と思うほど、西地区は住宅という面に特化した区域。
すれ違う人も仕事帰りの人が多く、たまに冒険者らしき人も見るが悪党といった感じはしない正当な冒険者ばかり。
道もしっかりと整備されていて、裏通りや裏路地のような怪しげな場所もないし……これ以上西地区を探して見ても何も見つからないかもしれないな。
約一時間の散策でそう感じるほど、王都の西地区は平和な感じだった。
もう少しだけ周辺の道を頭に叩き込んでから、別の区域の情報集めに移るとしよう。
それから更に一時間の散策を終えたところで、西地区の情報集めは終えることにした。
特に怪し気な場所もなく無事に散策することはできたものの、役に立つ情報も手に入らなかったため不完全燃焼感が凄い。
気を取り直し、次は別方角の区域へ行ってみるとしようか。
門のある街の南から中央までは栄えていて、北に進むにつれて人が減り始めて身なりの良い人間が増えてくる印象。
街の東は闇市場があるため言わずもがな治安が悪く、次に情報集めを行うとしたら街の中央だろうか。
ただ、西地区の散策で良い感じに時間を潰すことができ、辺りはすっかりと暗くなっている。
夜になったばかりで人はまだ多いだろうし、辺りが暗いのに人混みに紛れることができる絶好の時間帯のため、一番危険と思われる東地区の情報集めを今の時間帯に行いたい。
順番的には中央を散策するのが効率が良いのだが、中央のメインストリートをすっ飛ばして東地区に行くとしよう。
直感でそう決めた俺は急いで西地区を離れ、『アンダーアイ』の拠点があるとされる東地区の情報集めへと向かったのだった。