第339話 繋がる情報
情報屋から情報を聞き出した日から四日が経過した。
目立つような動きも取れないため、レアルザッドに残ってやれることはほとんどなく、この四日でやれたことと言えばいつでも動くことができるように買い出しを行ったぐらい。
ペイシャの森にでも潜っていた方が有意義だったかもしれないが、まぁ何にせよ二人とスノーが王都から帰ってくるまではやれることが少ない。
今日もレアルザッドの街を出歩いて、怪しい奴がいないかの見回りに行こうと思ったそんな時。
部屋の扉が開かれ、勢いよく中へと入ってきたスノーが俺に飛びついてきた。
「クリス、部屋にいたか! 帰ってきたぜ!」
「おかえり。シャーロットとは会えたのか?」
スノーに顔をベロベロと舐められながら、俺は笑顔を見せているラルフとヘスターに尋ねた。
予想していたよりも早い帰還だったし、念のため聞いたが恐らく会えたと思っている。
「しっかり会えたぜ! ミエルに会って、シャーロットに会った!」
「私が詳しく話させて頂きます。前回の情報屋を使おうとしたところ、既にミエルさんが手を回していたようでその情報屋を通じてすぐに会うことができたんです」
ラルフの馬鹿みたいな報告にため息を吐いたヘスターが、代わりに何があったのかを説明してくれた。
前回の情報屋と言うと……おっさんなのに女性のような言葉を使うあの情報屋か。
帰り道でミエルに襲われた時、俺のことをミエルに知られたのがあの情報屋だったし手を回していてくれたのだろう。
文句を垂れているところしか見ないからイメージは良くないが、ミエルは意外と仕事ができるようだな。
「だから帰還がこんなに早かったのか。流石に色々と手を回してくれているみたいだな。……それで、シャーロットは何て言っていたんだ?」
「しばらくレアルザッドで待機していてくれとのことです。どうやら『アンダーアイ』という組織がクリスさんを嗅ぎ回っているらしく、今は手引きできないと言われました」
「『アンダーアイ』が俺を嗅ぎ回っている? シャーロットがそう言っていたのか?」
「はい。クリスさんは『アンダーアイ』って組織に心当たりがあるんですか?」
「ああ。二人とスノーが王都に行っている間、ヘスターから教えてもらった情報屋から俺を襲った人物についての情報を貰ったんだ」
「まさか、クリスさんを襲った人物が……」
「そう。十中八九、『アンダーアイ』の構成員だった」
王国周辺で張り込んでいてたまたま遭遇したと思ったが、まさか俺狙いだったとはな。
ピンポイントで俺を狙って組織を動かすほど、クラウスは俺の存在を気にしているってことなのか?
枢機卿まで使って調べさせていたぐらいだし、あり得ないことではないと思うが……。
どうもクラウスの動きのようには思えないんだよな。
「なら、もう俺達がレアルザッドにいることを嗅ぎつけられたってことかよ! ここから離れないと危険なんじゃねぇか? 先手を打つつもりだったのに、後手に回ることになるぞ!」
「判断が色々と難しいんだよ。俺がレアルザッドにいることを知っていたとしたら、一人で尾行させる理由もないからな。王都に行くのを見送ってからの五日間。俺はレアルザッドの街をくまなく回っていたが、『アンダーアイ』の一員らしき人物は見ていない」
「つまりは……まだクリスさんを探している最中で、見つかったと同時にクリスさんも見つけたって感じですかね」
「そう考えるのが妥当だと思う。情報屋によれば『アンダーアイ』は少数精鋭。人数の暴力で攻められる心配はないし、俺はシャーロットの指示通りレアルザッドに留まっていてもいいと思っている」
『アンダーアイ』が俺を探しているのは間違いないだろうが、まだ見つけ出していないと見ている。
仮にもし見つかっていたとしても、襲ってきたら返り討ちにしてやればいい。
一番問題なのはクラウスに来られることだが、そこはシャーロットが先に俺達に伝えてくれると信じている。
「本当に大丈夫かよ! かと言って、他に行き場もねぇしなぁ……。王女に俺達がレアルザッドに滞在していることを伝えた訳だし、ここに留まるのが正解な訳か」
「私も留まる以外の選択肢はないと思います。仮にクラウスにバレてしまったとしても、後手を踏むことにはなりますがそこで決着をつけてしまえばいいんですからね!」
「そうだな。極力身を潜めるつもりだが、無駄に意識はせず生活しよう。俺が索敵を行えるから出歩く時は三人固まって動くことだけを約束として決め、それ以外は普通に過ごそうか」
「了解! シャーロットの使いが来るまでは普通に過ごそうぜ! ってことで、王都へ行く前に約束した裏通りの散策。クリス、忘れてないだろうな?」
ニヤリと笑って俺の顔を見てきたラルフ。
俺が襲われたため後回しにしたことで無くなったと思っていたが……ラルフはどうしても裏通りの散策に行きたいようだな。
普通に過ごすと言った訳だし、警戒はしつつも裏通りの散策に行くとしようか。
「忘れてない。明日は裏通りの散策に行くとするか」
「やったぜ! 色々とクリスに紹介したい店もあんだよ!」
「裏通りの散策、いいですね。ですけど、私は表通りの散策もしたいです」
「なら、表通りの散策は明後日に行こうぜ」
「うっしゃー! 楽しみだぜ! ……ってか、なんで明日なんだよ! 今日行こうぜ!」
「急に行かせた訳だし、王都までの旅で疲れてんだろ。大人しく休んどけ」
「全然疲れてねぇよ! なぁなぁ、今日行こうぜ!」
明日まで待てないのか騒ぎ立てるラルフを宥めてから、俺は一人でレアルザッドの見回りへと出た。
ひとまず今後の方針が決まった訳だし、『アンダーアイ』への警戒はしつつも楽しむとしようか。