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第351話 本音


 俺はほどほどにお腹が膨れ、ラルフとヘスターは大分出来上がっている様子。

 ここまで一切話し合いは行っていなかったのだが、ラルフが唐突に話を切りだしてきた。


「クリス、そろそろ話し合いを始めようぜ! 今の感じなら遠慮なしで何でも言える気がする!」

「別にラルフは普段から遠慮なしで喋ってるだろ。そんで話し合いって何の話し合いをするんだ? 提案したのはラルフなんだし仕切ってくれよ」

「わーってるよ! まずは……俺とクリスのことについてだ! 廃屋での一件、忘れたとは言わせねぇぞ!」


 ラルフが言っているのは、パブロの殺しをラルフにやらせなかったことだろう。

 本心ではないとは言え怒鳴った訳だし、ラルフの中では相当引っかかったように思える。


「忘れてない。ラルフを怒鳴った件についてだろ?」

「まぁ怒鳴られたことも引っかかってはいるが……そこじゃなくて俺にあの男を殺させなかったことだ! 結局、今回も全てクリス一人で片付けちまったし、エデストルでも大抵はクリス一人で色々と行動してきた! 俺を信頼できねぇなら面と向かって伝えてくれや!」


 酔っていることもあってか、自棄に声を張り上げてそう叫んだラルフ。

 ……別にラルフを信頼していないとかではなく、俺は一線を越えさせたくないだけ。


 エデストルに関してはバハムートの洞窟だけだし、俺が一人でこなそうと動いているのは人間を殺す時のみ。

 他は全面的に信頼しているのだが、何て説明したらいいのか正直分からない。


「信頼していない訳がない。こうして一緒の部屋で寝泊まりしている時点で信頼しているに決まっているだろ」

「じゃあなんで俺に大事な仕事は任せないんだ? 答えてくれなければ、俺は一生胸にモヤモヤを残したまま過ごすことになるんだよ!」

「大事な仕事だって任せてるだろ。シャーロットへの使いだって大事だと思っている仕事の一つだ」

「……口を挟もうか迷ったのですが、クリスさんは大事な仕事を私達に任せていないと思います」


 ラルフを説得しようと動いていたのだが、まさかのヘスターからもそんな言葉が飛び出てきた。


「……ヘスターもラルフと同じことを感じていたってことか?」

「私は若干違いますけど、大事というか危険な仕事を任せてもらえないというのはずっと思っていました。もちろん私とラルフの力不足な面もありますが、もっと信頼してほしいんですよ」

「何度も言うが俺は二人を信頼している」

「だったら、俺達にも――」

「信頼はしているが、一線を超えてほしくないとも思っている。……正直に全て話すが、今行っていることは全て俺の身勝手なもの。ラルフやヘスターには関係がないのに巻き込んでしまっているからこそ、俺なりの線引きをしているんだよ」


 そう。パーティを組む際にクラウスを倒す手伝いをさせる約束を取り付けたが、当時と今とでは俺の感情にも大分変化が生じている。

 使えると思って仲間に引き入れたし、何でもやらせるつもりでパーティを組んだが、もう既にラルフとヘスターは期待以上の仕事をこなしてくれた。

 だからこそ俺の中で線引きをして、危険なことや一線を越えることは頼まないようにしている。


「そんなこと最初から知ってて手伝ってるんだよ! 元々パーティを組んだ理由が、クリスの弟のクラウスを倒すためだったろ? 俺もヘスターもとうに覚悟が決まってるのに、勝手に線引きして突き放すんじゃねぇ!」

「だから、それは俺なりの配慮——」

「そんな配慮はいらないって言ってんだ! 俺は全てをクリスに預けてる! だからクリスも全てを預けろって言ってんだ! 信頼しているって言うんならな!」


 テーブルに身を乗り出し、少しでも俺に近づいてそう叫んだラルフ。

 ……本当に難しいし、どう返答したらいいのかが纏まらない。


「私もラルフと同じ意見です。まだまだクリスさんには及びませんが、必死に努力して力はつけてきました。もう守られるだけなのは懲り懲りなんですよ。……バハムートの洞窟でただ待っているだけの時にそう強く思ったんです」


 熱く語りかけてくるラルフと、静かに淡々と心境を話してくるヘスター。

 俺はずっと二人を自分の都合で巻き込んだと思っていたが、二人はそんなつもりは更々なかったってことか。


 ――なら、俺ももう遠慮することはしなくていいのかもしれない。

 危険な仕事は遠ざけていたつもりはなかったってのも本音だが、今後はガンガン前線で戦ってもらおう。


「分かった。二人が構わないって言うのであれば、ガンガンに危険な場面を請け負ってもらうぞ。……例え、そのせいで死んだとしても俺に文句は言うなよ」

「よっし、任せろ! 絶対にキチンとこなしてやるし、死ぬことなんてねぇよ!」

「ですね。私達は死にませんので安心して任せてください」

「ふっ、頼もしい限りだ。……まぁでも、別に今まで変わらない気もするんだけどな。全ての危険な場面で一緒にいた記憶しかないし」

「私とラルフは居ただけなんですって。今日の戦闘だってクリスさん一人でしたし、バハムートの洞窟もカルロの時もグリースの時もヴェノムパイソンの時も……全てクリスさん一人で片付けてしまっていました!」

「そうそう! でも、任せるって言ったんだから今後は任せろよな!」


 確かに言われてみれば、重要な場面では一人で戦っていたんだな。

 完全に無意識だったし、無意識下で二人を守ろうという意識が働いていたのだと思う。


 酒のお陰もあって珍しくヘスターも本音をぶち撒けてくれたし、少しギクシャクしていたラルフとの関係も和らいだ。

 今日ばかりは酒に感謝しないといけないかもな。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 読みやすく面白い [気になる点] 魔物や盗賊、殺し屋が蔓延る世界の現地人なのに殺しの倫理観が現代日本なのは違和感ある
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