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第356話 孤児院


 俺達に湯気の立った白湯を出してくれ、少し冷えた体を温めるように飲んだ後に本題を切りだした。


「俺達は実は追われている身で何処か身を隠したいんだが、良い場所があったら教えてくれないか?」


 急にぶっこんだこともあってか、婆さんは口をあんぐり開けて驚いたような表情を見せた。

 婆さんシスターの紹介とはいえ、こんなことをいきなり話すのはどうかとは思ったが、王都についての情報が何もない以上頼れるものに頼るしかない。


「……突飛な話で久しぶりにビックリしてしまったよ。追われている身って一体誰に追われているんだい?」

「『アンダーアイ』って知っているか? 俺達はその組織に追われている」

「もちろん知っているよ。王都じゃ有名な悪党だからねぇ。……そんな悪党どもに追われているって一体何をしたのさ」

「んー、まぁ……色々と揉めてしまってな」


 狙われている理由を話すとなるとクラウスのことまで話さなくてはいけなくなるため、俺は理由は話せないという空気を醸し出させる。


「理由は話せない――と。『アンダーアイ』と揉めている訳だからあんた達が悪い奴らだということはないんだろうけど、相手が相手だけにあまり関わりたくないから悩むねぇ」

「宿屋の情報だけでも教えてほしい。すぐに出て行くし、この孤児院に迷惑をかけるつもりはない」

「……分かったよ。ジャンビエの知り合いな訳だし、特別に身を隠すにうってつけの場所を教えてあげよう」

「ありがとう。恩に着る」

「この西地区の南にある赤い屋根の家に行ってみるといい。私はウゼフって言うんだけど、そこの家の人に私の名前を出せば泊めてくれるはずだよ」

「南にある赤い屋根の家だな。紹介してくれてありがとう。揉め事が片付いたら必ず礼をさせてもらう」

「別に構わないさ。ただし、絶対に巻き込まないでおくれよ」

「ああ。絶対に巻き込まないと誓う」


 ウゼフに深々と頭を下げてから、俺達は孤児院を後にした。

 西地区の南にある赤い屋根の家。どうなるかまだ分からないが、もしかしたら匿ってくれるかもしれない。

 婆さんシスターのジャンビエとウゼフに感謝の念を抱きつつ、南を目指して歩を進めた。


「おっ、赤い屋根の家ってあそこじゃないか?」

「宿屋とかではなく、普通の一軒家っぽいですね。確かに一軒家なら身を隠すのにうってつけではありますが……はたして三人も泊めてくれるのでしょうか?」

「分からないが行ってみるしかない。ここが駄目ならば普通に宿屋をとるとしよう」


 王都に辿り着いた時とは違い、ちらほらと人の姿が見え始めてきたがまだ朝一。

 一軒家なこともあって訪問するのは少し気が引けるが、今は他人のことを考えている余裕もないため遠慮なくベルを鳴らした。


 家の前についているベルを数回鳴らし、中から誰かが出てくるのを待っていると……。

 扉が開き、中から髪の毛が寝ぐせによって爆発している薄着の女性が出てきた。


「…………え? どちらさま?」

「孤児院を営んでいるウゼフっていう人の紹介で訪ねてきた。少し中に入れてもらうことってできるか?」

「えっ、こんな朝早くに!? ……ウゼフさんの知り合いってことなら断れないなぁ。少しだけ準備するから待っててもらっていいですか?」

「もちろん構わない」


 この家の主であろう寝起きの女性はそう言うと、急いで家の中へと戻って行った。

 それから準備を整えたようで、戻ってきた時には髪の毛も大分落ち着いた感じになっていた。


「お待たせしました。中に入っていいですよ」

「遠慮なく入らせてもらう」

「すいません。お邪魔させて頂きます」


 断りを入れつつ、家の中へと上がらせてもらった。

 中は外から見たよりも広く感じ、オックスターで借りていた家ほどではないが部屋の数もそこそこある。

 あまり部屋の中をジロジロと見ないようには気をつけながら、案内されるがままリビングへと向かった。


「それで何の用で訪ねてきたんですか? ウゼフさんの紹介ってことは……例の食材が欲しいとかですかね?」

「例の食材? 例の食材はちょっとよく分からないが、俺達が訪ねてきた理由はここに泊めてほしいというお願いをしにきたんだ」

「えっ!? ここって……私の家にってこと?」

「そうだ。ここの家だったら泊めてくれるだろうという、ウゼフのお墨付きをもらってきた」

「えー……。三人ですもんね」

 

 露骨に嫌な表情を見せ、頭を抱え始めた家の主であろう女性。

 心情的には即断りを入れたいのだろうが、ウゼフによっぽどの恩があるのか言い渋っている。


「金ならしっかりと払う。長くて二週間ほどだけだ。頼む」

「お願いします! 手伝いとかならなんでもやる!」

「…………むむむ。……分かりました。ウゼフさんの紹介ですし、二週間くらいなら泊めます」

「ありがとう。恩に着る」

「ありがとうございます! 本当に助かりました!」


 相当嫌がってはいるが、なんとか王都での拠点を見つけることができた。

 とりあえず迷惑をかけないことと、金だけはしっかりと払わないといけないな。


「私は基本的に奥の部屋を使ってますので、リビングまでに見えた手前二つの部屋を好きに使っていいですよ」

「二つも部屋を貸してくれるのか?」

「まぁ物置みたいになってますからね。……あっ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私はイザベルと申します。三人はなんて名前なんですか?」

「俺はクリスという」

「俺はラルフだ!」

「私はヘスターと申します。イザベルさんよろしくお願いします」


 きっちりと自己紹介を済ませ、俺達はイザベルに深々と頭を下げた。

 それから荷物を借りた部屋へと置き、少しでもイザベルと親交を深めるべく朝食を頂きながら軽い雑談を行ったのだった。



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