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第352話 線引き


 互いの主張で盛り上がった熱も少し冷め、ヘスターとラルフも水を飲んだことで大分落ち着きを取り戻した様子。

 先ほど二人を頼ると約束したものの一つ伝えて置かなければいけないことがあるため、落ち着いたこのタイミングで話を切りだすことにした。


「少し話を戻していいか? さっき二人を全面的に頼ると言ったが一つだけできないことがある」

「……へ? できないことってなんだよ。――つうか、何か胸がムカムカして気持ち悪いんだけど」

「酒飲んだからだろ。顔も赤いし、初めてなのに一気に飲んだせいだろうな」

「糞親父はこんなものをよく好き好んで飲んでいたな。俺はもう二度と酒は飲まん。……それより、できないことってなんだよ! 全面的に頼るって約束したんだぞ?」

「そうだが、二人に人を殺すことをさせるつもりはない。これだけは頭に入れておいてくれ」


 俺がそう宣言すると、ピンと再び空気が張り詰めた気がした。

 

「それは何か理由があるのでしょうか?」

「理由? 人が人を殺さないことに理由なんてないだろ。こんな時世だし人が人を殺す機会もあるが、殺さないことに越したことはない。……何人もの人間を手にかけた俺が言うんだから間違いない」


 俺が今まで手をかけた相手は襲われた場合のみなのにも関わらず、かなりの頻度で夢に殺してきた人間たちが出てくる。

 気を強く持って復讐のためと自分を言い聞かせているけど、それでも人を斬った感触は未だに手に残り続けているのだ。


 ……ただ悪夢を見ている内はまだ自分が人間だと思えているからまだいい。

 最近は徐々に自分の中で殺しに対しての躊躇いがなくなってきているのが分かる。

 ラルフとヘスターには、俺と同じ場所まで堕ちてほしくない。

 

「だからクリス一人に背負わせたくないんだっての。さっきも言ったけどどんな負担も三人で背負おうぜ!」

「いや、ここだけは譲れない。この条件だけは絶対に呑んでもらうぞ」

「私は呑みますよ。どうしても躊躇してしまう部分がありますし、大事な場面で実行できなかったことを考えるとやらないが正解だと思いますので。できることならば、クリスさんにも人を殺しては欲しくないですけどね」

「俺だってその気持ちはあるから安心してくれ。俺が手をかけるのはそれ相応の場面だけだ」


 ヘスターはすぐに条件を呑んでくれて助かった。

 最初から人を殺すことには躊躇していたし、本心で人を殺すことに対して忌避している。

 ラルフもヘスターと同じ意見だろうし、条件を呑んでくれれば助かるんだが……。


「俺は嫌だぞ! そもそも俺は盗人をやってた悪人だ! クリスが心配してくれるのは嬉しいけど、そんな心配をされるほど善人じゃないんだよ!」

「盗人だったのは実際にやられた俺がよく知っている。ただそれ以上に二人が悪人でないことを理解しているつもりだ。盗人だって生きていくために仕方なくで、できることならばやりたくなかっただろ?」


 指摘は図星だったようで、反論を言い淀んでいるラルフ。

 

「俺もラルフの話を聞いて完全に信じるって決めたんだ。この条件だけは呑んでくれ」

「……わーったよ! でも、もしもの時は俺も一線を越えるってことは頭に入れておいてくれ!」

「分かった。これで俺の言いたいことも全て言い終えた」


 再び三人で大きく息を吐き、張り詰めた空気が緩和された。

 いつもとは違った方向性の話し合いのため、なんだかいつもの何倍も疲弊した気がする。


 ドッと疲れも感じ始めたところだし、ここらでお開きにして眠りたいところだがついでにもう少しだけ話し合いたい。

 もちろん今後の方針についてで、『アンダーアイ』をどうするかを決めたいのだ。


「ラルフの話は終わっただろ? 次は俺の話に移っていいか?」

「えっ? クリスの話まだあるのか?」

「俺達の関係についての話じゃない。ついでに今後の方針についてを決めておきたいと思ってな。……二人は『アンダーアイ』についてはどう考えている?」

「私は戦うしかないと思っていますよ。向こうが狙ってきている訳ですしね」

「俺もヘスターと同じ意見だ! 戦うしかないと思ってる!」


 二人も既に腹を決めていたようで、悩むことなく即決で答えてくれた。

 となってくるのであれば、返り討ちにするだけでなくこちらから叩きたいところ。


「俺も二人と同意見だ。クラウスの前に『アンダーアイ』を潰そうと思っている。絶対に邪魔になるのは目に見えているからな」

「判断は間違っていないと思いますけど、居場所については聞き出せているんですか?」

「王都の闇市場のどこかを拠点にしているってのは、尋問した時に聞き出している。シャーロットの使いが来たら事情を説明し、王都へ向かうタイミングで先に『アンダーアイ』に仕掛けるつもりだ」

「異論はない! 次は俺も全力で戦わせてもらう!」

「私も良いと思います。次の狙いは『アンダーアイ』ってことですね」

「賛同してくれて助かる。……次は二人にもガンガン戦ってもらうから、今の内から心の準備をしておいてくれ」

「こっちはとっくのとうに心の準備が出来てるんだよ! 任せてくれ!」


 三人で静かに拳を合わせ、これからの方針が決まった。

 ひとまずシャーロットの使いが来るまでは待機だが、連絡が取れ次第——王都へと乗り込んでまずは『アンダーアイ』をぶっ潰す。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] むちゃくちゃや 命か関わるのに殺すなはあかんやろ パヨってレベル越えてるわwwww
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